初代VMAXは、1,198ccのV4エンジンを搭載する異色のバイクとして1985年に発表。0-400mなどのドラッグレースシーンを連想させるスタイリングが人気を博し、1999年まで生産された。2代目は1,697ccのV4エンジンを搭載し、2008年に登場。逞しいスタイルはそのままに生まれ変わったが、ブレイクすることはなかった……
多くのパワージャンキーを生んだ『直線番長』
1980年代中盤、日本の峠には2スト250ccのレーサーレプリカとレーシングスーツを着たライダーが溢れていた。スクーターを大型スーパーなどで販売することで登録台数を稼ぎ、スポーツバイクは毎シーズン(時には年に2回)新型車が発表された。当時の男子高校生は二輪免許を持っていない人の方が少なかった、とさえ言われている。これが空前の’80年代バイクブーム、レプリカブームである。そんな時代にヤマハはVMAXを投入してきた。もちろん大型免許は教習所で取得できない時代。だからこそ、その存在は際立っていた。
当時、街中でVMAXが並ぶと、バイクも乗っているライダーも凄い迫力だった。写真は1990年モデル
Vブーストが巨艦をワープさせる
まるでアメリカのマッスルカーを彷彿させるドラッグスタイルのインパクトは大きかった。コーナリングするためのレーサーレプリカと加速するために特化したVMAXのギャップが当時は新鮮だった。VMAXの目的は“加速”。単純明快だった。スーパースポーツ、ネイキッド、フラッグシップ……そんなカテゴライズすらなかった時代だけになおさらである。
エンジンは、Vブースト付きの1,198ccのV4で145psを発揮。Vブーストは6,000rpmを超えると1気筒に2つのキャブレターから吸気されるシステムで、これが巨体を容赦なく加速させた。他では味わえない加速感が多くのパワージャンキーを生み出した。
1990年からは国内仕様も販売。しかし、馬力規制の兼ね合いでVブーストは搭載されず、依然として逆輸入仕様の人気が高かった。
1990年代に入るとカスタムも加熱。アイドリング直後からVブーストが効くものや、日本仕様にVブーストを搭載するマシンも制作されたが、当時のカスタム車は、スロットルを全開にすると真っ直ぐ走らないものも多く、大パワーにシャフトドライブの車体や足周りが追いついていなかった印象だ。そして加速を追求したカスタムVMAXは、信じられないほど燃費も悪かった。
初代VMAXは、最後までライバル不在のまま、1999年に生産を終了。
余談だが1997年には、ロー&ロングなホンダX4が登場。デビュー後、瞬間的にブームになったが2003年に生産を終了。エンジンはCB1300シリーズに引き継がれた。
ホンダから登場したX4。専用エンジンを搭載するなどかなり本気のつくり込みだった。こちらもカスタムブームを巻き起こすが、短命に終わった
フルモデルチェンジするものの一目でVMAXとわかるインパクト
バイクにひたすら加速を求めるライダーに向け、ヤマハはVMAXの開発を続けていた。そして2008年2代目がデビュー。排気量は1,679ccに拡大され、最高出力は200ps。翌年登場した国内仕様は、様々な規制の兼ね合いで151psであった。
テスト中は何メートルもブラックマークを付けながら加速していくなど、これまでにない逸話がたくさん生まれたという。
24年ぶりのフルモデルチェンジ。VMAXファンはその間、様々なビッグバイクが登場する度に悔しい思いをしてきた。ファンの溜飲を下げるには十分なスタイルとパワー……誰もがそう思ったがヒットには至らなかった。
まるでボディビルダーのような筋肉量を増したスタイリング。それでいて上品さを醸し出すデザインはヤマハならでは。直線番長と呼ばせないようにφ52㎜の正立式フロントフォークやリンク式リヤショックを採用。コクピットは、メーターがそそり立ち、大きなシフターランプも備えている。ただ車両重量は310kgと、ネイキッドとしては桁違いに重い。
2008年に復活したVMAX。唯一無二のバイクだっただけにフルモデルチェンジは相当難しかったはず。マッスルなスタイルを纏いいかにもVMAXらしいスタイルは、GKデザインによるもの
2008年といえばスーパースポーツ、ネイキッド、フラッシップなどカテゴリーがすでに細分化されていた時代。どこにも属さないのがVMAXの魅力だったが、初代ほどのヒットには至らず2018年に生産を終了。ちなみに生産台数が少なかったこともあり、2代目の中古車価格は現在も200万円近く、まだまだ根強いファンに支持されているのがわかる。
その後、このマッスルバイクを引き注いだのは2011年にデビューしたドゥカティのディアベルかもしれない。ロー&ロング、さらにマッシブなスタイルに240サイズの極太タイヤを履きつつ重量は抑えられ、スポーツクルーザーという新たなるカテゴリーを生み出し、現在も生産を続けている。