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メンテナンスに使うグリス。どこにどんなグリスを使うのがいいの?【ライドメンテナンス012】

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伊藤康司,井上 演,長谷川 徹

適材適所、まずは万能グリスを手に入れよう!

クラッチやブレーキレバーなどの可動部の動きが悪いと、操作に力が必要になるため疲れたり、繊細なコントロールがしにくくてライテクにも悪影響が出る。他にもバイクには数多くの可動部があり、メンテナンスの際に潤滑のために“グリスの塗布”が指示される場所も多い。

もちろんハードな整備作業はバイクショップのプロメカニックにお任せするとしても、前述のレバーなどちょっとした所は自分でメンテしたい、と考えるライダーもいるだろう。

そんな時に使うのはどんなグリスが良いのだろう?

 

バイク用品店に行くと、様々な種類のグリスが販売されていて、正直なところどれを買えばいいのかわからない……と感じた方も多いだろう。

そんな時に“高いモノなら大丈夫だろう”で選ぶのはオススメしない。グリスの種類によっては塗布した部品を傷めてしまう可能性もあるからだ。

そこでまず入手したいのは『万能グリス』。

汎用グリス、マルチパーパスグリスとも呼ばれ、主成分はリチウムせっけんやウレア系、カルシウム系などで、レバーの軸やホルダー部分、他にもベアリング類など(ステアリングヘッドやスイングアームピボット等)、潤滑を必要とするほとんどの場所に使えるからだ。塗布した部品を傷める可能性は極めて低く、価格が安いのもポイントだ。

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デイトナの「万能グリス(80g/660円)。主成分はリチウムせっけんで、潤滑が必要なほとんどの箇所に問題なく使える

ゴムやプラスチックに使えるシリコングリス

ゴム製のオイルシールなどの組み付けに使えるシリコングリス。電気を通さないので、バッテリー端子の腐食防止にも使える。ただし強い負荷(極圧)のかかる軸受部などの金属同士の潤滑には向いていない。

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デイトナの「シリコングリス(30g/1,100円)。耐熱、耐薬品性に優れる高級グリス。広い温度範囲で溶けたり固まったりせず、ゴムやプラスチックなどの樹脂を傷めない

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フロントフォークのインナーチューブにシリコングリスを塗布し、フォークをしっかりストロークさせると(ブレーキをかけてフルボトムするまでグイグイ伸縮させるのがオススメ)、ダストシールやオイルシールに馴染んで摩擦抵抗が減ってフォークの動きが良くなる。ホコリなどをキレイに清掃してから塗布すること。またストロークさせた後はベタつかないようにウエスで拭き取る

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シリコングリスはプラスチックを傷めないので、ヘルメットのシールドのラチェット部に塗布すると、開閉の動きが軽くなる上に、キーキーと摺れるような音を消すこともできる。ゴミが付着しないよう、ごく少量塗るのが〇

モリブデングリスは使用場所に注意

配合される二硫化モリブデンの極小の粒子が“コロ”の役割を果たし、高い極圧性能を発揮するので、大きな荷重のかかるトランスミッションの軸受部などの組み立て時に塗布すると効果的。ただし二硫化モリブデンの粒子は非常に硬いため、ゴム製のシールやアルミ、真鍮の部品など(ブレーキやクラッチレバーの軸受部など)の柔らかい材質の部品を削ってしまうので使用不可。使う場所に注意が必要だ。

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デイトナの「モリブデングリス(50g/990円)。耐摩耗性、耐久性に優れ、高荷重に耐える高性能グリス。エンジンパーツの組み付けや、高熱が加わるボルト等に使用できる

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マフラーのエキゾーストフランジのスタッドボルトやナットに塗布すると、熱による焼き付きやサビ(酸化)、また“カジリ”も防止できる

塗布する前にキチンと清掃し、余分なグリスはシッカリ拭き取る

メンテナンスで可動部分にグリスを塗布する前には、必ず汚れを落とそう。細かいホコリなども徹底的に掃除したい。
清掃せずにそのまま塗ると、付着していた微細な金属粉や砂粒などがグリスにまざり、研磨材のようにパーツを削って摩耗を早めてしまうからだ。当然、傷もつきやすい。

またグリスを塗布して部品を組みつけたら、ハミ出したグリスはしっかりと拭き取っておくこと。グリスが残っていると、そこにどんどんホコリや泥が付着して、見た目が汚いだけでなく、やはり部品を摩耗させる原因になってしまう。
“タップリ塗った方が効果がある”と思いがちだが、ハミ出して目に見える状態のグリスは、ほとんど役に立たない(サビ止めにはなるかもしれないが……)。

万能グリスはOK。じゃあ、万能スプレーは?

ちなみに「大抵の場所で万能グリスがOKなら、よくある“万能な潤滑スプレー”を吹いても良いんじゃない?」と思われる方も多いかもしれないが、じつはNG。汎用の潤滑スプレーは浸透性と揮発性が高いので、元々塗布されていたグリスを洗い流ししてしまうため、逆効果になりかねないのだ。また、使用されている成分にも注意したいが、このあたりは改めて触れたいと思う。