Vツインの趣味性の高さをスポーツバイク好きに目覚めさせる使命を背負ったBROS!

1987年12月、ホンダは個性派ロードスポーツバイク「BROS(ブロス)」2機種を発売した。
ひとつは647ccのProduct One、もうひとつは398ccのProduct Two。
狭角52°のVツインを、レプリカ系と同じアルミ・ツインチューブと片支持のプロアームで構成された車体へ搭載、太いショートマフラーが右側から顔を出す、トラディショナルな狙いを漂わせながらクラシカルではない新カテゴリーをアピールしていた。

1980年代にレプリカブームとなって、毎年モデルチェンジする過当競争にユーザーはもちろん、メーカーも辟易としはじめていたタイミングでもあった。
ホンダはパフォーマンスばかりを追うのではなく、GB400/500のようにマン島TTレースイメージのカテゴリーも創出したが、幅広い層にはビンテージの匂いがしない新感覚のトラディショナル・バイクが必要との考えに至ったのだ。
そして発売をスタートする際、カタログや雑誌広告で「G感」という謎めいたキャッチフレーズを掲げた。
「G」というエネルギーを暗示する英文字に、究極の性能は求めないけれど軟派ではない硬派なスポーツバイク……そんな空気を伝えようとしたのだ。


BROS、ブロスとはBrothers(兄弟)の略。
650ccと400ccの2本立てだが、敢えて排気量を車名に使わず、Product OneとProduct Twoと呼ぶことで、既存の価値観とは次元の異なるコンセプトの思いが込められていた。


この52°Vツイン、実は1983年のNV400SPやNV400Customで使われはじめた新世代エンジンで、他の常識的な90°や45°のVツインが2気筒でもクランクピン1本を共有するのに対し、各気筒でピン位置を適宜レイアウトできる特異なクランクウェブを構成、1次振動を打ち消しつつ鼓動に個性を感じる、テイスティなVツインを狙っていた。
Product Oneは79×66mmのボア×ストロークで647cc。吸気2バルブで排気1バルブの3バルブ燃焼室は、55ps/7,500rpm、5.7kgm/6,500rpm。
Product Twoは64×62mmのボア×ストロークで398cc、同じく3バルブ燃焼室で37ps/8,500rpm、3.5kgm/6,500rpm。
単気筒並みにスリムなVツインのため、跨がると頼りないほど燃料タンクの幅が狭く、ホイールベースも1,430mmとコンパクト、車重はやや重めで181kgと180kgだった。
ファンにはこれまでないエンジンと車体や足まわりの組み合わせで、確かに新しい未知のゾーンを感じさせ、峠で膝を擦るライダーたちとは一線を画した層の注目を集めた。
ただこれだけスリムなVツインであるのに、イタリア車のような鋭いリーンにはならない安定感で、一定の運動性を感じさせながらステディなハンドリングにまとめられ、パフォーマンス狙いではない機種とはいえ、剛性の高いフレームと相まって、サーキットを走らせるとなかなかの醍醐味で、実は腕の立つライダーには評価が高かったのだ。


しかし初期の新しいモノ好きなファンに定着すると、ブロスはいきなりニーズがストップ。
硬派を標榜したセパレートハンドルも、ハンドルの高さを一般的なネイキッドバイクと近い位置へ変えるなど、個性が敷居を高めていたのを崩しはじめ、当初の気高さがスポイルされてしまい、ある種の悪循環へ陥っていた。
とはいえ1990年モデルで燃料噴射化され、ホイールデザインの変更やラジアルタイヤ装着となったが、結局これが最終モデルとなる短命に終わった。


ところがこの52°Vツイン、海外向けのシャフト駆動によるNTV650はミドルクラスで人気モデルとなり、その後にツーリングスポーツとして特化、カウルやパニアケースがセットされたNT700まで進化を遂げていた。
またオフ系モデルでも進化を遂げていて、一世を風靡したTRANSALPに搭載され、長きにわたり現役エンジンを務めていくことになる。
オンロードスポーツでは、アメリカンだけでなく1995年のVRX ROADSTERにもなったが、多くのライダーがその存在さえも気づかないマイノリティだった。
このように52°Vツインは、大ヒットモデルには繋がらなかったが、幅広く進化し長年にわたりミドルクラスの心臓部として生き存えていたのだ。



