V4と交替!を虎視眈々と窺う直4CBRフルモデルチェンジ!
400ccクラスのレーサーレプリカ開発目標だったTT-F3が1991年で消滅することになり、レース出場のポテンシャル優先の必要性が低い、一般公道の特性重視のスーパースポーツ開発がスタートした。
そうなるとV4にパフォーマンス頂点を占められていた直4には、大きなチャンスが巡ってきたことになる。
超ナロウな2気筒幅のV4運動性より、エンジン幅のある直4ならではの安定性ベースのハンドリングが扱いやすさでは実績があるからだ。
そのCBR400RR、1987年の発表から直4ファンから人気のマシン。
この仕様をどう進化させるかで、開発陣は迷うことなくハンドリングの向上を筆頭に置いた。
兄弟マシンCBR250RRと共に、開発のターゲットはLow Center of Gravity Twintube Frame。略してLCGと呼ぶ低重心化フレームフレームだ。
ホンダのレプリカといえば、ステアリングヘッドからスイングアームピボットまでを一直線で結ぶアルミのツインチューブ・フレームが定番。
ただ構造的にシンプルだが、さらに低重心化を狙うと、エンジンを覆う前半部分を低くして、スイングアーム・ピボット付近をスリムにできる。
軽量化と剛性バランスも適正化できるメリットもあり、CBR250RRとCBR400RRの両車がこのLCGフレームを採用することとなった。
スイングアームも排気系の干渉を避けた3ピース・ガルアームの中空アルミ製。
後輪を17インチ化して、フロントのアライメントと共に、リーンの特性が変化のないナチュラルなハンドリングとすることを最優先した。
さらに6本スポークのアルミ軽量ホイールとワイドタイヤ装着で、V4と覇を競うスーパースポーツとしての意気込みが詰まった仕様となった。
LCRフレームの軽量化とダイレクト エア インテーク
この軽量且つ低重心のLCGフレームは、ちょうどフレーム形状が繋がるポイントへ向け、カウル正面からダイレクト エア インテークという導風経路がストレートに設けられ、吸気とエンジン外部への3方向に冷却を兼ねた新気を採り入れるシステムも目を引く装備となっていた。
エンジンはカムギアトレーンのDOHC気筒あたり4バルブで、オイルクーラーも水冷化と基本は受け継いでいるものの、クランクケースのアッパー部分へシリンダーを一体化したり、ピストンもフリクションを見直したスリッパータイプで、キャブレターをフラットバルブ化してレスポンス強化など、より逞しいパワー/トルク特性を得ている。
最大出力は59PS/13,000rpm、レッドゾーンが14,500rpmからと引っ張りたい直4ファンにはたまらない高回転型エンジン。
もちろん中速トルクも前モデルよりワイドで力強い。
またTT-F3の消滅もあって、レーシーなグラフィックから硬派なブラック一色のバリエーションも1991年型から加わり、人気を呼んでいた。
さらにCBRのフラッグシップモデルとなるCBR900RRとイメージを同じくするグラフィックも定番化していった。
ナチュラルなハンドリングとレスポンスの心地よさ
狙い通りにレースからのフィードバックなど、一連のレプリカ開発で得たハンドリングのノウハウが活かされ、CBR400RR(NC29)の扱いやすくナチュラルなフィーリングはホンダ史上でも優れたバランスとして名を残すレベルの高さ。
こうした想定したポイントへ、速度やコーナーの大小にかかわらず、変化の少ないベスト・ハンドリングに構築できる知見がホンダには蓄積されていた。
レーシングマシン開発というと、尖ったリスキーなシーンを連想しがちだが、極めるほどに刺激の少ない、わかりやすい過渡特性でないと安心して攻められない。
そうした高いレベルで開発されたスーパースポーツの乗りやすく誰にでも楽しめる醍醐味が得られるところまで進化したのも、レーサーレプリカ時代の功績に他ならない。