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ディスクローターにプツプツ空いている穴は何のため?

思った以上に役目が多い!?

いまやスポーツバイクはオンロード・オフロード問わず、原付2種のスクーター等でもディスクブレーキを装備している。そしてディスクローターには、もれなくプツプツと小さな穴が開いている。じつはこの穴、けっこういろいろな役目を持っているのだ。

まず主な目的は「放熱効果」。ディスクブレーキはある程度温度が上昇しないと効きが悪いのだが、とはいえ山道の下り坂で頻繁にブレーキをかけたり、サーキット走行等で強いブレーキングを繰り返すと、発熱し過ぎて効きが悪くなる状態に陥る。そこでたくさん穴を開けることでディスクの表面積を増やし、放熱性をアップしているというわけだ。

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スーパースポーツはもちろん、現在は原付2種(125ccクラス)以上のほとんどのバイクが穴開きディスクを装備している

次が軽量化。現在の市販バイクのディスクローターは、材質がほとんどステンレスで相応に重い。しかも制動力をアップするには摩擦の速度が高まる大径化が有効で、この重い材質で直径が大きくなればかなり重量増になる。路面と同じ動きをするバネ下重量が重くなると、慣性力の影響で路面の追従性が低下する。また高速で回転すると、重ければその場に居続けようとするジャイロ効果も強くなり、これも路面追従性の悪化やハンドリングの重さに影響するため、ディスクローターは軽くしておきたいところ。
そこで大量の穴を空けることで軽量化をはかるのだが、たとえば旧車の穴の開いていない小径のディスクと、現行の穴開き大径ディスクとの両方を手で持つとその違いに驚くほど軽くなっているのだ。

他に「クリーニング効果」もある。これは摩擦によってブレーキパッドが削れることで生じるブレーキダストと呼ばれるカスを、ディスクローターの表面から取り除く作用のコト。
これは雨天時の水膜を拭うのにも効果があるので、ブレーキのかけ始めにディスクが濡れていると摩擦係数が低いためほとんど効かないという状態が瞬時に解消され、制動力が発生するまでのタイムラグを短くできる。
このクリーニングに関しては、ディスクの穴よりも、ディスク表面に溝を刻んだ「スリットディスク」の方が効果が大きいという説もある。またダート走行で泥汚れの激しいオフロード車だと、ディスクの外周が大きく波打った形状の「ウェーブディスク」や「ペタル(花弁)ディスク」をよく見るが、これもは積極的に泥や水を掻き落とす効果があるのだ。

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ダートを走行する機会の多いオフロードモデルは、泥や水を掻き出して排出する効果の大きい外周が波打ったウェーブディスク(ペタルディスク)を装備する車種が多い。ルックス的に迫力(?)があるため、近年はオンロード車用にもカスタムパーツとして数多くリリースされ、標準装備するオンロードモデルも存在する

また、あまり知られていないのが「ガス抜き」の効果。材質や製法にもよるが、ブレーキパッドは高温になると摩擦材に含まれる樹脂などが気化してガスを発生する。このガスがディスクローターとブレーキパッドの間で膜になり、制動力を落とすフェード現象の一因になる。しかしディスクに穴が開いていればガスが抜けて膜にならない……ということになる。

市販バイクのディスクローターに穴が開いたのは1970年代の後半ごろから。それまでの穴の開いていないディスクと差別化するために、当初は「ドリルドディスク」と呼ばれていたが、比較的短期間で多くのバイクが穴開きディスクを装備したので、今では使われない呼び方になった。ちなみに四輪車の場合は、乗用車は現在も穴の開いていないディスクが主流で、穴開きディスクはスポーツタイプ用の高性能装備という意味も込めて、ドリルドディスクと差別化して呼んでいる。

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1969年に発売されたホンダのCB750Fourが、市販量産車で世界で初めて油圧式ディスクブレーキを装備。小径シングルディスクと片押し1ピストンのキャリパーのセットは、重量とパワーのある大型バイクを止めるには、現代のレベルで見ると少々役不足に感じるが、当時のドラムブレーキでは高速からかけるとフェードしやいのを打破した最新のテクノロージー。ここから10年ほどで小中排気量のスポーツバイクもほとんど油圧ディスクブレーキが装備された

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日本メーカーは1970年代後半から穴開きディスクを採用。写真は1979年のカワサキZ1000 MkⅡの不等ピッチ孔ディスク。放熱性や軽量化、雨天時の他に、穴を不等間隔で開けることでブレーキ時の共振を抑えてハンドリングへの影響を無くし、ブレーキの鳴き防止も目的だったと言われる