ハーレーの巨大VツインをスーパースポーツにしてしまったBuell!

ビューエル(Buell)といえば、ハーレーの巨大なVツインを積んだスポーツバイクとして1990年代後半に日本でも名を馳せていた。
他にはない個性溢れるルックスと、設計者のエリック・ビューエル自身が最優先していた誰にでも馴染みやすいハンドリングが人気で、いまでも大事に乗り続けているファンが少なくない。
実はこのブランドを起業したエリック・ビューエルは、元々ハーレーのサービス部門のエンジニアだった。
ハーレーに勤めながら自らロードレースに没入、2スト市販レーサーを企画したがレギュレーション変更で叶わず、ハーレーでもXR750でレースをするHOG(ハーレーオーナーズグループ)からのオーダーに応えるかたちでRR1000を製作、この大きなカウルに覆われた中に、巨大なハーレーVツインが宿るこのルックスは、レースでも好調でこの雰囲気のカスタムバイクのオーダーが殺到したのがきっかけだった。



この奇抜なレーシングカスタムで勢いをつけたビューエルは、フルカバードではない一般的なスポーツ・ツーリングのモデルを開発、1989年にRS1200をリリース。
さらに1996年にS1として一般的な仕様へと進化、レーシングライダーだったエリックの「感性に馴染みやすい怖くないハンドリング」でなければならないというコンセプトと実際に乗りやすいと評判で、ハーレーのディーラーでも購入できる位置づけへと成長したのだ。
日本でも1992年のM2(写真後方)とハーレーの傘下になった後の1999年にスポーツ度を高めたX1(写真前)が導入され、マイノリティ好きのライダーに選ばれるヒット作となった。


巨大なVツインがブルブルと震える振動を、ビューエルはハーレーでエンジニアだったノウハウからバイブレーションの方向や強さなど知り尽くしたさすがのフローティング・マウントを開発、穏やかな鼓動部分しか伝わらないマジックの塊りだった。
その前輪がけして切れ込まない穏やかなハンドリングは、巧みな重心位置やアライメント設定で意外なほど正確で素早いターンインで、日本でも知る人ぞ知る傑作スポーツとして認知されはじめた。



エンジンはスポーツスター由来で、X1からはビューエル専用の仕様が使われ、45°のVツインは88.8mm×96.8mmの1,203cc。
88HP/6,300rpmと10.6kgm/5600rpmの懐深いトルクの塊り。
シート高が749mmと意外なほど馴染みやすく、車重もこの巨漢Vツインを抱えながら200kgに収まっている。
サスペンションはSHOWAの41φ倒立フォークと、何とリヤサスはエンジン下に置かれ共に伸び減衰から圧縮側までフルアジャスタブルと、ロードレースライダーだったエリックの拘りが詰め込まれていた。
こうしてビューエルは、X1はもとより以前のS1、M2も含めの強烈な個性と、生き物のような鼓動に製作者の愛を感じる乗りやすさで、日本でも多く見かけるようになった。
この他には絶対にない特異な存在は。いまでも多くのファンの心に宿ったままその記憶から消えてはいない。