A.レインタイヤは低温でも柔らかさが保てる素材で、構造も専用だから
MotoGPでは、雨でも膝どころか肘をするほど深くバンクできるのを見ていましたが、
先日サーキットに出かけたとき、不運にも雨が降りだし、走行シーンを見ていると
一般のライダーがレインタイヤに交換して信じられないペースで走っていました。
レインタイヤは溝が多いだけの違いではない気がします。
なぜあのような走りができるのでしょうか?
コンパウンドやカーカスなどすべてが特殊な設計
レース用レインタイヤは、スリックタイヤに溝を切ったものではなく、低温でも柔らかいコンパウンドをはじめとする内部構造などすべてが特殊な専用設計。雨が止んで路面が乾いた状況で走ると、瞬く間にトレッドがボロボロになる……
レインタイヤは雨専用の特殊な設計
レースでドライ路面を走るスリックタイヤと、ウエット路面を走るレインタイヤのいちばんの違いは、レインタイヤは低温でもグリップできるコンパウンド(タイヤのゴム質)とカーカス(内部の繊維構造)特性にあります。
ご存じのように、ゴムは低温だと硬く柔軟性に欠けます。そして温まると徐々に柔らかくなります。レースだと、タイヤは路面に接して凹んだり戻ったりを猛烈な勢いで繰り返し、発熱をします。そしてコーナリングでは、トラクションを兼ねた強烈な加速をします。レーシングタイヤはこのパワーに耐えながら、限界付近なので徐々に滑りながら安定したグリップをするよう作られています。
このいわば擦られた状態も、かなり発熱をします。この手で触ると火傷しそうな温度に達するスリックタイヤは、この温度で使われるのを前提にしており、温度が低いと簡単に滑ってしまいグリップしません。
レインタイヤは、まず低温でも柔らかさが保てるコンパウンドを使うというトコロが最大の違いです。基本の石油からつくる合成ゴムも、添加剤や加える天然ゴムなど何から何まで、釜で加温して成形した後でも、お菓子のグミのように手で押すと簡単に変形する柔らかさを保つ特性に集約します。
さらにカーカスも、ドライ用のスリックタイヤだと大きな荷重に耐えながら、路面に接している部分の追従性を高める配慮とでバランスさせますが、レイン用は路面に接している面積を稼ぐため変形しやすい特性を優先させているのです。
状況に合わせて特化したレインタイヤだからこそ
レースシーンでは、雨の中であっても驚くほどのバンク角やスピードで走っている。これは特殊な環境に合わせて作り込んだレインタイヤを装着しているからこそ。猛烈なパワーを受け止めながら、安定したグリップを実現している
ドライ路面でレインタイヤを使うと、すぐにボロボロに
そして専用の内部構造に、あの猛烈な数の深い溝のトレッドパターンが加わります。深い溝は雨水で覆われた路面とのアクアプレーニング(水膜現象)を起こしにくいだけでなく、低温でも柔らかいコンパウンドの反発力の弱さが路面追従を損なわないよう、溝で刻んだブロックの角を多く持つことでこれをカバーしようというのです。
そのため一般的な排水性を考えたパターンではなく、一定の面積にひたすら溝を増やせる模様、つまり縦横に交差するとても高速域を意識したパターンには見えないデザインとなっているのです。
こうした雨が降っている状況対応に特化したレインタイヤだからこそ、雨の中でもまるで曲芸のような膝擦りを伴う深いバンクができるということなのです。
しかし、レース途中で雨が止み、少しでも路面の走行ラインが乾きそうになると、わざわざ水溜まりを選んだラインに変えてタイヤを冷やしたり、まだ濡れた部分が残っていても急遽ピットへ飛び込んでスリックタイヤを履いたマシンへ乗り換える必要があります。そのまま走行を続けると、瞬く間にブロックがちぎれ、トレッドがボロボロになってまったくグリップしなくなってしまうからです。
もちろんレインタイヤは一般公道では使えません。ここまでの説明でおわかりのように、雨の中のレースでのチェッカーまでの耐摩耗性しか考慮されていないからです。
公道でも用途にあったタイヤ選択が大切
さてさて、このように雨降りはタイヤが温まりません。これは公道用のハイグリップタイヤのような温度依存が大きなタイヤにもいえること。ハイグリップタイヤは温度が上がらないとスリップしやすい苦手な状況なのだということを、あらためて心に刻んでおきましょう。雨の日だけでなく、冬の走り出しなども注意が必要です。
またどんな状況でもポジティブに走りたいライダーであれば、温度依存が低いツーリングスポーツのタイヤを選べば、リスクが大きく減るということも、ぜひ覚えておいてくださいネ。
公道ではツーリングスポーツタイヤでリスクを回避
一般公道用のタイヤであってもハイグリップ系のタイヤは温度依存が大きく、雨は苦手……。あらゆる状況で走るツーリングライダーなら、やはりツーリングスポーツタイヤを選ぶことで、リスクを減らすことができる。写真はミシュランのパワー5。温度依存がなく、冷た路面でもグリップ感を伝えてくれる