ブレーキディスクは熱歪みで外周ほど反り返る
スポーツバイクのフロントブレーキには、制動面のディスクと内側でホイールをマウントするハブ(インナーローターとも呼ぶ)とを連結するフローティングピンが挟まっている。
なぜディスクとハブを分離しなければならないのかというと、ブレーキの熱でライダーがレバー操作するとき、そのつど遊びの量が変わってしまわないようにするためだ。
ブレーキのディスクは当然だが制動するブレーキパッドが接するためにある程度の幅が与えられている。この幅は内側と外側で、ブレーキパッドに対し速度が違ってくる。
その結果、ブレーキをかけるとディスクの外側のほうが熱くなり、金属なので外周に近いほど熱膨張することになる。
ハードブレーキ後のNoブレーキ!
それはディスクの外周に近い部分ほど熱膨張で延びてしまい、次第に円錐状に反り返るコトになる。これがライダーのブレーキ操作を決定的に妨げる危険な状況を生むのだ。
ブレーキのディスクは、両側から挟んでいるキャリパー内のピストンが、油圧によってブレーキパッドを押し付けることで制動する。これがブレーキをかけている途中で高温になり反り返ると、ブレーキパッドを押しているピストンが、押し返される側とさらに押す側とでディスクの反り返りに追随してしまう。
問題はそのブレーキングが終わった後だ。ライダーがブレーキを解放すると、ディスクは放熱で冷えて瞬く間に反り返った形状から真っ直ぐな状態へと戻る。
するとさらに押していたピストン側は形状変化で押し戻されるが、押し戻されていた側はそのままの位置に留まったまま。キャリパーのピストンは、オイルシールで密閉しているリップ部分の形状で、加圧が終わるとディスクに触らない程度に戻るだけしか動かないからだ。
そうなると、ライダーが次にブレーキを操作でレバーを引いても、ディスクとパッドのクリアランスが大きいため、ワンストロークではブレーキがかからず、ブレーキレバーがスロットルグリップに当たっても何も起きないNoブレーキ!でパニックに陥る。
すかさずブレーキレバーを数回握り直す、ポンピング操作をすればブレーキはかかりはじめるが、それは知識や経験にその時間的余裕があればのハナシ。
フローティングピンがハブ側の変形でパッド位置をキープ!
この大問題を解決するのが、ハブとブレーキディスクを結ぶフローティングピン。このピンにはシムやウェイブワッシャーが嵌めてあり、ブレーキディスクが熱膨張で反り返ったとき、ハブ側で変形するスペースがあるため、挟んでいるブレーキパッドの位置をそのままキープできるのだ。
もちろん冷えればシムやウェイブワッシャーの反力で、ディスクは元の位置へ戻る。
このためライダーは猛烈なストッピングパワーでフル制動した後でも、レバー操作で常に同じ遊び量の同じタッチで操作することができるわけだ。
以前はレース用でこのシムやウェイブワッシャーがない状態で、ブレーキディスクがフローティングピンのところでカチャカチャと音を出して動いていたが、さすがに市販車では問題でシムやウェイブワッシャーを嵌めて簡単には動かない仕様となっている。
ただ現在はフローティングピンにシムやウェイブワッシャーを嵌めないセミフローティング仕様も加えられ、メンテナンスの必要性を少なくしたバージョンも存在している。