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このバイクに注目
SUZUKI
GSX-R750
1988~1991model

闘うスズキは2代目GSX-R750に究極のニュートラルステアで高次元ハンドリングを目指した!【このバイクに注目】

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スズキ

軽量な油冷エンジンとアルミフレームで画期的スペック達成!

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1984年、レーサーレプリカ気運が高まるなか、スズキは他メーカーの度肝を抜くまさかの本物レーシングマシンの公道仕様、GSX-R750を発表!
それはヨーロッパで人気の高かった耐久レースへ早くからワークスマシンを投入していたスズキが、まさにそのマシンのレプリカをリリース、翌1985年から世界で販売をスタートしたのだった。

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エンジンはスズキ独自の油冷システムを開発。潤滑オイルを大型オイルクーラーで冷やす程度に考えられがちだが、スズキのこの方式は冷却用の専用高圧オイルポンプでシリンダーヘッドの燃焼室外壁へ、ジェット噴射することで境界層の熱を奪う、戦闘機用や空冷レースエンジンでしか使われてこなかった方式。

複雑になる水冷ではなく敢えて油冷とすることで、エンジン単体は67.6kgと超軽量。
アルミフレームも8.1kgしかない、常識的なマシンの半分以下。
この結果、750ccといえば200kgの当時、400cc並みの179kg(乾燥重量)のとてつもない軽さにおさめていたのだ。

エンジンも国内向けは自主規制で77psだったが輸出仕様では100psを誇った。

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ヨーロッパでは望外の画期的な存在としてライダー垂涎の的となり、翌年には1100ccへ排気量を拡大してフレーム剛性も高めたGSX-R1100もリリース、耐久レースのメッカだったフランスをはじめ同様のカルチャーだったドイツからヨーロッパ全体で独り舞台となった。

フレーム剛性を大幅アップ、ハンドリングはミシュラン・タイヤで開発!

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しかしこのパフォーマンスを競うカテゴリーは、当然ライバルも猛追。
スズキは圧倒的人気だったGSX-R750を早くも刷新する開発を進めていた。

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最初の開発では新しい要素だらけで、コンプリートのマシンとしては、まだ改良の余地があり、限定マシンなどにそうしたノウハウを反映させていた。

それを1988年ではフルモデルチェンジ。
まずエンジンのボア×ストロークを70×48.7mmから73×44.7mmへとショート・ストローク化。オイル流路を改善して冷却効果も高めている。

そして最大の変更はシャシー。
アルミ鍛造で硬度を高めタンクレールからピボットまわりで強度をアップ、レーシングマシンに匹敵する60%も剛性を高めた仕様とした。
エンジンの両側に張り出す、流行りのツインスパーには見向きをせず、エンジン幅より狭いダブルクレードルに固執、軽快な運動性を最優先していた。
加えて倒立フォークも初採用となった。

とりわけ速度域の高いヨーロッパでの評価に対応し、開発で世界のレースで縁の深かったミシュラン・タイヤに絞り、後輪と前輪のプロファイル解析と、エンジンの重心やステアリング・ポストとのアライメントとの関係を徹底追求、腕の立つライダーたちに完璧と言わせしめた超ニュートラルな高次元ハンドリングを達成したのだ。

このライバルの猛追を振りほどこうとする開発は、まさにスズキが闘う姿勢を貫いていたからに他ならない。
このハンドリングでのアドバンテージは、ホンダヤマハをさらにシビアなアライメント追求へと駆り立て、RC30やOW01で反映されるようになった。

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兄弟車GSX-R1100も同様にフルモデルチェンジされたが、中空ホイールや新型キャブレター、ラウンド型オイルクーラー、さらには前後サスペンションのレーシングマシン並みにアップグレードされた解説など、ヨーロッパ向けのカタログはバイク雑誌並みに専門用語が並んでいた。

エンジンのボア×ストロークを戻して熟成度アップ!

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こうして牙城を築いたGSX-R750/1100だったが、マーケットでは使われ方がそこまで先鋭化されているわけではなく、1990年にエンジンは元のボア×ストロークへ戻されるなど、細かな対応でヨーロッパのトップクラスでの評価を維持していた。

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しかし、あまりにキッチリとニュートラル・ステアを求めた結果、60km/h~あたりと120km/h付近など、周長1,400mmレベルの前輪タイヤ+ホイールの、どんなバイクにも構造的に生じている(真っ直ぐ前を向く復元性と傾くとステア追従する旋回性とが繰り返し反復した状態)原理で、一定速度に固有振動数が重なって左右へ振れる領域を生じやすく、国によってはこれを抑えるステアリング・ダンパーを追加するケースも出てきた。

これは1970年代のBMWボクサーなど、前輪荷重とアライメントとの関係によってブルブルと震える現象として知られていて、メーカーによっては敢えてアライメントで外す場合もあるほどデリケートな領域で、日本車でここまで追求したバイクがなかっただけに、そこまでに達したスズキをタイヤメーカーが評価していたほどだ。

ただファン心理とは微妙なところにあり、新型GSX-R750/1100の前面投影面積を5.7%低減し、抗力も11%軽減し、吸気をキャブレターへ導くダクトのあるカウルデザインが、旧型のほうが逞しくカッコいいとする意見も少なくなかった。
等々もあって、スズキの独り舞台は長続きしなかったが、濃いファンの心を掴むメーカーへとイメージが確立されたのは間違いなかった。