空力でここまで首の負担が違うとは……軽さとバイザーの使いやすさに進化した新しさが長時間を楽しめる期待感!

前から気になっていたひとつだったのが、AGVヘルメットの新しいK6S。
チェックすると新しさが詰まっていて、ベテランがこれからも乗り続けるのに味方になってくれそうなフィーチャーばかり。
そこで思い切って新調、早1ヶ月とちょっとが経ったので、ツーリングからサーキットまで走ってのご報告。
実はココまで驚くほどの違いがあるとは正直思ってもみなかった。
最初の衝撃はアタマが軽いことの衝撃。それはヘルメットの重さではなく、風圧をうけていない軽さだ。
都内を走り出した途端、タウンスピードの40km/hでさえ既に風圧をうけていない違いを感じ、60km/hに達すればその差はさらに顕著。ましてや高速道路での100km/hとなれば、首の負担が大きかったこれまでとの大差に唯々唖然。
トンネル出口や橋の上など、いきなり強い横風を喰らっても、ヘルメットが揺すられる動きが少ないのにも感動した。
もちろん、そもそも重量的にも軽い。カーボンファイバーとアラミドファイバーのコンポジットによる帽体は、1,385gと最軽量のひとつで、空力を考えた前後にやや長い大きさからくる印象とのギャップに当初は戸惑いを覚えたほど。



K6Sはご覧のように上部が後ろへ向かってスポイラー形状となっているほか、左右両側の下部に絞りと膨らみを加えたウェーブプロファイルが特徴で、これらがヘルメットをややリフト(揚力が3.3%増加)方向へ整流し、スポイラーも後方の乱流を調える効果から空気抵抗を4.7%減らしているという。
その結果、130km/hでヘルメットの動的重量が何とゼロになるとのことで、高速道路クルージングで20分もすると疲れ方がまるで違うのは誰でも感じるはず。
さらに風切り音の少なさも大きな魅力で、内装の適度な通気性を保つやんわりとしたホールドを含め、時間が経つほど距離が延びるほどに疲れを感じにくいメリットを痛感。
とくに年配ライダーで、そろそろ長距離がキツくなったと宣う仲間には、ライダーライフの延命に繋がるので絶対にお奨めだ。


それにしても、MotoGPマシンにはじまりスーパーバイクの市販車で次第に大きくなっていくウイングに、時代は空力こそ新しさをストレートに表現するフィーチャーと思ってはいたが、ヘルメットでまさかタウンスピードの領域で空力効果の違いを実感できるとは思いもよらなかった。
いまさらだが、思わず40km/hで走りながら左手をハンドルから放して走行風にかざし、確かにこのスピード域でもコレだけの風圧があるのだから、空力に早くから取り組んできたメーカーにはこの違いを反映できるノウハウがあるというのを思い知らされた。
その空力は既に改良が重ねられ、ネイキッドバイクの上半身が起きたポジションから、やや前傾したツーリングスポーツ、そして伏せ身のレーシングマシンまで、3つの異なるアングルに幅広く対応しているのだ。
風圧で押されるヘルメットの重みをこれほど軽減して、直進安定性ともいうべきブレない空力の恩恵は、経験しないことには想像がつかないと思う。
後ろに延びたスポイラーは僅か40gしか重量を増やしていないが、この空力形状によるベンチレーションの排出効果と、加えて左右両サイドで肩に近い部分が湾曲して凹んでいるのは、万一の転倒で鎖骨が押されて骨折に繋がらないようMotoGPから学んだプロファイルが活かされているなど、複合的に絶妙な要素が生んだデザインとなっている。


そしてK6Sを被るライダーが必ずメリットに感じるバイザーについても触れなくてはならない。
まずスクリーン部分の開口部が、左右へ190°と上下に85°の超ワイドな視野角度。中から開口エリアを見回しても下側のチンガード部分に上と左右で僅かに縁が確認できるだけ。混合交通で横にクルマが近づいてきたときなど、首を回さずにそれと察知できる安心マージンの大きさがあることを初めて知った次第。
そしてバイザーが小さなフラップ部分を軽く押し上げるだけで開度を5段階に、スプリングによる節度のハッキリとした操作感で、瞬時に手動アジャストできるのが心地よい。
ヒンジ部分が樹脂製とは比較にならない耐候性の金属パーツで潤滑性もメンテできて分解も容易い。
一番下の完全密封のポジションだけ、押し込むとラッチがかかりロックされる仕様で、プッシュして解放できる手間を必要としているが、実はコレ通常の走行ではラッチがかからない一段上に僅か開いたポジションがお奨めと説明されていて、信号などで停車してコミュニケーションのためすぐ開けたり閉めたりを繰り返しやすいのと、何より適度な換気を伴えるため快適ポジションなのをすぐに納得。
では手間のかかる密閉ポジションはというと、超高速のサーキット走行などが前提で、実際に自分でも密閉ポジションは滅多に使わなかった。
こうした使い勝手の良さは、タウンユースからツーリングまで開発陣がいかにバイクライディングに精通しているかの証しに違いない。
そして長い時間を被りっぱなしで試した内装の快適性についてもぜひ触れておきたい。
プレミアム感のあるソフトな皮膚との感触が心地よいのと、撥水性にクイックドライな素材とによって、時間が長いほどあのヘルメットを脱ぎたくなる苛立ちがやってこない有り難さを感じたからだ。
これらは何と50回もの洗濯が可能で、ヘルメットの安全な耐用期間内にそこまで繰り返すことはないだろうし、ストラップのカバーに使われる人工皮革への耐性配慮も、ヘルメットメーカーとしての長いキャリアを感じさせる。


安全性に関しては、世界GP時代の1977年からドクターカーを毎レースへ派遣していたAGVだけに、殊更の説明を必要としないだろうが、ECE 22-06というヨーロッパの最も厳しいホモロゲーションをクリアしているのはもちろん、AGV独自の範囲を拡げた衝撃試験や異なる5種類もの衝撃吸収素材を組み合わせた保護性など、創設以来のフィロソフィが脈々と流れる2重にも3重にも行き届いた安全性だ。
これからAGVヘルメットの長年に渡るノウハウの蓄積に触れていくことになるのだろうが、ここまで完成度も高くクオリティの確かさも折り紙つきに支えられるこれからのバイクライフが楽しみでならない。
思い切って良かった、いまはそんなシアワセな気分で乗っている。