高回転油冷シングルのどこまでも伸びていく心地よさが魅力!

スズキは1991年、ヤマハSR400/500やホンダGB400/500によって広められた懐古趣味的なシングルとは次元を異にした、走りのロードゴーイングレーサーを目指すGoose(グース)350をリリースした。
発端はマン島T.T.のシングル・レース。サバイバルな環境を駆け抜けるスパルタンなシングル・スポーツをイメージしたことから、車名もマン島T.T.のコースにあるグースネック(ガチョウの首に似たヘアピン)コーナーに因んでGooseと名づけることに。


エンジンは公道仕様ではないDR350というオフロードエンジンを起用。
エンジン下にオイル溜めを持たないドライサンプ仕様で、GSX-Rで開発した油冷テクノロジーを駆使、高回転高出力のコーナーを一気に駆け抜けるパフォーマンスを狙った過激なコンセプトだった。
ボア×ストロークが79×71.2mmの4バルブ348cc単気筒は、33ps/8,000rpmで3.3kgm/6,500rpmの出力、そしてレッドゾーンは10,000rpm。
サイレンサーは軽量なアルミ製で、排気系は手前にエンジン後部で見えにくいが大きなチャンバーを経由した大容量を備える。

フレームもスリムさを活かした独自の構成で、何とフロントフォークは当時ハイエンドマシンに装着がはじまったばかりの倒立タイプを採用。
油冷を象徴するエンジン下のオイルタンクとダウンチューブ前にマウントされたオイルクーラーと共に、スパルタンな空気を醸し出していた。
車重は145kgと超軽量、スリムなコーナリングマシンの鋭い走りを連装させる雰囲気に、ワインディングをこよなく愛するファンは目を輝かせたのだ。




それまでシングル・スポーツといえば、トコトコと低い回転域の鼓動を楽しむイメージだった。
それが10,000rpmの高回転域までぶん回す、熱きコーナリングマシンとして、新たなカテゴリーを意識させるスパルタンな雰囲気で強いオーラを放っていた。


145kgの軽量を活かし、コーナーからの立ち上がりでビッグバイクに肉迫。まさにシングル使いに憧れた男達に垂涎のマシンとなった。
こうしたクラブマン・レーサー的なジャンルは、趣味性に濃さを求めるマニア向けということで、一気には広まらない前提だったのでスズキも車体色にバリエーションを加えながら淡々と生産を継続していた。


また”油冷”伝説もあって、メカニズムなどこだわり派向きとして語られたGooseだったが、軽量スリムはビギナーや女性ライダーにも扱いやすい要素であることから、続いて1992年、排気量を249ccへとサイズダウンしたGoose250がデビュー。
ボア×ストロークが73×69.6mmの4バルブ249ccで、30ps/9,000rpmで2.6kgm/7,500rpm。350に装着されていたオイルクーラーがなく、フロントフォークも倒立ではなく正立タイプとなっていた。
車重は僅か139kgと125cc並みに軽量且つコンパクトで注目を浴びたが、こだわり派向けのレーシングマシンと変わらない低く狭いハンドル幅は、さすがにビギナーを躊躇させてしまったようだ。
この両モデルは基本的な仕様を変えることなく、2000年の最終型まで生産が続けられた。
マイノリティで生産台数が少なくても、そこに心血を注ぐ姿勢は半端なく、まさにマニア向けブランドとしての誇りに溢れていたのだ。