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IMU(6軸センサー)って何のため?【ライドナレッジ028】

いまどのくらい加速していてどんな傾斜姿勢にあるのかを検知する

バイクを上手く操るには様々なライディングテクニックもあるが、同時に「いま、バイクがどんな状態にあるのか?」を正確に把握することが大切なのは、なんとなくイメージできるだろう。じつはIMUが行っているのは、まさにコレ。
最近のバイク、とくにスーパースポーツ系には、ライディングモードやトラクションコントロール、レースABSやセミアクティブサスペンションなど、スポーティなライディングをサポートする様々な電子デバイスが装備されている。しかしこれらの電子デバイスが威力を発揮するには「いま、ライダーが何をしたくて、バイクがどんな状態にあるのか?」を、バイク自身が正確に把握していることが重要だ。
まず「ライダーが何をしたいか?」は、スロットルの開け閉め(スロットルポジションセンサー)やブレーキの強弱(ABSユニット)、シフトチェンジ(ギヤポジションセンサー)などの操作で、ある程度判断できる。ところが「バイクがどんな状態か?」については、従来はスピードとエンジン回転数、使っているギヤの段数、前後タイヤの回転数くらいしか知ることができなかった。たとえば前後のタイヤに回転差があれば、ブレーキングでタイヤがロックしそうになっている(ABSが作動)とか、加速時に後輪が空転しているか(トラクションコントロールが作動)を判断できるが、これだけでは車体が直立して真っ直ぐ走っている時しか正確な情報が得られない。本来であれば、スリップや転倒のリスクが高い、車体がバンクしたコーナリング時こそサポートしてもらいたいということになる。 そこで登場したのがIMU(イナーシャル・メジャーメント・ユニット)=慣性計測装置。バイクの姿勢と動きを計測して「いまバイクがどんな状態にあるか」を、緻密に検知する装置だ。

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6軸IMUで、ナニが解る?

ピッチ(前後軸に対する回転)、ロール(左右軸に対する回転)、ヨー(上下軸に対する回転)の角速度と、前後/左右/上下方向の加速度を検知する

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写真はボッシュ製の6軸IMUユニットで多くのバイクメーカーが採用。他にコンチネンタル社製や、ヤマハは自社(センサーは村田製作所)で6軸IMUを開発。電子的なジャイロセンサーと加速度センサーを内蔵する。厳密には異なるが、スマートフォンやゲーム機のコントローラーなどでも似たようなセンサーが使われている

リアルタイムでバイクの状態が解るから、緻密に制御してライダーを強力にサポート!

「角速度と加速度を検知」と言われても、なんとも難しく感じるに違いない。とくにあまり聞いたことのない「角速度」について説明すると、ある中心のまわりを運動している回転の角度で時間的変化率のことを意味している。これとイメージできるだろう加速度とを組み合わせるのだ。
たとえばIMUが「右にロール&右にヨー&前方向にピッチ」かつ「前後方向で減速」と検知したら、右コーナーの進入~旋回状態だろう。しかも、これらが徐々に強まっているなら減速しながらの進入状態で、変化が少なく安定しているなら旋回状態と判断できる。そして、ここからロールが直立方向に変化しながら前方向に加速しているなら立ち上がりだ。そんなコーナリング中に急激にヨーの角速度が増したら、後輪がスリップしてリヤを振り出していると推測できる。実際にはIMUでもっと複雑に動きを検知し、さらに前後タイヤの回転差などを加味して、「いまのバイクの状態」を総合的に判断しているわけだ。

そうすると、どんなメリットがあるのか? たとえばコーナーの立ち上がりで後輪が滑りそうになった際に、トラクションコントロールで緻密に制御して横滑りを抑えたりスリップダウンを回避できる。しかも最新のライド・バイ・ワイヤ装備なら、点火カットや燃料噴射量だけでトルクを抑えるのではなく(これだとスリップや転倒は免れるが、タイム的には遅くなる)、電子制御でスロットルを最適な速さと開度にジワッと開けることで、最大限のパフォーマンスで曲がりながら立ち上がっていけるのだ。これはもう、とてつもなくスキルが高いライダーが絶妙なスロットルコントロールを行っているのに近い状況だ。
他にもブレーキ時のタイヤのロックを防ぐ目的のABSも、前後タイヤの回転差だけでなく、車体の傾きや加減速なども加味しているので、コーナリング中のフルバンク状態でもブレーキ操作が可能になってくる。そのため「レースABS」や「コーナリングABS」と呼ばれ、従来の「安全装置」の枠から大きく進化したスポーツ装備に進化しているのだ。また、サスペンションをリアルタイムで走りのシーンに合わせた設定に自動調整する「セミアクティブサスペンション」も、IMUによって車体の姿勢や動きの検知ができるからこそ可能になったフィーチャーのひとつだ。

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スポーツライディングをサポートする多くの電子デバイスに情報を提供

IMUによる情報がライディングモード(パワーモード)やトラクションコントロール、コーナリングABS(レースABS)、ウイリーコントロール、電子制御サスペンションなどの電子デバイスのコントロール精度を飛躍的に高めた。

経験の浅いライダーのサポートにもIMUが貢献

こうしたパフォーマンスを高度に支えるIMUが、スポーツ走行に欠かせない装置と理解はできるだろうが、ツーリングや街乗りがメインのライダーには無用の装備と思えるかもしれない。
しかし実際には経験の浅いビギナーへの貢献度のほうが高いといえるのだ。
たとえばコーナリングABS(レースABS)は、速度レンジの低い峠道のカーブでも有効なので、従来のABSよりいっそう安全度が高まる。また坂道発進でブレーキを保持して発進を容易にしてくれる「ヒルホールドコントロール」も、IMUの連携で実現している。さらに最新の「アダプティブクルーズコントロール」はレーダー技術によるところが大きいが、カーブを曲がっていたりレーンチェンジ中の速度維持や加減速は、やはりIMUで車体の姿勢や動きを把握できていないとスムーズかつ安全に行うことができない。IMUはスポーツ性はもちろん快適性の向上にも大きく役立っているのだ。

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ヒルホールドコントロール

メーカーによってデバイス名や作動状態も若干異なるが、坂道発進をサポートするデバイス。写真はスズキのVストローム1050XTで、上り坂でブレーキをかけて停止するとIMUが車体の状態を検知し、ブレーキレバーやペダルを放しても約30秒間リヤブレーキを自動的に作動させる。ツーリングや街中でも非常に便利な機能だ。

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アダプティブクルーズコントロール(ACC)

設定した速度で走り続ける従来のクルーズコントロールから大きく進化。前走車との車間距離等をミリ波レーダーで検知し、IMUによる自車の状態と動きの情報と合わせることで、車間距離を一定に保ったり、道路の勾配や曲がりにも影響されず、必要ならブレーキによる減速も行う。このデバイスもIMU無しでは実現できない。