久しぶりの音叉のマーク、ヤマハらしいピュアスポーツ探求!
1980年代に2スト250のRZ250で「攻める」スポーツのハンドリング評価を得てきたヤマハだったが、ホンダのCBX250RSやGB250がカジュアルやトラディショナルな路線で幅広いユーザーを獲得しているのに対し、同じ4スト250シングルの開発を検討していた。
そして1984年に登場したSRX250は、カタログでのアピールはお洒落でカジュアル、いわゆる走りにこだわるヤマハ・スポーツのキャラではなく、ビギナーから幅広い層をターゲットしたモデルに見えた。
しかしその燃料タンクには久しぶりの音叉マーク。
それが何を意味するかは、走り出してコーナーの連続するワインディングで明らかになった。
攻める走りを前提に、ヤマハらしく前輪をややアンダー気味に安定性を優先、その余裕から深くバンクしてコーナリングの醍醐味を貪るマシンだったのだ。
確かに前輪を小径16インチとレプリカ流のクイック且つワイドトレッドと、走り屋向けのアピール仕様を含んでいたが、全体にジェントルなフォルムとグラフィックでカジュアルなイメージに包まれていただけに、このポテンシャルに気づくライダーはあまり多くなかった。
エンジンのベースはオフロードモデルのXT250T。DOHCの4バルブは単気筒ながらツインキャブレターの装着が特徴で、YIDSと呼ばれる4バルブの吸気側ふたつのポートそれぞれに、吸気圧でダイアフラムによるベンチュリー開閉と、スロットルグリップでダイレクトにピストンの開閉をする異なるタイプを連装。
低回転側でラフな操作を許容する面と、高回転域で必要な混合気をシッカリ送り込む特性とを併せ持つエンジンとしている。
エンジン下に2本のエキゾーストを集合する大容量の排気チャンバーを設けるマフラー効果もあって、32PS/10,000rpmと250シングルでは当時の最強を誇っていた。
またフレームも、高張力鋼管による完全なダブルループクレードル。レーシングマシンと同じ、縦方向に捻り剛性など、信頼できる安定性と曲がれるしなやかさを両立できる本格仕様だ。
実は開発の段階で、どこまでピュアスポーツを目指すのか、開発陣は検討に時間をかけていた。
2ストの45PSフルパワーとは次元の異なる32PSをフルに活かせるフレームのレベル設定など、本格的な方向を探ろうとすると難しさが露呈してくるからだ。
そこには乗り方もレーシングマシンをコントロールする繊細なテクニックまで必要とする世界が垣間見えてくる。
そんなプロセスを経て完成させたハンドリングは、破綻の心配を抑えた扱いやすくスリリングな感性を刺激する、走り屋にはたまらない高次元。
ただ広告展開など、表向きにはそんなピュアスポーツを封じたイメージ展開で、ライバルの250シングルよりどちらかというと軟派に見えていた。
そんな流れから、幅広い層に受け容れられる250スポーツだったが、他をリードする勢いは得られないまま。
そしてSRX400/600とデザイン感覚をリニュアルした1990年モデル(形式名3WP)では、排気ガス対応もあって28PS/9,000rpmへとパワーダウン。
ただ実際にはカムプロフィールをよりパワーを得る側へ変更していて、ふたつのキャブレター口径をやや小さくするなど、タウンユースの実用域でスロットルレスポンスとトルクを力強く呼び出せる特性へとチューン、走りは確実に強化されていた。
さらにクランクシャフトのカウンターウェイトや1軸バランサーのウェイトも見直し、振動を抑えた結果よりスムーズなだけでなくピックアップの気持ち良さも備えた熟成がはかられていたのだ。
また前後とも17インチ化されたことで、ハンドリングも落ち着きのある安心感が加わり、122kg(乾燥)の軽量さと共に乗りやすい印象を強めていた。
ブレーキもφ267とディスクのローター径をアップ、ドラムだったリヤブレーキもディスク化されスポーツバイクとしての装備も整えていた。
しかしどのメーカーでも250ccシングルには個性の強い他との違いをアピールするモデルがなく、ネイキッドブームに埋もれがちになっていたのは否めない。
シングルスポーツにヒット商品が極端に少ない……このジンクスを破ったバイクは依然として存在しない。