A. トルクはグイグイと押していく強さで、登り坂やカーブのトラクションで発揮されます。
エンジンのパワーは回転出力で最高速や加速力に直結、
トルクはクランクの動きで蹴るチカラをイメージしてください。
カタログや雑誌の試乗記事で最後に掲載されるスペック表記。
そこには最高出力:29kW(40PS)/8,000rpmや、最大トルク:38Nm/6,500rpmというエンジン性能が記されています。
内燃機関の原理で、1回の燃焼・爆発で得られる出力を、一定時間内に何度もこれを繰り返せばそれだけパワーは稼げます。
これが最高出力で、高回転化することで最高速度やスタートダッシュの加速に勢いをつけることができます。
ではトルクは何の強さを表しているのでしょうか。
これは物理学的に正確な表現でなくなるのですが、感覚的にわかりやすく説明をしてみましょう。
エンジンはピストンと、その上下運動を回転に換えるクランクとを、コネクティング・ロッドが結んでいます。
このクランク、とても重い錘の役割をする部分があって、これが振り子になって回転すると強い慣性力が働き、ピストンが圧縮で押し戻されたりしないよう勢いをつけます。
このグイグイと錘が回転するときに生じる勢いがトルクと呼ばれるチカラと思ってください。
ただ一定以上の高回転になると、このチカラは増えなくなるので、トルクカーブは上がフラットな台形のような特性となります。
トルクは大事な力強さがスペック表の数値ではわからない!
ここまでの説明で想像できるかも知れませんが、たとえばボートを漕ぐとき、オールで大きなストロークでグイーッと加速させるチカラがトルクのようなモノ。
そしてこのオールのストロークを速めていけば、スピードがどんどん出ます。ただある程度の速度になると、手の動きがそれ以上に速くできない、いわゆる最高速度に達してしまうワケです。
今度は自転車にたとえてみましょう。
いうまでもなく、速く漕ぐと速度も出て、スポーティな自転車は漕ぐ回転運動が足の動きで限界を迎えると、最高速度が抑えられてしまうため、ギヤを変速して足の漕ぐ回転を低めることでさらにスピードを出すことができます。
しかし登り坂になると、一回に漕ぐチカラがないと急勾配は走れません。
変速があればギヤ比でペダルを踏み下ろす速度を低くして、ペダルへ体重を載せる漕ぎ方に変えますよネ。
これも最高出力と最大トルクの違いをイメージできると思います。
ただトルクの発生は、エンジン燃焼室の爆発でピストンを押し下げるエネルギーだけではありません。
クランクのウエイトが外周近くに配分されたエンジンは、低中速のトルクを強めることができます
またひとたび低い回転域から強いトルクが出はじめると、徐々に勢いを増して体感的にもグイグイと力強さを感じやすくなります。
反面、高回転で慣性力の強さがレスポンスを鈍くするため、加速力や最高速度が優先されない特性ということになるでしょう。
このあたりはスペック表の数値には表れません。乗ってみないとわからない部分なのです。
低い回転域で大きく開けるのが安心と醍醐味を両得。
トルクを稼ぎやすい回転域で、グイグイと路面を蹴るにはこのシチュエーションが効果的なのは想像できるでしょう。
反対に回転が高めな領域で、少しずつ加速するようなスロットル開度では、トルクの発生も見込めずトラクションのは功を奏しません。
回転が低ければ、万一リヤタイヤがスリップしてもパワーのピーク域のように最高出力を発生する回転領域を目がけて一気に空転していしまうリスクもありません。
低い回転域なら滑っても空転する勢いには結びつかず、スリップを感知したらスロットルを戻す操作で充分リカバリーできます。
このように、最高速度やスタートダッシュなど日常的に必要度合いが少ない性能より、安心安全で醍醐味も味わえるトルクの特性が、街中からツーリングまで重要になるのはおわかりでしょう。
ただスペック表ではその違いがわかりません。
乗ってみて実際に感じて見ないと判断できないので、バイク選びでは試乗がとても重要になってきます。
- Words:
- 根本 健
- Photos:
- 藤原 らんか