アドベンチャー系がツーリングに選ばれる多さから
新しいツアラーのスタイルを各メーカーが模索
ホンダ NT1100 試乗インプレ 〜 新しいツアラーのスタイル 〜 |RIDE IMPRESSION|RIDE HI
アドベンチャー系と呼ばれるカテゴリーのルーツは、砂漠を走るパリダカール・ラリー。1980年、オンロードのツーリングモデルで重く大きなイメージの水平対向ボクサーツインのBMWが、モトクロスバイクに近い競争相手を尻目に優勝して世界を驚かせたことがはじまりだった。
ホンダも単気筒からNXR750と2気筒マシンを開発、これが人気のアフリカツインのベースとなった。
クルマでいえばSUVイメージに近い大柄でいかにもサバイバルに見えるこのカテゴリーは、ヨーロッパだけでなく世界最大のスポーツバイク・マーケットのアメリカで火がつき、巨大パニアケースを装着した重装備でタンデムツアーを楽しむ層を急激に増やしていったのだ。それまで大きなスクリーンやカウルと低い巨大な車体が頂点だったツアラーを、風に逆らおうがアップライトで身構えるスタイルへと流儀から変えてしまったといえるだろう。
このアドベンチャー系モデルでツーリングする層が急拡大したのに対応して、イタリアやオーストリアのメーカーはタイヤをオンロード仕様にして、よりヘビーなツーリングを可能にする電子制御の装備などを加えたツアラーを次々にデビューさせてきた。アフリカツインという、まさにパリダカの中心的存在をベースモデルに持つホンダも、この最新カテゴリーへ参入したのがエンジンも車体もCRF1100系をベースとして共有するNT1100というわけだ。
オフ系ならではの踏破性でドライサンプ採用など
アフリカツイン譲りのコンパクトエンジンで扱いやすく
コンセプトは「Weekday express, Weekend expedition」で、日常のタウンユースでもアクティブに活動できるユーティリティと、週末はより遠くを目指せるスポーツ性を目指したという。
そのパワーユニットは1,082ccの並列2気筒。CRF譲りのユニカムという、1本のカムシャフトで吸気バルブを直接押すカムとロッカーアームを介して駆動する排気バルブといった構成の、上部が驚くほど小さくまとまり、エンジン下側もオフ系CRFならではのクランクケースにオイルタンクを内蔵したドライサンプ潤滑方式と、上下方向にサイズが圧縮された1000ccツインに見えないコンパクトさで、取り回しやタウンユースでの扱いやすさを得ている。
これにホンダが独自に培ってきたDCTと呼ばれる電子制御自動変速を装備、1速3速5速側と2速4速6速側にあるデュアルのクラッチが、常に次のギヤへ変速されるのを構えて待つ仕組みのため、ギヤチェンジのショックが皆無という画期的な自動変速だ。そもそもクラッチレバーが存在しないので、発進の半クラッチ操作も必要としないイージーさ。選択したライディングモードや、ライダーの走り方でも自動変速のタイミングが変わり、手元スイッチでマニュアルシフトもできるスポーティさも兼ね備えている。
また5段階に高さを変えられるウインドシールドや、6.5インチの大型画面でタッチパネルTFTフルカラー液晶のスマートフォーンと連携できるマルチディゥプレイなど、ツーリングをアクティブに楽しむためのアップデートされた最新フィーチャーが揃う。
DCTの新世代は納得の進化を遂げ
パンチのあるトラクションでスポーツ性も高い
走りだすと選択したライディングモードによるとはいえ、NT1100は基本スポーティさを感じさせるワイルドなパワーフィーリングであるのがすぐ伝わってくる。
270°位相の爆発間隔が広いパルシブな後輪の強い蹴りが、タイヤを路面に押し付けグイグイ曲がる乗り方へと誘う。DCTのシームレスなシフトアップは、これもちょっぴり頼もしい低周波な排気音だけが変速を告げるものの、何の継ぎ目すら感じさせない滑らかさで、タンデムで陥りがちなヘルメットがゴツンゴツンを繰り返す不快さも解消されるに違いない。
ただアフリカツインはDCTと一般的なマニュアル仕様エンジンとを選べるが、NT1100はこのDCT仕様のみ。せっかく活発なエンジン特性なので、チェンジのタイミングなど自分で組み立てて様々なシチュエーションを遊びたい気持ちになったというのも偽らざる気持ちだ。
アドベンチャー系といえば『RIDE HI』では第一人者の宮城 光さんは、視点が高くなるアップライトポジションがアドベンチャー系譲りな親しみやすさを最初に口にしていた。イージーライドとスポーツ性を楽しむという両面を満足させる難しさはあると思うものの、初代から世代更新するたびにより楽しめるレベルに進化してきているのは2人とも高く評価するところだ。
ツーリング専用機種は、そのポテンシャルが1日2~300キロの一般的なツーリングユースでは差を感じにくいので、何日かを共にするロングツーリングで試してこその実力発揮だろうと思わせる走行フィーリングだった。
写真はオプションで用意されている純正アクセサリー装着車。いかにも旅仕様なタフネスが伝わる一体感だ
1速3速5速側と2速4速6速側にあるデュアルのクラッチが、常に次のギヤへ変速されるのを構えて待つ仕組みのDCT
大きな液晶画面を眺めながら様々なモードを選ぶ操作が楽しめるファンクションスイッチ。DCTの自動変速も下のスイッチでマニュアル操作できる
ベースはアドベンチャー系のアフリカツイン。エンジンとフレームを共有する
SPEC
- 総排気量
- 1,082cc
- ボア×ストローク
- 92×81.4mm
- 圧縮比
- 10対1
- 最高出力
- 75kW(102ps)/7,500rpm
- 最大トルク
- 104Nm(10.6kg-m)/6,250rpm
- 変速機
- 電子式6段変速(DCT)
- フレーム
- セミダブルクレードル
- 車両重量
- 248kg
- キャスター/トレール
- 26°30’/108mm
- サスペンション
- F=テレスコピック
R=スイングアーム+モノショック - タイヤサイズ
- F=120/70ZR17 R=200/55ZR17
- 全長/全幅/全高
- 2,240/865/1,360mm
- 軸間距離
- 1,535mm
- シート高
- 820mm
- 燃料タンク容量
- 20L
- 価格
- 168万3,000円