フランコ・ウンチーニ「私と兄の命を救ったヘルメット」【DAINESE Topics.005】

1969年、フランコ・ウンチーニの14歳の誕生日の日、彼は長い交渉の末、父エンニオを説得してスクーター（Giulietta Peripoli）を買ってもらった。
このときの条件の一つが「常にヘルメットをかぶる」ことだった。もしこの約束を破れば、1週間バイクは没収するという条件だ。

この約束は、すでに彼の2歳年上の兄ヘンリーにも課せられていたもので、ヘンリーはこの約束を守り、常にヘルメットを着用していたのだ。

日曜日になると、ウンチーニ一家ではランチのために外出することが多く、自宅にいることはあまりなかった。

彼や兄ヘンリーにとって、このときの外出はバイクに乗るチャンスだった。両親のエンニオとトーニャは先に自動車でレストランへ向かい、現地で息子たちを待ってから一緒にレストランに入るのだ。

レストランに入ると、ヘルメットを装着した兄弟の姿を見て「宇宙飛行士が来た！」と揶揄する客もいたが、父エンニオは怒鳴りつけて黙らせるのだ。

エンニオの行動は少し攻撃的だったかもしれないが、自身の息子たちがヘルメットを装備することが正しいことであると信じ、また誇りにすら感じており、このような冷やかしを決して認めることはなかった。

ウンチーニ兄弟は、共に負けず嫌いで、時としてその競争心が悪い結果を生むこともあった。

当時、兄ヘンリーは16歳になり、125ccのMotobi Sport Specialに乗り換えていた。

1969年11月19日に友人宅に訪れたヘンリーは、同じエンジンを搭載したBenelli 125に乗っていた友人とどちらが速いかを競うために、ドラッグレースをすることになった。
ヘンリーは友人よりずっと速く、終盤で友人の位置を確認するために振り返った。

しかし、ヘンリーが直線だと思っていた道路は、直後に90度のコーナー……。気が付いたときには美しい別荘の前に設置された、2本の鉄筋コンクリートに支えられたゲートが迫っていたのだ。

右手首の露出複合骨折、左鎖骨・左手首・左膝の骨折。ただ、幸いにもヘンリーは一命を取り止めたのだ。

鉄筋コンクリートに直撃したのはバイクだったが、彼はヘルメットのおかげで命を落とさずに済んだのだ。その事故から、ウンチーニ兄弟はヘルメットの着用をより徹底するようになっただけでなく、友人にヘルメットを購入して常に着用することを勧めるようになった。

フランコ・ウンチーニ自身も16歳になると、125ccのバイクを手に入れた。彼は当時バイクやF1のレースでしか見られないような、フルフェイスのヘルメットが欲しいと思いながら、店頭で購入できないことにもどかしさを感じ、Motociclism誌に広告を出していたAGVに手紙を書いてヘルメットを取り寄せた。

数週間後、彼はフルフェイスのヘルメットを受け取った。当時フルフェイスのヘルメットは嘲笑の対象にもなったが、フランコ・ウンチーニは意に介さず、格好いいとさえ思ってた。

これは彼が兄ヘンリーの事故から、ヘルメットの重要性を学んだからに他ならない。このように、レースの世界に入る前から、セーフティに対する意識は非常に高いライダーだったのだ。

もちろん、レースにおいては、ヘルメット着用の重要性は、言うまでもないものだった。フランコ・ウンチーニは、1983年のレース中に大きな事故を起こし、ここでもヘルメットの重要性を再認識することになった。

アッセンでの事故は、クラッシュ後、後続バイクがウンチーニのヘルメットに接触するという不運なものだったのだ。

時速130km以上のスピードで頭に衝突してきたバイクの衝撃で、シェルのサイドが粉々になり、ストラップの留め具も破損。ヘルメットは吹き飛び、彼はヘルメットがない状態でアスファルトに叩きつけられた。

5日間の昏睡状態の後、幸いにも回復するに至ったが、この事故の映像は世界中で放送され、多くの人にヘルメットの重要性を伝えた。

その頃、イタリアではライダーにヘルメット着用を義務付けることが議論されていた。

ウンチーニはスピーカーとしてさまざまな場所を訪れ、イタリアのトークショー「Costanzo Show」にも出演した。
その放送の直後、ついにヘルメット着用がライダーの義務となった。ウンチーニはレースで活躍したチャンピオンであるだけでなく、すべてのライダーの安全に貢献した人物なのだ。

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