ハンプが登場した頃、空力は考えられていなかった
最新バイクであれば、一般のライダーでも大きなサーキットのメインストレートで200km/hを出すのは難しくない時代。そのスピード域でもリラックスしてライディングを楽しめている理由を考えたことはありますか?
1988年、ダイネーゼのライダーが初めてハンプ付きのレーシングスーツを着用してレースに臨んだが、これは空力のためではなく、バックプロテクターの延長として導入されたものだったのである。
バックプロテクターの痒い所に手が届くのがハンプだった
バックプロテクターは、ライダーを怪我から守る革命的なプロテクターとして重宝されていたが、首がある一定方向に曲がった時に頸椎を保護できないという課題もあった。
そこでダイネーゼが開発したのが、柔らかい素材で作られたハンプ。
衝撃吸収性に優れた素材を用いて、ライダーの動きを妨げない形状でバックプロテクターではカバーしきれない部分を保護し、安全性と自由度、快適性を確保したのだ。
誰がこのハンプの空力性能に気がついた?
ピエールフランチェスコ・キリ
レースで初めてハンプ付きのレーシングスーツを使ったのは、1988年、ボローニャ(イタリア北部の都市)出身のピエールフランチェスコ・キリだった。
しかし、ハンプの可能性が評価されたのはそれから数年後。
初めて“ヒジスリ”をしたプロライダーとして歴史に名を残す、ジャン・フィリップ・ルジアがこのハンプのある秘密に気がついた。
本格的に空力性能の研究に発展した
ルジアは、ハンプ付きの新しいスーツで高速走行時に、頭の動きが安定することに気がついた。
頭が振られないことは、集中力の持続や体力の温存にもつながった。
この頃からハンプは、空力性能と保護性能の2つの観点から研究された。
1990年代半ばには空洞実験によって、カウル・ヘルメット・ライダーの背中との一体感を高める形状に変化していった。
最新技術のコンテナの役割も果たす
ハンプはライダーの熱を逃すためのラジエーターやライダーのバイタルをモニターする試作品のセンサー、キャメルバッグを収納するためのスペースなど、新しい技術を詰め込んだコンテナとして用いられるようになった。
現在では、D-air®のエアバッグシステムのコントロールユニットやセンサーを格納する場所としても使われている。
30年の間に、ウエアやプロテクターは飛躍的な発展を遂げ、ハンプもその例外ではない。
単なる発泡スチロールから始まったハンプは、スポーツ走行を楽しむ一般ライダーからプロライダーまでサーキットを走るすべてのライダーに必要不可欠なものとなったのである。
これから先、ハンプはどのように進化していくのだろう……
DAINESE
1972年にイタリアで設立された、モーターサイクルウエアブランド。数多くの有名ライダーにレーシングスーツを供給する。世界で初めて、バイク用のプロテクターを開発したことでも有名。デザイン性と安全性は、"From Head To Toe(頭からつま先まで)"のコンセプトでプロデュースし続けている。
またアクティブにスポーツを楽しむユーザーに向け、スキーコレクション、MTBマウンテンバイクコレクション、乗馬コレクションも展開する。