ひとつのカム、ふたつのカム
カタログや試乗記事の最後に掲載されているスペック(仕様)で、エンジン形式の最初に「DOHC」とか「OHC」と表記されているのはご存じのはず。 このDOHCは、ダブル・オーバー・ヘッド・カムシャフトの略で、カムシャフトが2本あって通常は1本のOHC(もしくはシングルの1本を表すSOHCと表記されることもある)より高度な、高回転高出力エンジンの仕様であるとアピールしているのだ。
現代のエンジンはOHC(SOHC)が基本の仕様。燃焼室の上に1本のカムシャフトが配置され、このシャフトに偏心カムで盛り上がった部分があり、そこをロッカーアームが表面をなぞって吸気と排気のバルブをそれぞれ押し開けたり閉じたりを繰り返している。
ロイヤルエンフィールド650ツインの分解スケルトンで、気筒あたり吸気2本+排気2本の4バルブと、クランク回転から1/2に減速されたタイミングチェーンでカムシャフトが駆動されている仕組みがイメージできると思う。
クランク2回転=ピストン2往復で、吸気・圧縮・燃焼・排気の1行程となるそもそもの仕組みもおわかりだろう。
ふたつの膨らみが高回転高性能のシンボル
この4ストロークエンジンを高出力化するには高回転、つまり燃焼の回数を増やせば良いことから、レーシングエンジンはピストンなど往復運動するパーツを小型化して慣性抵抗を減らす多気筒にする歴史を刻んできた。
そうなると高回転で往復するバルブを、カムで直に押したほうが追従しやすいので、吸気バルブ用と排気バルブ用にそれぞれカムシャフトがある仕様が開発されたのだ。
’65年に2ストのヤマハに対抗するため、ホンダは250ccクラスに何と6気筒エンジンを開発、当時では常識を覆す20,000rpmと途方もない超高回転で他を圧倒、このRC166でもエンジンのアタマに大きなふたつの膨らみがDOHCであるのを誇らしげに見せていた。
そして1969年に登場したCB750フォアは、量産市販車では初の4気筒エンジンで一世を風靡、ところが仕様はSOHCだったのを見据えたカワサキが、満を持して排気量を900ccにアップしてDOHC仕様でデビュー、一躍世界のスポーツバイクの王座に君臨することとなった。
以来、スーパースポーツはDOHC多気筒が定番となったワケだ。
DOHCでも直押しではなくロッカーアームを介しコンパクト且つ抵抗を減らす
DOHCは超高回転域でもバルブがサージングといって、往復運動が急ピッチでカムが回転する膨らみに追従できなくなる現象を避けるため、強いバルブスプリングを直に押すというダイレクトさがメリットだったが、いまや燃焼室をコンパクトにするためバルブの挟み角が狭く、2本のカムシャフトが位置するスペースも限られることもあって、何とSOHCと同じようなロッカーアームを介する仕様が増えてきた。
ドゥカティの新しいV4エンジン、そしてホンダもDOHCはSOHCのようなシーソー式ではなく、支点がいっぽうだけにある超コンパクトなロッカーを介する仕様が採用されている。
メカニズムが複雑になっても、それらを駆動するため如何に抵抗を減らすのか、そういった効率アップがエンジン技術の最先端という時代だ。
さらには回転域でカム特性(プロファイル)を切り替える、以前から盛んに開発されていた機構も複数のメーカーから登場するなど、スポーツバイクのエンジン開発はまだまだ追求の手を緩めていない。