思いきり握って作動したABSは制動距離を伸ばしてしまう
急制動で転倒のリスクから守ってくれるABS(アンチロックブレーキシステム)。仕組みからタイヤが滑ったとき反応してブレーキリリース、グリップ戻ったらブレーキ入力を瞬時に繰り返すので、最も効率良く制動してくれる……それは基本間違ってないのだが、フロントフォークの路面追従性能を度外視しているのを含んでおく必要はある。
たとえばやみくもにチカラいっぱいブレーキレバーをワシ掴みしてかけると、フロントフォークは勢いよくフルストロークまで沈むだろう。
そうなると奥まで沈むほどボトミングの衝撃を和らげる油圧によって動きが抑えられ、フロントタイヤが路面の小さな凹凸の表面だけをなぞり路面追従能力が鈍化、グリップ性能は落ちてしまう。
これはABSが作動する前だろうが、作動してからでも変わらない。
このため、いきなりブレーキ入力が立ち上がる乱暴なかけ方より、ジワッと効かせるやんわり入力のほうが制動距離が短く安定も良いブレーキングになるのだ。
ただツーリングでたとえばトンネルを出たらいきなり路面が濡れていたり、どんなベテランやプロでも予測できない状況に遭遇することがある。
そんなフェイルセイフ機能は必ず必要で、ABSを否定しているのではないことをお忘れなく。
フロントフォークのスプリングにブレーキに耐えられる強さはない
なぜフロントフォークがブレーキングで容易く奥まで沈んでしまうのか、それは元々装着されているスプリングが極端に柔らかいからだ。
一般的に大型バイクだと、リヤサスは片方1本でバネレート3.0kgf/mm(もっと強いケースもある)あたりで2本ならその倍の強さになる。
対してフロントフォークのスプリングは、片方1本でバネレート1.0kgf/mmほどで2本あるので倍の強さになるものの、リヤサスと比べて30%ほどの弱々しい設定だ。
それは空転している前輪が、曲がるとき後輪が旋回する外側の同心円で、膨らまないよう支え棒のような役割を最優先しているため。
このとき前輪がスリップしたら、車体は瞬く間に転倒に陥る。
そこで路面を舐めるように追従させるため、極端に柔らかいスプリングを予め締めておくプリロード設定で耐荷重は車重に合わせるものの、荷重の大小には耐えにくい状態になっている。
そこに「ガツン」と衝撃を加えるようなレバーの握り方を加えれば、勢いよく一気に奥まで沈んでしまうのは当然だろう。
もちろんフルボトムで衝突するような状態は、即転倒となるので封入されているダンパーのフォークオイルによって減衰される。しかしその状態で路面追従性が良いワケがない。
どんなときもジワッとやんわり入力がブレーキングに優れる
もうおわかりのように、ブレーキ入力は急激に立ち上がる操作がNGで、常にジワッと入力が加わるレバーの扱い方が重要になってくる。
そのため、親指のつけ根を支点に4本の指で「握る」操作は、急ぐとワシ掴みになりやすいのと挟む動作が入力のデリケートなコントロールはしにくいので、操作方法そのものを変えておくのがお奨め。
ハンドルを外側2本の指でホールド、人差し指と中指でレバーを上から押し気味に指の腹へ滑り込ませる操作手順だと、どんなに急いでも衝撃となる入力にならず、レバー入力の強弱も感じやすいので大事なリリースコントロールでデリケートな操作が可能となる。
さらに加えておくと、もう既に気づいている方もあると思うが、最新になればなるほどブレーキがガツンと効くバイクは消滅しつつある。
あのガツンがいかにも効いた感じがして頼りにしていた方には不満かも知れないが、効率良く安全に減速するにはやんわり効くほうが圧倒的に優れるからだ。