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タイヤ性能のグレードを高めるカーカス材質【ライドナレッジ089】

最新タイヤのパフォーマンスは内部のカーカス特性が支えている

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高性能タイヤのパフォーマンスは、路面と接するトレッドコンパウンド(ゴムを複合素材で練り上げた材質の意味)によって決まるとイメージする人がほとんどだろう。
確かにサーキット走行などで表面が溶けたような状態に触ると、タイヤ温度が上昇してベタベタと粘着力が高く、益々そういった思いを強くする。
しかしこうしたいかにも目に見えたり触れたりする部分と同じか、実はそれ以上に重要ともいえるのが、カーカスと呼ばれる内部の繊維層なのだ。
このそもそもを支えているカーカス(骨組みの意味)は、車体でいえばフレームの役割で求められる強度や、サスペンションでいう衝撃吸収やその動きを適度に抑える減衰性能(ダンパー)を追求して開発されている。
ではなぜカーカスという繊維層が存在しているのかといえば、元々はタイヤに空気を充填したとき、チューブの浮き袋のようにみるみる膨らんでしまうと荷重や衝撃に耐えられないため、一定の大きさでそれ以上膨らまないよう抑える役割、つまり空気圧を高める外枠で、高荷重に対してたわみながら潰れない強さなど、基本機能はこのカーカス次第になる。
もちろん衝撃を吸収しつつ腰砕けにならない強さで支えるカーカス性能が高くなければ、路面追従にかぎりが出てしまい、どんなに粘着力の強いコンパウンドも意味をなさない。
最新のロープロファイル(扁平)でワイドなラジアル構造は、高速域の回転でタイヤが遠心力に負けて膨らまないためのベルトが円周方向に巻かれ、路面追従性などしなやかに対応したい特性は、ベルトとは90°直交したサイドウォールからトレッドを跨ぎサイドウォールとを結ぶカーカスが担っている。
ということで、衝撃吸収やその動きを適度に抑える減衰性能のため、空気圧で張った状態になった状態で、腰のある強さとしなやかな追従性の両立が重要となるワケだ。
が、さらに高い次元での性能として求められるのが、グリップの限界付近で滑り出したとき。
一気にスリップダウンしては、ライダーにコントロールできないので、これをズズズッと徐々にスライドさせる持ちこたえながら応力を逃がすような特性も、コンパウンドによるところもあるが、実はカーカス次第な部分が大きく占めるようになってきた。

振動を伝えず減衰できるカーカスは高コストな繊維を使ったグレードの製品にかぎられる

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実はこうした極限状態では、振動が最大の敵。タイヤが振動?と思われるかも知れないが、滑りはじめたときミクロに見ると振動状態になって、路面との接地圧が弱まっていくからだ。
この振動を抑制、つまり減衰できれば、限界付近のグリップとコントロールできる限界特性が向上する。
この振動を抑える性能を早くから求められていたのが、スポーツカーなどで使われるクルマの超ロープロワイドなタイヤだった。
あのタイヤメーカーのブランドロゴも読めないほど短くなるいっぽうのサイドウォールで、この減衰特性と振動を抑えるカーカス繊維として主に使われるのがレーヨン。
タイヤのカーカスに使われる繊維は、一般的に知られる衣料繊維とは異なり工業繊維としてつくられた別モノだが、わかりやすく説明するため主な特徴を比喩として使える範囲で触れていこう。
まずタイヤのカーカスで最も使われるのがナイロン。ポリアミドとも呼ばれ石油系を原料とする丈夫でしなやさが最大の特徴だが、この振動の伝播では、レーヨンやポリエステルと比較すると抑えにくい。
ついでに触れておくと、引っ張り強度が金属並みに強く、ラジアルのベルトなどで使われるアラミド繊維も、ポリアミドの一種。
レーヨンは以前に衣料だと人絹と呼ばれていた、シルクのような柔らかさと折り曲がれにくい腰がある。原材料は木材から加工した繊維で、振動は繊維そのものが伝播させず減衰してしまう特徴がある。
そのため工業用レーヨンは、ゴム製のベルトコンベアでタイヤのように芯材として使われていたが、強靭さでポリアミド系にその地位を奪われ、東側の共産圏で残っていた工場もほぼなくなり、タイヤとしてのニーズからヨーロッパのタイヤメーカーが異業種でも傘下に収め細々と継続されている。このため猛烈に高コストだ。
ポリエステルも衣服で肌触りが柔軟な特徴があるのと同じく、しなやかさで工業用繊維でカーカスにも使われるが、腰の強さや減衰特性ではレーヨンに敵わないもののコストはかなり抑えられるため、クルマ用タイヤではレーヨンの代替品とされることも少なくない。
また最近ではリヨセルという、ユーカリ由来のカーカスも開発されている。衣料用だとテンセルと呼ばれるシルクタッチな繊維なのでご存じかも知れない。これはレーヨンが天然由来とはいえ化学的処理で公害にも影響するため、時代のニーズとして最終的に分解されることから高コストでも使われていくものと予想される。

海外製のタイヤにはカーカス素材が表記されるのでコストの高いタイヤなのかをチェックできる

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実に小さな文字なので、すぐには見つけにくいが、海外製のタイヤではこのカーカス素材をサイドウォールに記していることがあるので、チェックしてそのタイヤがコストをかけたグレードの高い製品か否かをチェックできる。
TREAD 1RAYON +1STEELは1層のスチールベルトが路面に接するトレッドに円周方向へ巻かれ、SIDEWALL 1RAYONは1層のレーヨン製カーカスがベルトの下層に90°で直交する、つまりホイール軸からみると放射状にタイヤ全体を覆っているということになる。
因みに国産タイヤには表示がないが、輸出用では仕向け地のレギュレーションに従って表示している。
サイドウォールには、タイヤサイズや荷重レンジなど規定の表記のほかに、製造日がわかる製造年週の表記があって、上2桁は週を、下2桁は年を表示しているので、0310は2010年の第3週に製造したものであるのが判明するため、古くなり過ぎて性能が著しく落ちるリスク回避にも役立つ。