まだキャリアも浅いので、サスペンションの調整は新車時のままです。でもせっかく装備されている調整なので興味津々、ビギナーが混乱せずに徐々に調整する手順を教えてください。
A. コーナリング好きだったら減衰は硬めという勘違いしやすい感覚から変えましょう。
まずは伸び減衰だけ調整して感触を覚えましょう。
大型のスポーツバイクには、サスペンションが調整できるようになっていて、スーパーバイクでは調整する箇所も多く設定されています。
キャリアがなければ、どこをどう調整したら良いのか、下手に触って乗りにくくしたしまわないか、そんな心配から新車の工場出荷時のまま乗っているケースが圧倒的です。
ただこの工場出荷時の設定というのがクセモノで、多くのライダーに合うように一番中庸な状態にしてあるということではないのです。
たとえばPL訴訟対策で、開発時の設定より硬く動かない状態にしているケースが多いのも事実。
高速道路が制限速度のないアウトバーンを、2人乗りに大きな荷物も積んだ状態でややカーブした箇所にある路面の段差を160km/hで越えたとき、グラグラとゆっくりしたピッチで揺れたら、ライダーに危険を感じさせ訴訟となるかも知れません。
またサーキットを走るとき、体重が80kgを超えるライダーに安定感がないと言われてしまわないよう、動きにくい無難な設定にしているかも知れません。
いずれにしても、大型バイクで日本国内の一般公道を走るなら、サス設定は硬過ぎると思って間違いありません。
ところでサスペンションの役割とは何でしょう。
乗り心地……それもありますが、一番重要なのは路面追従性です。
何せバランスの乗り物です。どんなときも路面をふたつのタイヤがしっかりグリップしていなければなりません。
これはサスペンション機能でいうと、伸び側の作動が決め手になります。
サスの縮む側が、路面からの衝撃吸収に大事なのはいうまでもありません。やんわりと吸収して車体へ伝えないことが求められますが、実はその次に起きる吸収で圧縮されたサスが元の位置へ戻る伸び側の動きが安定性の大きな鍵を握っているのです。
とくに大きく縮んだ直後は、バネの反発力で強く伸び、それが勢いづいて伸び過ぎた位置からまた圧縮されるという不必要な上下動を繰り返すかも知れません。
これを伸び側ダンパーの減衰力で抑え込み、フワフワと不安定な動きにならないようにするのですが、この伸び側ダンパーの減衰力が強過ぎると何と圧縮側の動きまで抑え込みがちなのです。
硬いサス設定が上級者向けというのは完全な勘違い!
サスペンションの上下動は単純ではありません。
路面の凸凹は大小様々が組み合わさる複雑な動きとなるので、伸びていく動きも小刻みに圧縮方向が含まれます。
ところがダンパーの構造は、オイルが封入された筒の中を円盤状のピストンが往復し、オイルが通る通路が狭いため動きを抑えるようになっています。
この注射器の先が細いと、ピストンの動きが抑えられる原理が、ダンパーでは封印されたオイルに圧力が加わり、さらに作動性を抑えてどんどん動きにくくなる油圧の原理が問題を複雑にするのです。
これを解決するのが、高価なリプレイスサスが内蔵している多段シムと複雑な回路とを組み合わせた特殊なピストン。
スーパーバイクのカテゴリーだと、新車から標準装備される機種も増えつつありますが、小さな動きは内部の圧力をシムが逃がしながらスムーズ且つ細かく追従できる、抜群の性能を誇ります。
そういった高度なサスのユニットには圧縮側もダンパーで抑える機能もありますが、これは大きくストロークした直後に行き過ぎないためのモノと考えてよく、経験の浅いライダーには調整しても効果がわかりにくいので、慣れるまでも無視して差し支えありません。
そしてサスペンションで最も勘違いしやすいのが、硬めのサスほどプロ好みとか、速く走るなら硬めのフットワークが云々など、○○伝説直伝の感覚的な表現で、これに惑わされてはなりません。
本モノのGPマシンは、サス設定が驚くほど柔らかく良く動きます。
路面追従性とリカバリーのしやすさをプロは最重視するからです。
万一のリカバリーも作動の速さが左右する。
ということで、まずは伸び側減衰力を最弱まで弱めてみましょう。
TENとか表記されているアジャスターで、マイナス方向へ回したりして弱めていきます。
フロントフォークにも伸び側アジャスターがあれば、これも最弱にしてください。
前後ともダンパーのアジャスターは、メインのオイルが通るオリフィスとは別の箇所に設置されています。
つまりメインのオリフィスにプラスする回路で調整を行うので、最弱にしても元のメインで機能している減衰力が失われることはないのです。
なので、ダンパーがゼロになってフワフワが止まらず危険な状態に陥るようなことはありません。
そして伸び側を最弱にすると、バイクを軽快に感じる感じるはず。
これはキャリアが浅くてもわかります。
なぜならバネ下と呼ばれる前後輪とこれをホールドしている部分が、減衰力で抑えられる要素が減ると、車体を操作する車体側(バネ上)の影響力が薄まるので、ライダーがアライメントに反した操作をしても、セルフステアなど本来の機能に沿った作動となるからです。
この軽快に操れる走りに馴染んでも、減衰力が弱過ぎることで車体の動作を鈍く感じたら、徐々にダンパーを効かせる方向で強めていくのです。
ただ動きを抑え込む変化は、キビキビした感触に勘違いしがちなので要注意です。
レスポンスとしては減衰力が強まれば遅くなったり重く感じるのが本来です。
そして万一スリップしたときのリカバリーにも、サスの伸び側が大きな影響を及ぼすことも忘れてはなりません。
MotoGPなどで、マシンが大きく揺れているのは、暴れ馬を御するロデオ乗りではなく、あの動きで待ったなしの転倒を防ぎ、リカバリーする時間的な余裕も前提にしているからです。
可能なかぎり減衰力の弱い状態とすれば、バイクまかせで本来の性能を最も引き出せるということになります。
もちろん自分が乗りやすいと思える状態を探し当てられるのが一番。
メーカーの設定がベストと盲信せず、ご自分専用の設定で楽しむようにしてください。