コンセプトは「速くない、でも少し速い」
実際はアグレッシブな心を呼び覚ますワイルドさがたまらない
ヴィンテージなロケットカウルに賛否両論……発表会で先ず開発陣が自嘲気味に触れたのは前評判だった。
どんなデザインにも好き嫌いあって当然だが、そんな論争?を呼ぶ「個性」がホンダでは確かに珍しい。おそらくどこかチグハグさを感じさせる造形に、ホンダは大丈夫か?と訝ったファンが少なからず居たということだ。
そんなひとりとして発表試乗会へ赴き、冒頭に続いてコンセプトはパフォーマンス狙いではなくベテラン好みの味わいで「速くない、でも少し速い」などと説明されると、正直ココロはネガティブ度合いが増す。
が、実際に跨がり走り出した途端、そんな憂いは瞬く間に吹っ飛んだ。後輪が路面を蹴りまくりながら曲がるポテンシャルに魅了され、ワインディングでひたすらスロットルを開ける時間を稼ぐチャレンジに没頭していた。
この刺激に満ちたポテンシャルは、多かれ少なかれバイクのスポーティさはコーナリングが原点と思うライダーを、間違いなく虜にする。
感心するのは強大なトラクションによる「快感」だけでなく、アライメントをリーンアクションの従順なセルフステアを優先する設定に辿りつかせたホンダのノウハウの深さだ。
最近の国産スポーツバイクは、この基本を着実に踏襲できている例が皆無に近い。
鏡面に近い路面ならバランスできても、ちょっとでもラフな上下動があると取り乱すバイクがほとんどで、海外メーカーとの差が開くいっぽうに半ば諦めの境地でいたのが正直なところ。さすがホンダ、そう安心させてくれる速度域からコーナーの大小に至る対応幅の広さに、他との熟成度の違いを見せつけられる思いだ。
つくりたかったのは「凄いバイク」ではなく、大人が半日の自由を見つけ、出掛けて「楽しいバイク」です……そのまま鵜呑みにすると、刺激的な走りは卒業してゆったりと走りながら、でも前傾ポジションで趣味性のマインドは忘れない、そんなライダーがターゲットに聞こえる。しかしそんな終わったライダーが、リッタークラスのスポーツバイクに乗るとは思えない。
幾つになっても、きっかけさえあればバイクを操る時間で熱くなりたい、そんなライダーにこそ相応しいのがこのバイク。せっかくの秀逸ハンドリング、言葉からくる誤解で手にするチャンスを逸してはもったいない、それが偽らざる気持ちだ。
オフロードバイクは舗装路を攻めると醍醐味に溢れる
これでロードモデルをつくったら……ビッグなアドベンチャー系で受け継ぐチャレンジがはじまった
このHAWK 11の2気筒エンジンとフレームは、アフリカツインがベース。オフロードバイクで舗装路のコーナーを攻めると、醍醐味溢れる充実感に浸れるのは、そこそこキャリアがあるライダーならおわかりのはず。
歴史的に国産のシングルロードスポーツも、この類いの発想から生まれた経緯がほとんど。オフロードエンジンが空転もグリップとして利用することから、スロットルをガバッと捻ったとき一気に爆発的なトルクを発揮する特性を優先していて、これが舗装路コーナーの立ち上がり加速でグリップする醍醐味感が得やすいからだ。
例でいえばターボ感覚とすれば伝わりやすいのかも知れないが、ガバッと開けるとドバーッと猛烈に路面を一気に蹴る力量感が、オンロードエンジンにはない魅力に感じられる。
このわかりやすい魅力はヤマハSRにはじまり、’80年代にかけて各社から似たようなコンセプトが続き、ホンダもGB400/500を手がけた経緯がある。
それが近年ではビッグバイクへと移行、アドベンチャー系の同じくオフロード用にチューンされた、一気に強大なトルクを爆発的に発揮できる領域を生み、ツーリングシーンとも相性が良い位置づけとなりシェアを拡大しているのはご存じの通り。
それが遂に純粋なオンロードスポーツへ転用となったのがHAWK 11というわけだ。
その最たる低中速トルクをコーナーで発揮するシーンは、大雑把にいってふたつの領域がある。ひとつはアイドリングからすぐ上の2,000~3,500rpmあたりまでの、曲がれる支えでもある頼りになりながら暴力的ではない領域。
慣れないビギナーからリスクに足を踏み入れたくないベテランがまさに「速くない、でも少し速い」を実践で楽しめるはずだ。
もういっぽうは、4,000rpmを越え6,000rpmあたりまでの、後輪がスリッピーな一歩手前で強く蹴り続ける領域。
レプリカブームで腕を磨いた覚えのあるライダーならば、ピーキーな領域がワイドに存在する醍醐味の大きさにハマると思う。
因みに4段階に選べるエンジンモードは、アグレッシブさを楽しめるSPORTでも唐突さは皆無で、オーナーは心配せず早々に試されるほうがこのバイクの醍醐味を味わう時間を失わずに済むと思う。
この魅惑的な世界をさらなる充実感へと誘うのが、爆発音を聞かせるエキゾーストノート。270°位相クランクのパルシブな路面の掴み方や蹴り方を、サウンドでいかにも発揮している実感に浸らせる。NT1100とサイレンサーは同一とのことだが、取り付け位置の違いからかライダーに届く音質はより刺激的で、ちょっとでも可能性のある区間はすぐ開けたくなる。
ただリヤタイヤのカーカスが踏面の振動を吸収できないのが弱点で、ラフな路面だとダダダッと横っ飛びするので要注意。ヨーロッパ製のカーカス素材にコストをかけたタイヤへ交換することをお奨めしておく。
その体重を後輪の接地点の真上なのか、ちょっと後ろめに腰を引いた高速向きな位置関係なのかを選択しつつ、次々と迫る来るコーナーと取り組む醍醐味は、バンク角に挑むより頭脳プレイでベテランの満足度に結びつきやすい。
こうしたレベルで工夫させる意欲を生むのも、アフリカツインのシャシーといえど、スイングアームをやや短縮し、ステアリングヘッドとの位置関係をリーンのアライメントに特化させたノウハウによって具現化されているのは間違いない。ホンダはこうした重要なテクノロジーの継承ができている唯一の国産メーカーかも知れない。
そういうワケで、ちょっとペースを落としても、同じような傾向が続く許容度の広さも手伝って、ツーリングを飽きさせない醍醐味を持続できるはずだ。
限定1200台の国内専用モデル……
マイノリティでも開発を具現化できる模索という
ひとつお伝えしておくべきニュースとして、ホンダはアーキテクチャーシリーズプロジェクトと称して、既存の機種を視点の違う捉え方で派生モデルを誕生させる、マイノリティでも生産計画へ結びつけられる流れを構築しているのだそうだ。
そのひとつが、アフリカツインからNT1100やこのHAWK 11のように1200台とマイノリティな国内向けモデルでも成立させたこのプロジェクトでもある。
メジャーの代表格であるホンダが、このようなチャレンジをはじめたのは今後の新商品に期待をさせるいっぽうで、冒頭にあったデザインの賛否両論のように、流用からくるチグハグさは、いわば大人の趣味性にとって致命的な面も併せ持つ。
合理的な考えから離れたマインドに痺れるのがバイクファン。やはり専用エンジンやシャシーをトップブランドたるホンダにこそ期待したいのが本音だ。
SPEC
- 最大トルク
- 104N-m(10.6kgf-m)/6,250rpm
- 変速機
- 6速
- フレーム
- セミダブルクレードル
- 車両重量
- 214kg
- タイヤサイズ
- F=120/70R17 R=180/55R17
- 全長/全幅/全高
- 2,190/710/1,160mm
- 燃料タンク容量
- 14L
- 価格
- 139万7,000円(税込み)