ロイヤルエンフィールドの空冷ツイン「INT650」に試乗。もしもインド製であることに懐疑的なイメージを持っているのなら、兎にも角にも一度、試乗してみてほしい。そこには、バイクの根源的な魅力が詰まっていた。
INT650にまたがると、見た目の印象より腰高だ。シート高は804mmあり、174cmの身長だと、両足のかかとは浮いている。それくらいの足着き性である。
しかしながら重心は高くなく、アップハンドルを備えていることもあって、不安定さはない。車体の引き起こしにはコツも大した力も必要とせず、勢いをつけなくても直立させ、サイドスタンドをはらうことができる。202kgの車重は、このクラスの2気筒モデルとしては平均的なものであり、身体的な負担も心理的なプレッシャーも感じなくて済む。
見た目はクラシックだが、電装系も燃料供給系も吸排気系もすべて今日的なコンポーネントで制御。エンジンの始動に儀式めいた作法は求められず、セルボタンを押せば、すぐに安定したアイドリング音を奏で始める。ハンドルの高さもステップの位置もごく自然な場所にあり、体格を選ばない。
クラッチにはスリッパー機構のみならず、操作力を軽減するアシスト機構も備えられている。実際、そのレバーは軽い力で引くことができ、手が小さかったり、握力に自信がないライダーでも容易に扱える。
往年のブリティッシュツインを思わせる、クリーンなスタイルが最新の技術で再現されている。存在感のあるエンジンは表面の仕上げも美しく、端正なたたずまいに貢献。インド製であることに懐疑的な人は、ぜひ一度実車を見て、その質感を確かめてほしい
足先から伝わる精度の高さと滑らかさ
最初の驚きは、ギアをニュートラルから1速に入れた瞬間にある。オイルがまったく温まっていない状態でも、スッとペダルが送り込まれ、そこから2速、3速とシフトアップしていっても、あるいは矢継ぎ早にシフトダウンしても高い精度を保ったまま、滑らかに切り換わっていく。
些細と言われればその通りなのだが、シフトタッチの良し悪しはライディング中、常につきまとうため、心地よさに影響する大切な性能だ。その点、INT650でシフトミスをすることはほとんど考えられず、ヘアピンを前にして一気に2速へ落とし、タコメーターの針が跳ね上がるような場面でも減速Gをきれいに収束。ファイナルも含め、組まれているギアレシオも適切だ。
Vol.1で、「2,500rpmで最大トルクの80%を発揮する」と書いた。これは机上の話ではなく、誰もが簡単に体感することができる。例えば信号待ちからの加速で充分だ。右手を動かさなくても、クラッチレバーを離すだけでタイヤは軽々と転がり始め、その後は3,000rpmを目安にシフトアップしていけばいい。数秒もしてバックミラーに目を移すと、交通の流れを余裕でリードしていることに気づくはずだ。それほどフレキシビリティに富み、なおかつ力強い。
シリンダーやエキゾーソストパイプのフランジにはフィンが設けられ、冷却性能とクラシカルな雰囲気が高められている。燃料供給はもちろんインジェクションを介して行われ、オイルクーラーも標準で装備されている。ギヤボックスは同社初の6速ながら、優れた節度と剛性感で切り換わり、スリッパークラッチも採用する
空冷エンジンが消えゆく中、輝きを増す存在感
スロットルを大きく開ければ7,500rpm付近まで回るものの、270°クランクがもたらすパルシブなエキゾーストノートと、それに連動して伝わっていくトラクションを楽しむなら4,000rpm以下で充分事足りる。
ハンドリングは穏やかで、スーパースポーツやそれに準ずる最新モデルと比較すると、緩慢に感じるかもしれない。とはいえ、コーナーをいくつかクリアすればすぐに慣れ、むしろ前後18インチホイールがもたらす、大らかなテンポに好印象を抱くライダーが多いだろう。
ユラリ、グラリと車体がリーンする様は、ビッグバイクにまたがっている充足感と、しかしそれを手の内におさめているという自尊心を満たしてくれる。コーナーでリヤが踏ん張り、タイヤそのものが荷重と衝撃をいなすしなやかさは、剛性の塊と化した今どきの車体や足周りでは得られない。
燃料タンクの形状はオーソドックスなティアドロップ型で、容量は13.7リットル。給油口のキーシリンダーはヒンジ式のキャップでカバーされている
左にスピードメーター、右にタコメーターを備えるシンプルな2眼式コクピット。それぞれの針はアナログで可動し、液晶ディスプレイにはガソリン残量、オドメーター、トリップメーター(A/B)が表示される
歯切れのいいエキゾーストノートを奏でるマフラーは左右2本出し。リヤショックにはガス加圧式のリザーバータンクとダブルレートのスプリングが備わり、プリロードは5段階で調整が可能。88mmのトラベル量が確保されている
ヤマハSR400の生産終了が発表され、カワサキW800の車体価格が110万円を超える今、空冷エンジンのノスタルジックさを求めるライダーは、行き場を失ったような思いを抱えていたかもしれない。そんな鬱屈として気持ちを晴れやかにしてくれるモデルが、このINT650である。ぜひ一度、そのスロットルを捻ってみていただきたい。
ロイヤルエンフィールド東京ショールームで試乗が可能だ。