飛行機の燃料キャップを模した形状が主流に
近年のバイクの燃料キャップは、スーパースポーツもネイキッドもカテゴリーに関わらず、閉じると燃料タンクの上面と滑らかに平らになるタイプが多い。この形状の燃料キャップは「エアプレーンタイプ」と呼ばれるが、なぜ主流になったのだろうか?
エアプレーンタイプの呼び名の通り、この形状は“飛行機の燃料キャップ”を模したものだ。飛行機は燃料タンクを主翼の中に備える場合が多い。そして小型機などは、翼の表面に直に燃料の給油口が設けられている。とはいえ揚力で浮き上がる飛行機にとって、とくに翼の表面に余計な突起物など無いに越したことはない。そこで翼の表面と真っ平になって、空気抵抗にならない燃料キャップが考案されたのだ。
そんな航空機用の燃料キャップに目を付けたのがレーシングマシン。バイクだとキャップの位置的に空気抵抗は関係ないように感じるが、じつは多くのメリットがあった。
まず飛行機で使うくらいなので確実に閉まって燃料漏れを起こさない。それに開口部が大きくレバー操作で簡単に開閉できるので、素早い給油作業が可能になる。そして燃料タンクの上に飛び出さないため、ライダーがピッタリ伏せる時に邪魔にならない。キャップ単体では空力に関係ないが、ライダーの身体やヘルメットの高さを考えると空力効果が得られるワケだ。
そのためエアプレーンキャップはレーシングマシンに瞬く間に広まった。……となると、マネしたくなるのがライダーの性。そして迎えた’80年代はレーサーレプリカの大ブーム。そこでバイクメーカーもエアプレーンキャップに似せた燃料キャップを採用することに。市販バイク初装備はスズキのRG250Γ(1983年)で、その後は一気にエアプレーンタイプが主流になった。
アメリカSHAW AERO DEVICE社の航空機用の燃料キャップ。’70年代にスズキのWGPワークスマシンのRG500にも使っていた。相応に高額だが、’80年代頃は人気のカスタムパーツだった。
スズキが1983年に発売したレーサーレプリカ「RG250Γ」が、市販バイクで初めてエアプレーンタイプのタンクキャップを採用した。
ところが元になったレーシングマシンの方は、スプリントだとレース中に給油の必要が無いため、小振りなネジ込み式などメーカー独自のタイプに変わっていった。また耐久レースでは数秒で満タンにできる“クイックチャージ”が主流になり、こちらも給油機と合わせて専用のキャップを装備するようになったため、航空機用キャップは使われなくなった……。
とはいえ燃料タンクの上面がフラットになるエアプレーンタイプのキャップは、一般ライダーにとっても“タンクバッグを装着する際に邪魔にならない”という大きなメリットがある。そのためか、現在も多くのバイクがエアプレーンタイプを採用している。
その反面、ネオレトロ系のバイクでは、タンクの上に突出したクラシカルな燃料キャップも人気アリ。たとえばトライアンフは往年のエノット社のキャップを模したデザインを採用しているし、カフェレーサー系のカスタムでは選ぶ人も多い。
耐久レースでは’80年代初頭から、燃料を一気に入れる“クイックチャージ”が普及したため燃料キャップも専用品が使われている。
トライアンフの「スピードツイン」は、かつてレーサーに使用され、カフェレーサーのカスタムでも人気のエノット社のMONZAをモチーフにしたクラシカルなデザインのキャップを採用する
エアプレーンタイプの機能性や利便性も大事だが、旧車系のスタイルや質感に拘るのも楽しい。貴方はどちらが好きですか?