その中古FCRキャブレター、本当にリーズナブル?
バイクのカスタムは楽しい! ……けれど、相応にコストがかかる。そこでネットオークションやフリマアプリで“中古パーツ”を活用している方も多いだろう。ただし、物によっては“高い勉強代”になってしまうことも少なくない。たとえば旧車やキャブレター車のチューンナップで人気の高い「FCRキャブレター」も、そんなパーツのひとつだ。
FCRは中古で買うと痛い目を見る可能性も……
そもそもFCRキャブレターは、純粋なレーシングパーツとして開発されていることを忘れてはいけない。だからメンテナンスの頻度や消耗パーツの定期交換のサイクルも短く、純正キャブレターよりずっと手間がかかるし、部品としての寿命も短い。
しかし、これは高性能と引き換えなので仕方のないトコロ。そして中古パーツの場合は、ドコがどれくらい傷んでいて、どれくらい寿命が残っているのかわからない……。
まず代表的なところではスロットルバルブの傷み。セットされる浮動バルブの摩耗やシールの劣化、それにベアリングローラーの作動状態は、操作感や性能に大きく影響する。
ちなみに、アイドリング中に“カチャカチャカチャ……”と音がするのがFCRキャブレターの特徴と思っているライダーも多いようだが、それはカン違い。これは浮動バルブやシールが傷んでガタツキが大きくなっているか、セッティングが出てない時の症状だ。そのまま乗り続けると、最悪の場合は浮動バルブが割れてしまうこともある。さらに最悪なのが、割れた破片をエンジンが吸い込んでしまった場合で、エンジンそのものが壊れてしまう。
浮動バルブやスロットルバルブは定期交換部品なので入手可能だが、当然ながらコストがかかる。
スロットルバルブが摩耗する……
FCR(フラットCRキャブレター)の名前の由来でもある、フラット(平ら)なスロットルバルブ。アクセルを操作すると、このスロットルバルブがキャブレターのボディの中で上下して、吸気量を調整する。よく見ると、黒い板(浮動バルブ)の表面が、ところどころ擦れて摩耗している。これでも摩耗が少ない方だ。
スロットルバルブは“定期交換部品”
浮動バルブの裏側の丸い部分にはゴム製のシールが嵌まっているが、浮動バルブとシールは基本的にレースのワンシーズンごと(または大型FCRの場合は走行1万6,000kmごと)に交換。またスロットルバルブは4つのベアリングローラーが装備されており、動きが悪くなるとスムーズなアクセル操作ができなくなる。ちなみに個々の部品は販売されておらず、コンプリート状態。そして浮動バルブと同時交換が推奨されている
浮動バルブが摩耗するというコトは……
キャブレターのボディ側も摩耗する(写真のボディ内側の光っている部分)。浮動バルブやスロットルバルブのメンテナンス(=定期交換)を行わないと摩耗の進行が速くなり、ある程度摩耗が進めば性能も発揮できなくなる。当然だが“本体”なので交換はできず、すなわち“キャブレターの寿命”というコトになる
非分解指定の場所に不具合が出たら、現実的にお手上げ……
FCRキャブレターには、高性能を発揮するキモといえる“ジェットブロック”と呼ばれるパートがあり、非常に精密な部分なのでメーカーでは非分解指定にしている。ところが経年劣化により、この部分からガソリンが漏れたり、不要な空気を吸い込んでセッティングが出せなくなることがある。そうなったら販売元にオーバーホールを依頼するしかない。ジェットブロック周りの特殊なパッキンは、非分解指定ゆえにメーカーが補修部品として設定していなからだ。
じつはこのパッキン類、非純正のアフターパーツとしてなら入手可能ではあるが、やはりコストがかかるのは否めないし、そもそも非分解指定されるような場所なので、相応に整備技術を持っている人が作業しないと、きちんと性能が出ない可能性も高い。
ジェットブロックは分解不可!
キャブレターの下部のフロートチャンバーは、セッティングのために相応に開け閉めする部分。しかし本体とジェットブロックは非分解指定されている。経年劣化等で、矢印の部分からガソリンが漏れることがあるが、その場合は販売元にオーバーホールを依頼しよう。中古で手に入れた場合は……少々厳しいかも
フロートチャンバーを外したところ
メンテナンスやセッティングの際に開ける。フロートチャンバーとジェットブロックの間に入るパッキンは、メーカー純正部品が販売されている
絶対に外してはダメ!
非分解指定されているが、撮影のために今回は特別にジェットブロックを外してみた。新品購入した場合も、ここを外すと保証対象外になるので、絶対に外さないコト!
複雑なパッキンが挟まっている
ジェットブロックとボディの間には、複雑な迷路のような形状のパッキンが挟まっているが、そもそも非分解指定の箇所なので、メーカーはこのパッキンを補修部品として販売していない(パーツリストにも記載がない)。さらに組み立て時には専用の液状ガスケットの塗布も必要だ
“中子”の間にもパッキンが!
FCRならではのスムーズボア(スロットルバルブが開いた際に、吸気通路内に段差ができない構造。これが高性能の秘訣)に必須の“中子=ジェットブロック”を取り外すと(非分解指定)、ココにも特殊なパッキンが入っているが、やはり補修部品として販売していない
精密なレーシングパーツだけに、性能が出なければ本末転倒……
誤解して欲しくないのが“中古パーツはダメ”という話ではないというコト。FCRキャブレターの場合も、メンテナンスも含めてどのようにどれくらい使われていたのか“出所がわかるモノ”なら大丈夫かもしれない。しかしそうでない場合は、それなりにリスクが高い、というのが現実。大量に補修パーツを交換したり、オーバーホールに出したら、結果的に新品並みにお金がかかった……という可能性もあるし、そこまでしてもキチンと性能が出ない場合があるコトも忘れずに!