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タイヤを潰せば浅いバンク角で曲がれる【ライドナレッジ049】

Photos:
藤原 らんか,渕本 智信
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上り坂は曲がりやすい、それがトラクション効果

山の中で、上り坂のカーブだと安心して曲がれる……誰でもそう感じるはず。これは登り勾配に対しスロットルを開け続ける、つまりエンジンのトルクによる駆動力で後輪が路面を蹴る状態が続いているからだ。
下り坂では加速するとスピードが出てしまうので、こうはいかないのはご存じのとおり。
後輪は旋回しながら路面を蹴ると、曲がっていく方向が安定してより強く曲がれる。このパフォーマンスを専門用語でトラクションと呼んでいる。
そしてこのトラクション効果、後輪のタイヤを潰すほど曲がり方も安定性も強まる。それは深くバンクしなくても強く曲がれるという、一般道路でリスクを減らし醍醐味も楽しめる一石二鳥のテクニックでもある。
ただ駆使するにはエンジン回転やスロットルの開け方にコツが要るのだ。

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加速でリヤは沈まず、タイヤを路面に押し付ける

スポーツバイクは、チェーン駆動だとスイングアームのピボットを高い位置にすることで、エンジンの駆動でチェーンが引っ張られるとタイヤを路面に押し付ける設定にしてある。シャフト駆動も同じ方向へ応力が働く。
加速でリヤが沈むと感じるのはフロントフォークが伸びる動きを相対的にリヤが沈んでいるように勘違いしているからだ。もし加速でリヤが沈んだらコーナリング中にタイヤが路面から離れやすくスリップを誘発してしまうことになる。
しかしこのトラクション効果、カーブの出口で加速するときには使えても、上り坂でない平坦路だったらどんどん加速してしまうので短い区間のみの効果と思いがちだ。
このトラクション区間を長くとるコツは、まずエンジンの低い回転域を使うこと。アイドリングの少し上、およそ2,500~3,000rpmからの狭い範囲にタイヤを潰せるグイッと強まる質のトルクが発生する。
最大トルクの領域は、駆動力が最大でもトルクの上昇がフラットで、曲がれる質から遠ざかってしまっている。
そしてグイッと大きめにスロットルを捻らないと、この曲がれるトルクにはならない。
丁寧に徐々にスロットルを開ける操作だと、スムーズに加速を強めるものの曲がれるトルクには結びつかないのだ。

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ジワッと開けてグイッと潰す!

それではまず直線道路の前後に他の交通がない状況で、練習というか感覚を掴んでおこう。手始めは3速にしておき、エンジンをアイドリングよりちょっと上の、ガタガタ振動しない下限の回転域を使って、ジワッと大きめにスロットルを捻ってみよう。大型車でもこの回転域ではいきなりダッシュはできない。もちろん5,000rpmとかまで開けっ放しだと鋭い加速領域になるので危険な状況に陥らないようその手前で加速はやめる。
対して、徐々に開けてみると穏やかな加速とはいうものの、タイヤが路面を蹴る、車体を押しだすような駆動力と安定感は得られないのがわかる。

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タイヤが潰れるトラクションを続ける矢継ぎ早のシフトアップ
深くバンクせずに曲がれるテクを身につけよう!

このタイヤを潰すトラクション区間を繋いでいくには、低回転域でトルク上昇が著しい「トラクションを使いやすい領域」を、シフトアップすることで次のギヤで同じような路面を蹴る回転域に繋ぎ、それが鋭い加速となる前に次のギヤへシフトアップしてまた繋ぐ……これをトップギヤまで繰り返すのだ。
ただシフトアップで、スロットルを戻す→クラッチを切る→ギヤチェンジ→クラッチを繋ぐ→スロットルを開ける、と時間をかけていたら、駆動が途切れて旋回中だと安定性を欠くことになってしまう。
コツは小さく素早く操作することで、スロットルも手首をピクッとさせるくらいにしか戻さない。これが連続的にできて繋がるようになったら、次にカーブで試してみよう。パワーシフトが装備されているスーパースポーツなら、クラッチに触らずスロットルも戻すことなく開けたままシフトペダルを掻き上げるだけだ。
ワインディングで操作が忙しくなるが、こなれてくるとシフトアップが醍醐味を長く味わえるキーポイントになるので、面白くて仕方なくなるに違いない。
このトラクション効果で、リスクのない醍醐味の大きなライディングをめいっぱい楽しもう!

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