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エンジンの前後長が短くなってきたのはなぜ?【教えてネモケン032】

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A.長いスイングアームで安定したトラクション効果を得るため

カワサキZ1などの昔のエンジンは堂々としていて格好いいなと思います。
対して、現代のスーパースポーツのエンジンはコンパクトなつくりになっています。
なぜこんなにも前後が短く、コンパクトになってきたのでしょうか?

エンジンの前後長を短くしたその狙い

‘70年代に入ると750cc以上の大排気量の並列4気筒エンジンを搭載する様々なバイクが誕生しました。当時はまだ空冷エンジンが主流で、右側にはクラッチハウジングの大きな膨らみがあるなど、迫力があるものが多かったですよね。いま見ても美しく、威風堂々としていてボクも大好きなカタチです。

それに比べて近年の、特にスポーツモデル向けのエンジンはとてもコンパクトに仕上がっています。クラッチは膨らみが小さくなり、しかもクランクシャフトの真後ろではなく、シリンダーの背後に迫る高い位置に設置されています。そして反対側のドライブチェーンを駆動するエンジン側のスプロケットがクランクシャフトの真後ろにあります。

この変化の大きな理由はエンジンの前後長を短縮するため。昔のエンジンのように、横から見てクランク軸+ミッションのカウンター軸+ミッションのドライブ軸を一直線に並べるのではなく、カウンター軸を上に配置することで、ドライブ軸を下へ配置する逆V時配列として、前後長の短縮化を実現しているのです。
上のタイトル写真はBMW S1000RRの並列4気筒エンジンですが、ご覧のように前後長がずいぶんと短くなり、縦長になっているのがわかります。

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ひと昔前は各軸水平配置が主流だった

写真はカワサキZ1('72年〜) のエンジンだが、当時のエンジンはクランク軸、ミッションのカウンター軸、ミッションのドライブ軸のそれぞれが水平に配置されているのが一般的だった。威風堂々のエンジンらしいフォルムだが、現代のスーパースポーツと比べれば明らかに前後に長い

安定したトラクション効果を得る

ではなぜエンジンの前後長を縮めているのでしょうか。主な狙いはスイングアームを長くしたいから……それはトラクション効果を速度域の高いところから低いところまで広範囲で得るためです。

エンジンの後端にあるドライブスプロケットの位置とスイングアーム付け根にあるピボット位置との関係を見てください。ピボットよりやや低い位置にドライブスプロケットがあるのがわかります。そしてチェーンが、スイングアームの上にある樹脂やゴム製のスライダーに触れているはずです。これがトラクション効果を左右する大事な位置関係なのです。

たとえばエンジンの駆動力でドライブチェーンがピンと張ったとき、もしピボット位置が前後のスプロケットと同一線上にあれば、スイングアームはリヤサスが縮む方向へ引っ張られます。これがコーナリング中だったらどうなるでしょう。
バンクした後輪の面圧に対し、路面から離れる方向へ応力が働き、一瞬面圧が減ってスリップしやすくなりますよね。これではコーナリング中に安心してスロットルを開けることができません。

そこでスイングアームのピボット位置をドライブスプロケットより高くすることで、駆動力がかかったとき距離の近いスイングアームが下へ動こうとする方向、リヤサスでいうと伸びる側へ応力が働くよう設定しているのです。

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エンジンのコンパクト化が進むスーパースポーツ

Z1の頃のバイクに比べて、現代のスーパースポーツのエンジンはクラッチ(カバー)の位置がシリンダーの後方に配置され、より前後長が短くされている(写真はカワサキNinja ZX-10R)。その分、スイングアームを延長することで、安定したトラクション効果を得ている

限られたホイールベースの中で、スイングアームをできるだけ長く

ところでレーシングマシンをはじめスーパースポーツにおいては、コーナリング性能を高めることに技術力を集中させているのはいうまでもありません。ということは、より効率良く曲がるためにホイールベースという前輪と後輪の距離は短いほうが優位です。

しかしホイールベースを縮めていくと、相対的にスイングアームは短くなります。すると、先ほどお話したピボット位置との関係は、高速コーナーなどコーナリングフォースでリヤサスが深く沈んだ状態で、トラクション効果が少ない位置関係に陥ります。スイングアームが長ければ、ピボット近辺での角度変化が少なく、こうしたネガティブな面を防ぐことができます。

というワケで、旋回に優位なショートホイールベースにしながら、トラクションもあらゆるコーナーで効果を失わない長いスイングアームの両立を狙った結果、エンジンの前後長の短縮に必然性が向いたのです。同じホイールベースで、エンジンの前後長が短ければ、それだけスイングアームが長く設定できるようになるからです。

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‘80年代の世界グランプリマシンで一気に発展

エンジンの前後長を詰め、長いスイングアームを使う手法は、’80年代のGP500クラスのファクトリーマシンで採用されはじめた。過激な2ストロークエンジンのハイパワーを扱うために必然の技術だった(最新の4ストロークエンジンに対し、2ストロークエンジンではクラッチ位置など軸配置が異なっている)。この設計は後に市販車にフィードバックされ、スポーツ性の高さを重視する多くのモデルに採用されている