人気が出た250スポーツをトラディショナルにアレンジして年齢層の拡大を狙う!
1982年のVT250F以来、ホンダは250~400ccの中型クラスをパフォーマンスでライバルを凌ぐ性能追求の路線をまっしぐらに突き進んでいた。
ただ1980年にリリースしたCB250RSが、ビギナーを含め多くのバイクファンを育んでいる状況も踏まえ、バイクを開発するエンジニア当人たちの年齢でも所有感と走りを楽しめるオトナ向けトラディショナルバイクが必要だという思いへ集約されはじめた。
そこで1983年に世代交替でデビューしたCBX250RSが、格段に優れたパフォーマンスとクオリティであることから、このDOHC4バルブの250単気筒とシャシーをベースとすることを決定。
フォルムをトラディショナルなデザインへと変えたNewモデル、GB250クラブマンを同じ1983年の12月にリリースしたのだ。
'60年代を彷彿とさせるトラッドなデザインに、幅が狭く一文字ハンドルと呼ばれていたフラットなハンドルで、かなり前傾したポジションを強いられるためビギナー向けではなかったが、軽量コンパクトなこともあって女性ライダーを含め幅広い層の購買欲をそそることになった。
250スポーツといえば若い層に向けたバイクが居並ぶそれまでと違って、クオリティ感もある素材や仕上げにこだわる、堂々のマイノリティ・コンセプトが多くのファンに受け容れられたのは間違いない。
このCBX250RSに搭載した新しいDOHC単気筒エンジンは、オフロード用がベースとはいえ吸気と排気で2本のカムシャフトをセンターでチェーン駆動、そこから前後にギヤ駆動で繋ぐ高回転域の正確さを期したホンダならではの凝った仕様。
そもそもラジアルバルブという、吸排のバルブをお互いが放射状になる角度をつけて、燃焼室を理想の球形に近づけた構想を可能にするため、DOHCでも各バルブのロッカーアームで傾斜した動きに変換する発想こそ当時のホンダらしさの極み。初期モデルでは単気筒でも低速域用と高回転域のツインキャブでリードバルブを内蔵するデリケートな構成だった。
因みに最大出力30ps/9,500rpm、最大トルクも2.4kgm/8,000rpmで、145kgの車体を2気筒に負けないパフォーマンスが人気を支えていた。またシートカウルやニーグリップラバーなど、クラブマン(英国でアマチュアレースを総称する呼び方のひとつ)の名に相応しいオプショナルパーツも当初から用意され、いかにもバイク好きが手がけた趣味性の濃さと思い入れの深さが伝わってきた。
ビンテージに落ち着きを加味したオトナ路線
滑り出しから好調だったGB250クラブマンも、1987年にマイナーチェンジをウケることに。
まずキャブレターがφ38mmの大口径シングルキャブとなり、マフラーが左右へ振り分けられた2本だったのを、エキゾーストをエンジン下で集合させ車体の右側へ1本出しのレイアウトへと変更、軽量化を果たしている。
フロントのディスクブレーキも大径化、フレームも強度の見直しがはかられたほか、装備面ではウインカーを'60年代のCB72を彷彿とさせる小径丸形でアルミボディとしたり、エンジン塗装やメッキなどクオリティもアップ、メーターも白い文字盤採用と、レトロな雰囲気を醸し出すいっそうのオトナ向け路線を邁進していた。
続く1988年モデルでは、燃料タンクの塗装を深いカラーリングとのツートンとしたり、ウイングマークをCLUBMANのロゴとするなどの他に、ハンドル形状を一文字のストレートから手首へ向かってやや角度がついた形状へ変更、ヘッドライトのレンズを樹脂製とすることで慣性力を低減させたハンドリングの向上、さらにはステップホルダーなどもデザインを変更している。
クラシカルなテイストをカジュアル感覚へと方向転換……
そして1989年モデルから、それまでのトラディショナルといってもビンテージな雰囲気が強かったの対し、新たなユーザー獲得を狙い、燃料タンク形状がトラッドな雰囲気を残しつつ新しさを加味したデザインへと変更になった。シート形状とテールカウルも同時に変更されている。
1992年には初期型にもあったレッドの鮮やかなカラーリングもラインナップされ、デザインテイストの変更に伴いオプショナルパーツも見合った形状とするなど細かな配慮が行き届いていた。
そして1995年モデルでは、燃料タンクにウイングマークが復活、本格的なリヤフェンダーを装備することになった。
またハンドルを一般的なセミアップ形状へと変更、より馴染みやすい世代を超える普遍的なトラディショナルさで、新たな需要の喚起をはかることに。
最終生産モデルは1996年型。市場では1997年に継続販売されていたので、実に15年ものロングランモデルということになる。愛車としたことのあるユーザーの数も半端なく多い。
ホンダのトラディショナル・デザインのうまさは、クラブマンのデビュー後すぐのGB400/500でも誰もが認めるさすがの感性を放っていた。
単に昔を懐かしむのではなく、時代を繋ぐ、もしくは超えていく新しさへのチャレンジがあるのを、GB250クラブマンの変遷からも感じられる。だからこそ、いまこうした挑戦を見てみたいと思うファンは少なくないはずだ。