400ネイキッドにはインパルスがありながら敢えて油冷イナズマを加えるスズキらしさ!
スズキの油冷エンジンといえば、GSX -R750や1100、BANDITの1200など大型クラス専用をイメージする。
しかし400ccにも1機種だけ存在していた。
それは「イナズマ」で1997年~2004年まで生産された希少モデル。
当時スズキの400ネイキッドには、人気だった水冷のインパルスが存在していた。
それでもスズキこだわりの独自テクノロジー、油冷エンジンが大型バイクのみで400クラスにはなかった状況に、ルックスでも評判だった油冷エンジンを所有するバリューを味わってもらおうと、敢えて製品化するのがスズキ・エンジニアの心意気。
ベースはGSF750で、ボア×ストローク70mm×48.7mmを、ボアを52mmまでストロークも47mm縮小した399cc。
量産できる限界といわれた冷却フィンのピッチを細かく並べ、シリンダーからシリンダーヘッドまで、空冷エンジンの美しさを存分にアピールしていた。
高圧でオイルを噴射、境界層を吹き飛ばす発想は世界でも希有なテクノロジー!
車体は一部の補強部分を除きGSF750そのままで、後輪もワイドな170サイズ。
この大きなベースを共有しても、油冷の強みでもある軽量さで、車重は185kgに収まっていた。
とはいえ、やはり400でこの大きさはハンドリングとしては安定性が先に立ち、軽快な面は影を潜めてしまい、同じクラスの水冷でキビキビした走りのインパルスのスポーツ性には及ばない。
さすがに油冷エンジンのルックスに魅了されるファンはそこまで多くなかったが、1997年のリリースから2000年では排気ガス規制によるエンジン改修でも継続生産され、2004年まで続いたのは驚きに近い。
油冷と聞くと、大型のオイルクーラーで潤滑系統でも冷却を助ける的な解釈が多いなか、スズキはオイルをシリンダーヘッドの内部で燃焼室の外壁へ、専用のオイルポンプで高圧噴射する特別な仕組みで冷却していた。
これは手に息を吹きかけるとき、同じ体温でもゆっくり吐くと暖まるのに、勢い良く吹きかけると冷える原理と同じ。
つまり高圧で噴射すると、オイル温度が高くても燃焼室の外壁の表面にある境界層が吹き飛ばされ、冷却されるというわけだ。
このためオイルは冷却だけの回路があり、ヘッドからオイルパンへ戻す経路がある得意な構造。
このためオイル容量が400でも4.7リットルと、オイル交換のとき知ると予備知識がないユーザーをビックリさせていた。
この油冷構造は、航空機エンジンや一部の空冷レーシングカーで採用されたことがある、エンジン史上でも希有な例。
400でも油冷をラインナップしたい……この技術に着眼し、成功へと導いたスズキの油冷へのこだわりと愛情の深さを伺わせるバイクといえる。