遂に水冷化!しかし走りは油冷キャラクターの好評な面を反映……
1992年、GSX-R750が遂に水冷化された。それはスズキのGSX-Rファンにある種の失意を感じさせてもいたのだ。
ヨーロッパの耐久レースファンは、24時間の長丁場を観戦しながらバイク仲間との交流時間を楽しむという、世界GPとは違った独得な雰囲気に包まれていた。
そのレース場全体が、一体感を帯びる空気に育てられてきたのがGSX-R750だった。
ライバルの強豪たちが水冷ハイメカのエンジンであるのに対し、油冷というスズキ独自のテクノロジーで迎え撃ってきた姿を、多くのGSX-Rファンが応援をしてきた。
バイクライダーは、マイノリティ好き……他と違うエンジンという響きに吸い寄せられるケースが多いのはご存じの通り。
しかしレプリカである以上、レースで覇を競う運命にある。敢えて油冷と判官贔屓に訴えても勝利が遠のいては本末転倒ということになる。
何せ排気ガス規制と燃料の進化は、チューンすると以前とは比較にならない熱を発生するようになっていた。燃焼室の外壁に、高圧でオイルをジェット噴射し、表面の境界層に滞留する高温部分を吹き飛ばす油冷のメカニズムが、いよいよ追いつかなくなってきたのだ。
しかし根強く応援を続け自身もオーナーであるファンが、GSX-Rのブランドを誇りに思っていたのをスズキも良く知っていた。
そこで油冷の最終モデル、1991年のGSX-R750はヘッドライト部分がスラントしたNewフォルムとし、このデザインに目が慣れた1992年に水冷化したGSX-R750が登場、何とほぼ同じデザインに感じるカウリングや、フレームも流行りのツインチューブではなくアルミのダブルクレードルと、水冷化された新世代!という印象を与えない配慮がされていたのだ。
その肝心の水冷化されたDOHC16バルブ4気筒エンジンは、カウルを覆うとまるで見えなくなるとはいうものの、シリンダーやシリンダーヘッドには油冷時代と同じ冷却フィンを刻んでいた。
が、シリンダーの各気筒間にあった冷却風が抜ける空間が不要となったことで、シリンダーピッチ(間隔)を詰めることが可能となり、セルモーターのスターター機構をシリンダー背面へ移したこともあって、クランクシャフトは57mmも短くなりエンジン全体がコンパクト且つ軽量で、単体で69kgと油冷仕様と全く同じに収めている。
またバルブ挟み角を40°→32°と大幅に立て、燃焼室のコンパクト化にキャブレターにも開度センサーを設け、幅広い状況での効率とスロットル操作の扱いやすさを格段に向上していた。
これらの成果で車体幅は油冷よりかなりスリムとなり、ロール方向(リーン)の素直な軽快感に貢献、さらにエンジンのマウント位置を27mm下げることで、傑作ハンドリングの呼び声高かったアライメントなど、車体と足回りのスペックに同じ特性となるよう細心の配慮がなされていた。
そして極めつけがそのフレーム。流行りのアルミツインチューブとはせず、これまでのアルミ角断面ダブルクレードルの構成を受け継いでいる。
このダブルクレードルは、そもそもエンジン幅よりフレームを狭くレイアウトできるメリットがあり、これも従順なハンドリングとして好評だったGSX-R人気のひとつ。
ただNewエンジンがサイズダウンしていることから、同じダブルクレードルでも設計を見直し、ややナロウとしながら角断念をライダーが触れる面を斜めに形成した5角断面として剛性アップと軽量化を両立。
かくして見た目には油冷の1991年モデルと変わらない、ある意味インパクトの薄いアピアランスでのリリースとなったのである。
驚くほど同じハンドリング、しかし軽く逞しく加速、でも鋭くない!!
そしてNewGSX-R750に試乗したファンは、その不安が瞬く間に払拭され満面の笑みとなるのを知ることになる。
ハンドリングのフィーリングはほぼ油冷GSX-R750と変わらない。同じ感性の操安性で、しかもかなり軽快で素直、鋭く唐突な面がないまま乗りやすく楽しめる面を継承していて、さらなる進化を感じさせる傑作マシンだった。
アライメントは油冷をほぼ継承した設定だが、重量バランスやパワーアップしている面などを鑑み、ホイールベースは20mm伸びてフロントのトレールが2mmと僅かに少なくするなど、油冷ハンドリングの再現にはかなりの神経を遣っている。
ダブルクレードルはメインチューブを45×45mmだったのを45×60mmの5角断面に変更、ダインチューブも27×30→30×30mmへとアップ、鍛造のスイングアーム・ピボット部分もサイズアップして全体で捩り剛性24%アップの剛性を得ている。
スイングアームは左側が71.6×38.6mmの押し出し材と中央部分が鍛造中空ブリッジ状で、右側の補強板内蔵のプレスモノコック成形との3ピースを溶接で一体化、こちらも捩り剛性で24%アップを達成している。
また1994年には750ccのレースがアうーパーバイクになり、車名にもSPがつくモデルはステアリングヘッド部分に砂型鍛造製パーツとして剛性をさらに30%高めたフレームとなった。
またフロントブレーキにはTOKICO製の対向6ポットの大型キャリパーを装備していた。
こうしてレプリカのフォルムながら、レース観戦ツアーから遠距離ツーリングまで、途中でコーナリングの醍醐味を堪能しながら走るGSX-Rファンのバイクとの接し方は、より充実したカタチで守られ続け、スズキへの信頼感をより確固たるものとしていったのだ。
これは1996年のアルミ・ツインチューブ・フレームとなるまで、揺るぎのない関係が続き、600ccクラスをはじめヨーロッパでツーリングモデルといえばスズキというイメージを抱くファンを増やし続けていた。