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このバイクに注目
HONDA
NR750
1987model

オーバルピストンNR750の衝撃だったポテンシャル Part2【このバイクに注目】

Photos:
大谷耕一,本田技研工業

ビッグシングルの低中速パンチ、ジェットフィールの高回転!

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Part1で触れたように、鈴鹿のバックストレートで2速も6速も同じ加速Gという、経験したことのない哮り狂ったダッシュに怖れを感じつつ、最もインパクトだったのが中速域はもちろん、コーナーで2~3速ほど上のギヤへ放り込んだ、街乗り回転域でさえ開ければ路面を蹴って曲がっていく強大なトラクション。

4スト・ビッグシングルのオフロードモデルで、ターンの出口でガバッと開けるとドバーッとテールが降りだしそうでも、後輪が石を跳ね飛ばしながら必要な噛み込みで前に進む旋回加速へと変換してくれる、あの瞬発力とグリップするトラクションがあるのだ。

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Part1でお見せした2ストのような組み立てクランクのNR500と違い、NR750は一体クランクにコンロッドもキャップ&ボルトの一般的な構成

これがオーバルピストンのポテンシャル……NR500で2スト500ccに負けずブチ抜くために必要な、130psを20,000rpm上限で得るバルブ面積の合計がどうにも不足する(丸い燃焼室に欲しい面積の丸いバルブを並べると、大径化は○が重なり小径化で多バルブにした配置でも却って使わない面積が増えてしまう)のを、ある朝の通勤で信号機を見たとき、長円になら収まるかもと閃き、オーバルに吸気4バルブ排気4バルブを横に並べる気筒あたり8バルブにしてみたら、計算上は目標出力に達すると結論づけてチャレンジがスタートした由。

これによって増える吸気量は20%近く。言い換えれば20%排気量が大きなエンジンのパフォーマンスを得られることになる。
750ccなら900ccクラス、そりゃ低い回転域に力強さが違って当然だ。というより、この多バルブと燃焼室がコンパクトな組み合わせは、最大出力でひとまわり大きな排気量と同じどころか、レスポンスが瞬発的で燃焼によるダッシュ力がこれまでにないエンジン特性を生んでいる……そんな風に伝わってくるポテンシャルの発見に胸が破裂しぞうなほどドキドキするときめきを感じていた。

中速のトルク、経験上すぐ消せるのでご安心を、の意外な言葉!?

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マシンからおりて先ず6速での回転数を知らせると300km/hオーバーと告げられる。そして興奮気味に中速域の経験がない力強さを称賛したら「あ~、それ邪魔ですよネ、散々経験してるのですぐ消せますのでご安心を」と即答された。

エッ、せっかくあるトラクションに好都合な力強さ、しかも開けてからのトルキーな追従が曲がれる特性で楽しくて仕方なかった、なんで消すとか言いだすの? と問いただすと、NR500ではパーシャル区間が安定せず立ち上がりで2次曲線的に加速しない、とライダーからのコンプレーンが多く、そこをなだらかに繋ぐ吸排設定からキャブレーションまで、ノウハウをたっぷり積み上げたそうだ。

何年も前の500ccのグランプリはともかく、ビッグバイクはそういった乗り方しないし、このプロジェクトは市販車で必要になるアレンジもテーマ、このツーリングしやすいポテンシャル、むしろ重点的に伸ばしましょう!と力説。

乗ったことあるのかと聞くと、テスト専門のライダーが乗ってるだけでエンジニアは想像の域を出ていないという。
乗ったらすぐこれは面白い!って絶対なるから、そう言ってどこかで機会があったらぜひ乗って試してみるよう促しておいた。

ツーリング、トラクション、疲れないをカタチにする

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突拍子もないこと大好きな尾熊監督と、不可能を可能にする企みを相談する時間が楽しいったらなかった

鈴鹿での結果を踏まえ、HRC本社で耐久仕様としていくためのMTGとなった。
どのみちエンジンもクランクケースからワンオフなので、変速機は強度が最も高いNSR500のカセットミッション流用、車体はアイデンティティなのでツインチューブは踏襲(RVFのV4は2気筒幅でツインスパーもナロウだったがNRは横長シリンダーなのでややワイドにせざるを得ない)、スイングアームも片支持のプロアーム、これ以外はどうしたいか遠慮せずに言いたい放題しるように、との尾熊監督から沙汰にアレコレお願いを並べ立てた。

まず事前にミシュランのR&D本部があるクレルモンフェランから連絡があり、世界GP転戦時代から仲が良かったエンジニアが「ホンダでワークスマシンに乗ると聞いた、コンセプトからいってぜひ100パーセントラジアルを履いて欲しい」と言われていた。
当時はロープロファイルの扁平化が進化、ラジアル化へチャレンジがはじまっていたが、プロのレースはサイドウォールの柔軟性がレスポンスとして気に入らないとベルトをバイアスと混成する構造が続いていた。
ラジアル化で明確に開発すれば、トラクションのレスポンスや旋回性でよりシンプルな将来へ繋がるのでふたつ返事。そのかわり、前輪のプロファイルとアライメント設定が、エンジンの重心位置との前後の距離、地上高も含め最もニュートラルとなるデータをもらう。

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これに従いクランク位置が変わるのと、トラクションを低速から扱いやすいリフトが得られるよう、スイングアームのピボット位置とドライブスプロケットの位置関係を大幅に変えたい旨を告げ、エンジンの軸位置関係がミッション軸との角度を含め再設計となった。

さらにはそのアンチスクワットと、想定されるコーナーからの立ち上がりでライダーの体重が効率良く荷重されるよう、シートレールを後方へ向かってRVFよりさらに高くなるようお願いした。
とにかく神経を尖らせず、バイクまかせがアクティブなリアクションとなって、乗りやすく楽しめる走り。これがスポーツバイクに求められる「疲れない」ポイントであるのは間違いない。

シートレールが予算外……とか仰ったが、テストチームがオーストラリアへの渡航でひとり減らせばOKなので現場を手伝って!と冗談なのかホントなのか、わからないまま話しは進んだが、その24時間耐久を充分以上クリアするオーストラリアでの立証テストまで2ヶ月。
ポンポンと、はい、それやれる?はい決まり!と矢継ぎ早に即決していくホンダパワーに半ば唖然。不可能を可能にする勢いがなくちゃ、新しいことなどできるワケない、これは実際にテストで走り出してからも続くのだった……という続きはPart3で!