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坂道発進はなぜアブナイ!?(短い半クラを覚えよう)【ライドナレッジ120】

Photos:
藤原 らんか,DUCATI,shutterstock(SKT Studio)

坂道発進でエンストを怖れてやりがちな
高い回転の長い半クラッチは、
予期せず急に繋がり飛び出す危険が!

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ローカル線の線路が盛り上がっている踏み切りや、山間の宿から表通りへ出る交差点など、一旦停止から急な斜面での坂道発進をせざるを得ないシーンで、心臓が破裂しそうな思いを経験したことはないだろうか。

エンストを怖れて、エンジンの回転を高めにキープ、そこへクラッチを滑らせながらミートしようと躊躇していると、予期せずいきなり繋がってしまい、ウイリーしそうな勢いのダッシュに生きた心地がしなかった……

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これは半クラッチ状態が数秒以上続くと、何枚ものクラッチ板と組み合わさっているフリクションプレートとが摩擦熱で熱膨張してしまい、半クラッチで駆動力を伝えながら滑っていた隙間がなくなり、瞬時にクラッチが繋がった状態になってしまうことで起きる現象。

半クラッチは日常は1秒、長くても2秒ほどにしかならない前提なので、このいきなり繋がる危険な状態に陥らないためには、坂道発進でも短い半クラッチでスタートできる操作を身につけておく必要がある。

多板式のクラッチは、そもそも構造的に
安定した半クラ状態を得にくい仕組み……

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坂道発進は滅多にないシーン。そうした環境で練習する機会は、なかなか見つけられない。
そこで日常の発進で使う半クラッチを、なりゆきで滑らせながら何となく繋いでいる状態から、操作のコツを覚えて短い半クラでスッと出て行く発進に変えることからはじめるのが一番。

クラッチは、エンジンからギヤで1次減速され外側の溝にツメで嵌まっているフリクションプレートと、内側の溝に嵌まってミッションへ伝達しているクラッチプレートが、スプリングで押し付けられグリップした状態と、お互いに隙間をつくって滑らせたり完全に切れたりできる構造だ。

イラストではわかりやすく2~3枚で描いているが、実際には写真のように8枚などもっと多い。
なぜこんなに重ねているかといえば、クルマなど大きなエンジンではクラッチは大径で、2枚が繋がったり離れたり、もしくは滑らせたりさせているのに対し、オートバイのエンジンはコンパクトに収める必要があるのと、クラッチが大径だと回転する慣性力がエンジンの回転上昇や下降するレスポンスを鈍くしてしまうのを避けるため質量のない小径にしたいからだ。

但し接触面積が小さいと大きな駆動力で滑ってしまう。そこで何枚も重ねて分担することで、接触面積を稼いでいるというワケ。
しかしこのマルチプレート(多板)、ちょっと隙間を与えればお互いにちょっとずつ滑りながらスムーズに駆動力を伝えられるかというと、滑るのは2~3枚で残りは繋がったままだったり、そこに徐々に繋がる仕組みはないので、半クラッチも滑るか繋がるかで安定して中間的な状態にあるのは稀といってイイ。

短い半クラッチはミートするタイミングに合わせ、
スロットルを捻って加速しながら繋ぐのが基本!

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こうした構造のクラッチで、エンストを怖れて予めエンジン回転を高めておき、そこへクラッチをそろそろと繋いでいけば、無負荷で回転をキープするだけの小さなスロットル開度では、繋がりはじめた途端にエンジン回転はドロップする。
ただ回転していた勢いでバイクは前進をはじめるので、それから徐々にクラッチをツナギながらスロットルも大きく開けていく……という順序になる。
このエンジン音が高めから一気に低くなり再び回転上昇するパターン、ワ~ゥ、ゥワ~といったビギナーに多い発進サウンドは、いうまでもなく長い時間を要する半クラッチになる。

対してベテランの発進サウンドは、いつ半クラにしたのかわからないほど、低い回転からそのまま加速していくシンプルなもの。
半クラはほんの一瞬で、クラッチはレバーを徐々にではなく、パッと放してしまう繋ぎ方だ。
ではどうしたらそれが可能になるのか?

クラッチの繋がるレバー位置を覚えて、
ミートするときエンストしないスロットル開度で
発進したらさらに開ける

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まずクラッチレバーのストロークと機能する位置の確認からはじめよう。
いうまでもなく、クラッチレバーは放した(繋いだ)状態から、クラッチを切りはじめる位置までが「遊び」と呼ぶ短いストロークがあり、そこから半クラできる位置があって、もう少し切ると駆動力が伝わらない領域になる。

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次にフロントブレーキを握ったまま、クラッチを切ってローギヤへシフト、エンジンはスロットルを捻らないアイドリング状態で、クラッチを徐々に放していこう。
どこからかシートがジワッと持ち上がる、駆動力が伝わりはじめる状態に気がつくはず。
さらにクラッチレバーを放していくと、シートのリフトがグイッと強くなり、そのすぐ後に「エンスト」する。

このエンスト前のグググ~ッときたときに、クラッチレバーを放すと同時にスロットルを捻るのだ。
最初はタイミングが合わなかったりスロットル開度が足らず、何度もエンストするかも知れない。

しかしこのエンストしても足をつける身構えで、エンストせずに半クラッチを一瞬で済ませる思いきったスロットル開度の早ワザが身に付くまで繰り返しトライしよう。

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コツは半クラでシートがグググ~ッとくる位置まで、クラッチレバーを徐々に放さず、スッとその位置までワンアクションで済ませること。
ミートする狭い領域に集中できれば、習慣的に短い半クラで済ませるリズムが身につく。

アイドリングよりちょっと上の回転域なら、たとえビッグバイクでもスロットルを半分ほど捻っても、強烈なダッシュなど物理的に起こり得ない。
安心して思いきった操作を繰り返せば、実は最もリスクの少ない、発進直後から後輪が路面を蹴るトラクションで安定するため、すぐさま曲がるような状況でも自信タップリに走ることができる。

そしてこれが身に付けば、もちろん坂道発進にも自信をもって対応できる。
斜めになった勾配に対し、ミートしたときのスロットル開度を大きくすれば事足りるはず。
短い半クラ、ぜひこの機会に覚えておこう!