日ごとに寒さが増してくる季節、防寒防風スタイルの準備はしていますか?
高機能素材で作られたアイテムももちろん便利だが、着心地の良さや温もりのある風合いから、天然繊維のウールが好みという方も多いところ。羊の毛を原料としたウールの歴史は古く、馴染み深い素材ではあるが、そのウールを使ったサステナブルな取り組みがあることはご存知だろうか?世界中から注目されているこの取り組みを取り入れて、ゴールドウインモーターサイクルのgwmaverick(ジーダブリューマーヴェリック)ではバイクウエアを展開。ほかのウールとは一味違う、こだわりのものづくりをご紹介しよう。
バイクウエアの機能美をモダナイズした新しい提案
2020年の春夏シーズンよりゴールドウインモーターサイクルの新ラインとして始動したgwmaverick。バイクウエアブランドとして培ってきた技術や素材を基に、オーセンティックなスタイルとライディングを損ねることのない機能性、そして現代的なデザインを軸としたプロダクトを提案している。ライダーはもちろん、バイクに乗らないファッション好きからも支持を得て、話題となった。
写真提供/GOLDWIN MOTORCYCLE
ラインナップをみると、ほかのバイクウエアブランドとは一線を画しているのが明快だ。バイクに乗るにはあまり選ばれないダッフルコートなどのロング丈アウターも、バイクにまたがることができる仕様で作られている。
Duffle Coat 6万3,800円
リサイクルウールファブリック「毛七」を採用したAラインシルエットのダッフルコート
イギリス海軍で採用されていたダッフルコートをベースに、現代的に再構築。ダブルの前合わせにはファスナーを装備し、防風性をもたせている。フードストッパーやベンチレーションなどバイク走行を考えたディテールとなっている
脚に巻きつけて裾のボタンを留めることで、裾を気にすることなくバイクに乗ることが可能に
「その昔、イギリス軍が着用していたコートには裾を巻きつけてバイクにまたがりやすくする仕様がありました。このディテールを取り入れています。そのほかにも、たとえばトップスには背中のベンチレーションや左胸ポケットなどを、パンツにはひざの立体裁断を設計しています。バイクウエアに求められる機能性にくわえて、理にかなったデザインを取り入れるとで、デイリーウエアとしても着やすく便利という声をいただいています」と、gwmaverickデザイナーの上野 梓さんは語る。
Double Breasted Jacket 4万4,000円
ダブルブレステッドタイプのテーラードジャケット
襟の端まで装備したファスナーを閉めると、襟元からの風の侵入を抑え、走行時のバタつきも軽減。サイドアジャスターで身幅の調節も可能となっている
ダブルブレステッドのベーシックな美しさと、首元までしっかりとしめられる防風性のあるスタンドカラーの両立を実現したデザイン
Band Collar Shirt 1万7,600円
大きなチェック柄が印象的なバンドカラーシャツ
肘にはダーツを入れ、腕部を立体裁断にすることで、腕回りの可動域が広がっている。左胸ポケットはライディング時に物の出し入れがしやすいよう、出し入れ口を斜めにデザインしている
Euro Work Pants 2万4,200円
イメージは1930年代のユーロワークパンツ
デザインと機能性の高さから現代の装いにも合わせやすいと人気のユーロワークパンツのクラシカルなディテールをプラス。可動性などの機能面も反映し、ゆるやかにテーパード するシルエットが特徴
デザインもさることながら、素材使いも人気が高いgwmaverick。「プロダクトは、バイクにまつわる空と道の色をテーマカラーにしています。アスファルトのグレーや林道のブラウン、そこにブルーのグラデーションが加わることで世界観を形成。もちろんトレンドカラーを取り入れることもありますが、あくまでテーマカラーが基軸です。このカラーをベースに、オリジナルのチェック柄を取り入れています。男性が着用しても可愛くなりすぎず、かつ老けこまない柄やその大きさ、色などをデザイナーの上野と毎シーズン検討。秋冬は、“ヘリテージ(継承物)”と“マスキュラン(男らしさ)”をムードとして、シックなスタイルを採用しました」と語るのは、MDを務める小林拓郎さんだ。
もったいないから生まれた羊毛再生文化“毛七”
独自に生地を製作するのはバイクウエアブランドでも珍しくはないが、注目はそれが「毛七(けしち)」というサステナブル素材であること。これは日本最大級の繊維産地である尾州(愛知県一宮市を中心としたエリア)で受け継がれている技術で、古いウールのアイテムや裁断くず、落ちわたなどから、再び糸を紡ぎ、生地にするというもの。戦後に編み出された羊毛再生文化には、日本人の“もったいない精神”が宿っている。
毛七の技術自体は古くからあるものだが、2019年に転機がやってくる。現地の毛織物を扱っている会社「大鹿」の若手スタッフが、毛七の技術や可能性を感じリブランディングを実施。改めてその魅力や技術を発信したところ、SDGsやサステナブルな取り組みの好例として、国内外から評価されるようになった。
「化学繊維がブレンドされている毛七は、耐久性が求められるバイクウエアとの相性もよかったこともあります。生地作りは難しさもありますが、職人さんたちがチャレンジ精神をもって作ってくれるからこそ具現化することも多くて。2020年秋冬用につくったビッグチェックの柄は、令和毛織の後藤博道さんが裏技を編み出して実現してくれました」と、小林さんは笑う。
gwmaverick 2021秋冬で新しく登場した新作のチェック柄を手に微笑む、令和毛織の後藤博道さん
噂の職人・後藤さんにも話を伺った。「自分が手がけた生地がまさかバイクウエアになるなんて思いもしていなかったから、ウエアが完成した時は本当に嬉しかったです。毛七を着たライダーが、バイクで颯爽と駆け抜けていくことが増えるといいですね」
毛七の技術でgwmaverickのオリジナル生地ができるまで
①古くなったウールのアイテムが集められる
毛七の原料となる着古したセーターや縫製工場の断裁くず、紡績工場の落ちわたなどが集められている様子。人の手で一つひとつ仕分けられ、洋服タグなど余計なものはカット。染め直さなくても使用できる環境負荷の少ない糸を作るために、さらに原料は色ごとに選別される
②細かく裁断され、生地から毛へ変化
選別された原料は細かく裁断された後に、糸や生地をほぐしてわた状にすることができる反毛機にかけられる。羊毛からつくられた糸や生地が、羊毛に再び姿を変える工程といえる。反毛されたわたは繊維が短いため、化学繊維をブレンドして糸が紡がれる
③毛から糸へ、再び紡ぎあげられる
繊維が短いわたを、強度があり、かつ風合いの良い糸にするために化学繊維がブレンドされる。その割合は毛70%、化学繊維30%というのが所以で、毛七と呼ばれるようになった。割合によって、毛五や毛六もあるという。原料の兼ね合いで同じ色でも微妙にニュアンスの異なる表情をもつ糸が完成する
④職人の緻密な作業で、織機に糸をセットする
糸が完成したら、生地にするために織機にかけられる。機械化されているが、糸のセッティングはすべて職人の手によるもの。写真の織機は小型タイプというが、経糸(たていと)は約2,000本。織機によっては、経糸だけで1万本もあるものも。糸が切れた場合も、人の手で修復作業が行われる
⑤織機によって、糸から布へ
写真右は、カラーを検討するにあたってつくられたサンプル生地。写真左は、これまでに後藤さんが手がけたgwmaverickオリジナルの生地のビッグチェック柄
⑥糸切れなども手作業で修整し、完成
通常、生地の生産過程で生まれた糸切れなどの不良はカットされたりして使われていることが多い。しかし、毛七では完成した生地の修整作業まで行い、機械では見つけることができない細かい傷を、熟練の職人がチェックし、手直しをする
日本にはまだまだ知られていない確かな技術と美学があること、そしてバイク業界にも確実にサステナブルな取り組みが広がっていることを、gwmaverickのプロダクトは教えてくれている。ぜひ、秋冬のバイクスタイルに取り入れてみてはいかがだろうか?