A.排気ガス規制をクリアしにくい構造だからです
次々に空冷エンジンが生産終了に
2020年に空冷エンジンのヤマハのセローが生産終了となり35年間のロングセラーに幕を閉じました。
また43年目という歴史を誇るヤマハSR400も、2021年型でファイナルエディションの発表がありました。
空冷といえばCB1100やW800がまだ頑張っていて、最近ではメグロK3も加わりましたが、徐々に少数派となりつつあります。
しかし冷却フィンの美しさや、シンプルなメカニズムなど、オートバイの原点としての空冷エンジンが好きなファンは少なくありません。
そうした愛好者がいるのに、なぜ空冷が消滅するかといえば、厳しくなるいっぽうの排気ガス規制が最大の理由。
YAMAHA SR400 Final Edition Limited
43年の歴史を持つSR400が2021年3月にファイナルエディションの名前で発売されることになった……。写真は1,000台限定のファイナルエディションリミテッド
排気ガス規制で空冷は完全燃焼しにくい悪循環に
排気ガスは燃料と空気の希薄燃焼でクリーンになります。この希薄燃焼は高負荷の運転でなくても必ず高温になります。このより高温という条件が、まず空冷にとって厄介なのです。
高温になると、ピストンは膨らんでシリンダーとの隙間(クリアランス)を狭くします。シリンダーも内側へ膨張するため、隙間はさらに狭くなりオイルで潤滑していても擦れて焼き付いてしまうかも知れません。
そこでピストンとシリンダーの隙間をあらかじめ大きくするのですが、そうなると燃焼室の爆発で排気ガスがこの隙間を抜け、クランクケースなどエンジンの内部を循環するので、これをブローバイというエアクリーナーへ戻して再び燃焼室へ送り込んで燃焼させる還流状態の仕組みが必要になり、結果として排気ガスにも不利でパワーも期待できません。
ネモケンがDaytonaで240km/hを可能にした’71年型モトグッツィV7の巨大な冷却フィンを持つ空冷シリンダーとピストン。ピッタリ隙間がないように見えるが、燃焼の爆発はわずかな隙間をスリ抜ける
ピストン頭部の脇に排気で焦げた跡が……スカート部分に熱膨張したときの擦りキズがハッキリわかる
水冷は温度が一定に保たれるので優位
対して水冷エンジンは、高温であればラジエーター経由で冷却し、低温でもサーモスタットで冷却液をラジエーターへ送らないなど、常に一定の温度で運転できるため、ピストンとシリンダーの隙間も小さくできて、排気ガス規制にも対処しやすくなります。
またこれも厳しさを増している騒音規制でも、水冷はウォータージャケットにエンジンが包まれて、メカニカルノイズを封じ込めやすいメリットがあります。
キャブレターから電子制御の燃料噴射とするなど、空冷も相応に対応してきたのですが、そろそろすべてをクリアするには水冷よりコストがかかる……これではシンプルな空冷のメリットもなく、延命する理由が見出せない、というワケです。
250ccや400ccクラスで大量生産が前提の日本メーカーでは、諦めざるを得ません。
海外では新規の空冷エンジン開発も!
しかし海外メーカーには、依然として空冷の新型スポーツバイクを開発する例があります。
確かに排気ガス規制でパワーも稼げない、でも空冷ならではの穏やかなレスポンスなど、趣味の世界なのでパワーより感性を重んじるライダーが少なくない、そうしたコンセプトで空冷モデルの開発を進めているのです。
新規で設計開発すると、空冷でも何となかる道が切り開けると、ロイヤルエンフィールドやBMWで最新規制をクリアする新機種がデビューしています。
ただ、これは価格も高い大型スポーツバイクでのこと。いずれ消えてゆく運命の空冷……そう思ってしまいがちですが、ここへきてまた新たな光が見えてきました。
ホンダが昨秋、インド市場へ投入するハイネスCB350を発表したからです。これは紛れもなく空冷単気筒エンジン。日本でもクラブマンの名で懐かしいGBの車名で販売される可能性もあるらしく、そうなると撤退するヤマハに対し、カムバックするホンダと何やら因縁めいてきますネ。
いずれにしても、空冷ファンには目が離せない状況になってきました。
ハイネスCB350
ヤマハSRの生産終了で、ハイネスCB350の存在価値がより大きくなることは必須。空冷の超ロングストローク単気筒エンジンの乗り味に期待したい!
- Words:
- 根本 健