ご存じGB250クラブマンは1983年の12月にリリース。同じ年の4月にデビューしたベースモデルのCBX250RSから遅れること僅か8カ月だった。
初のビンテージな雰囲気を纏った250スポーツは、ホンダを世界に知らしめた250cc2気筒のCB72がイメージの先にあったという。
そこにCB72を決定的な優位をもたらした、マン島T.T.での活躍をオーバーラップさせ、さらに先達たる英国シングルレーサーたちのフォルムも採り入れたのだ。
クラブマンの車名どおり、ロングタンクに一文字ハンドルという、1960年代はスーパースポーツの証しのようなもので、低く幅の狭いハンドルでも後輪に身体を委ねて操る、ハンドルなど頼らないまさに硬派なジョンブル・ライダーを象徴した仕様だった。
より広い世代に硬派なベーシックスポーツを認知させ続けた!
60年代を彷彿とさせるトラッドなデザインに、かなり前傾したポジションを強いられるためビギナー向けではない雰囲気が、ちょっと趣味性にこだわるライダーや、硬派好きな女性ライダーを含め幅広い層の購買欲をそそることになった。
とはいえ、250スポーツといえば当時は最大のユーザー層のいるカテゴリー。
レーシーなスポーツバイクが主流な流れに、もっとベーシックに乗れる250スポーツが欲しい……そんな需要をGB250クラブマンでカバーできないかというコンセプトが生まれ、デビュー6年目にしてルックスから大幅にイメージチェンジする新世代が誕生することとなった。
エンジンやフレームなど基本構成は変えず、CBX250RSに搭載していたDOHC単気筒エンジンは、1987年にオリジナルが4バルブの2インテークポートに形式の異なるキャブだったのを、38mm口径のシングルキャブレターとして、中速域のトルクを増やした仕様のままだ。
そもそもこのDOHCは、吸気と排気で2本のカムシャフトをセンターでチェーン駆動、そこから前後にギヤ駆動で繋ぐ高回転域の正確さを期したホンダならではの凝ったメカニズム。
ラジアルバルブという、吸排のバルブをお互いが放射状になる角度をつけ、燃焼室を理想の球形に近づけたカタチを可能にするため、DOHCでも各バルブのロッカーアームで傾斜した動きに変換する奇抜さがホンダらしさの極みだ。
大きく変わった燃料タンクは、ニーグリップ部分の幅を180mmから140mmへと絞り込み、膝頭に対して余裕が生まれるようニーグリップ部分の凹みがはじまる段差を30mm前方へ移動したデザイン。
さらにタンクの後ろ部分の傾斜角70°から60°へと緩やかにして、シートの前側を15mm前方へ延長するなどキメ細やかな調整を施し、レーシーな趣味性を感じるライディングポジションから、街中の乗りやすさを加味したフォルムへと変更になった。
ただハンドルはやや手首へ向かってやや角度がついたポジションとしたり、若干の修正はあったものの、相変わらずの低く短いビギナーにはハードルの高いポジションのまま。
250だからビギナーでも何とかなるはず、それよりもホンダスポーツの原点、CB72の硬派なフィロソフィを受け継いだモデルとしての伝統は貫きたいという、エンジニアたちの思いがそうさせていたという。
その後、タンクマークでクラシカルな雰囲気に戻したりなど、クラブマンらしさを強調するデザインが展開され、何と1997年までえ生産されたロングランを記録している。
トラディショナルなスポーツバイクは多くが好む中庸さを入れるほど人気がなくなり、趣味性を強めればノンポリの層から嫌われる宿命を背負っている。
そうしたデリケートな位置づけを、クラブマンはマイノリティな空気を漂わせながら、実はメジャーといえるシェアを獲得した希有な例だった。