サーキット勝負のレプリカではなくワインディング最速をアピール!
1994年、カワサキはフラッグシップZZ-R1100とスーパーバイク・レプリカのZXR-750との間を埋める900ccのZX-9Rをリリースした。
狙いはズバリ、1992年にデビューしたCBR900RRへの対抗機種。
900ccといえばカワサキが世界トップブランドに仲間入りできたZ1の排気量。しかしそれはホンダにとっても意味のある排気量で、'80年代の快進撃で幕開け的な存在のCB900Fがライバルを蹴散らす急先鋒だったからだ。
その戦略的に意味合いを込め、600~750ccサイズの車体に900のエンジンを搭載したCBR900RRの存在を、カワサキは無視するワケにはいかない。
「安心して乗れること、それにビッグバイクとしてのクオリティ感を大切にした。その分、軽量化が多少は犠牲になったかも……」プレスローンチでカワサキのエンジニアから出た言葉もCBR900RRへの対抗心が剥き出しだった。
エンジンのベースはZXR-750。73.0×53.7mmの899ccで139PS/10,500rpmと9.8kgm/9,000rpmのパワーではCBR900RRを遥かに上回る。
ただ車体関係は、剛性や安定性でマージンをとった構成と設計で、乾燥重量は215kgとCBRの僅か185kgに収まる仕様には敢えて目をくれていない。
その狙いから、5,000rpm~9,000rpmで最大トルクの75%を発揮する特性で、明確にワインディング最速をアピールしていたのだ。
ホイールベースが1,440mmで倒立フォーク装備のキャスター角24°と90mmのトレールは、やや前輪ががアンダー気味で旋回の安心感を明確に優先した設定。
跨がると750ccクラスのコンパクトさで、コーナー立ち上がりで後輪が路面にブラックマークをつける旋回ダッシュをみせるが、切迫感のない誰にでもチャレンジできるハンドリングで、一躍世界の注目を浴びることとなった。
2003年までエンジンとフレームも更新して存在感を示す
デビューから3年間、小改良はうけたもののほぼそのままカラーリングでバリエーションを増やしていたが、1998年にエンジンをわざわざ新設計、フレームもダウンチューブを取り払った軽量化を進め、対抗してきたCBR900RRを迎え撃つ大幅なリフレッシュをうけた。
勝負服といえるイメージカラーのライムグリーンに全身を包んだ1998年モデルは、2003年までヘッドライトやグラフィックを大幅に変えながらイヤーモデルを展開、CBR900RRの出鼻を抑える存在であり続けた。
そのZX-9Rも2003年を最後に、次世代のZX-10Rへとバトンタッチすることになった。
ただワインディングで醍醐味を味わいつつ、ロングツーリングもこなす存在として、ヨーロッパやアメリカにはZX-9Rファンが少なからず存在、CBR900RRの独り舞台を許さなかったカワサキ魂は歴史へ明確に刻まれている。