コーナーの立ち上がり加速で上下に揺れているのはサスが柔らかいからですか?
A.高速サーキットでは宿命で、サスを良く動く設定にしています。
なぜ加速で上下に揺れるのか?
よくレースをご覧になってますね。確かにチャンピオンで今シーズンもポイントリーダーのクアルタラロ選手は、コーナーの立ち上がりフル加速で、YZR-M1のリヤタイヤが上下に激しく揺れているのを見ます。
猛烈なパワーでたまらず後輪が暴れている?……それもある意味正解なのですが、そこにはバイクの後輪が路面を蹴る「トラクション」に二律背反の原理があるからなのです。
実はクアルタラロ選手だけでなく、トップクラスの安定した速さをみせるライダーとマシンには、ほぼ似たようなコトが起きています。
それはアンチスクワットの後輪を加速で路面に押し付ける設定が、高速コーナーがあるコースだと、速度が高くないコーナーではリヤサスが伸びた位置で旋回しなければならず、リヤサスが伸びる動きをし過ぎて上下動を繰り返しているのです。
アンチスクワットの悩みドコロ
画像は2021モデル・以下同
アンチスクワットの基本設定
バイクのチェーン駆動は、駆動力と加速Gでリヤサスを縮める応力が働こうとします。
しかしそれではコーナリング中に加速すると、リヤタイヤ路面から一瞬離れる方向に作用することになり、大事なトラクションによるグリップができません。
そこでイラストにあるように、エンジン側のドライブスプロケットと後輪側のドリブンスプロケットを結ぶ線よりかなり上に、スイングアームのピボット軸を設定します。
こうすることで駆動力が働くと、後輪が距離の近い下方向へ動こうとするので、加速でリヤが沈まない状態にすることができます。
しかしレースのように、200km/hという途方もない高速コーナーがあるコースだと、当然コーナリングでリヤタイヤが強大なグリップを発揮して深く沈みます。
この状態でアンチスクワットを加速でリヤが沈まない設定にすると、速度の低いコーナーではサスが沈んでいないピボット位置が過剰に上になり、そうなると加速で沈まないドコロではなくリヤが実際に伸びる動きになり、その結果が上下動を繰り返す見た目に不安定な状態となります。
ただライダー的には路面に押し付ける方向なので、すぐにテールスライドするリスクもないため、そこは暴れるにまかせて構わずフル加速し続けます。
といった事情から、高速サーキットほどリヤサスが大きくストロークする設定にならざるを得ず、ご覧のようにフワフワした柔らかいセッティングがイメージできるますよね。
しかし最近ではスタート時にリヤサスを縮めてダッシュしやすい挙動を優先するデバイスが開発されたり、これをコーナーでも使ってムダな動きを封じ込めようとトライするケースもあるようですが、これはこれでスリップダウンのリスクもあるため、コーナリングではアンチスクワットにまかせた動きを許容するライダーが多いようです。
加えて一流のトップライダーほど、リカバリーのマージンを与えた、よく動くサス設定を好むのも事実。
それにYZR-M1の、伝統的にライダーに扱いやすい乗りやすさを優先するヤマハらしい、マシンの挙動ということもできるでしょう。