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シート高で乗れるバイクが決まってしまう……?そうともかぎらない、いくつかの対処法!

Photos:
藤原 らんか,長谷川 徹,ロイヤルエンフィールド,DUCATI,本田技研工業

足の届かないバイクには乗れない?
シート高800mmあたりが身長160cmで安心できる高さというけれど……

身長が175cmとか180cmあれば、足着き性で乗れるバイクが決まってしまう、などという悩みはないだろう。

しかし小柄な女性で155cmとなると、とりわけビッグバイクではシート高の目安が780mm以下といわれ、選べるバイクも極端に少なくアメリカンタイプがほとんど。 それに男性でも165cmだと860mm以下といわれているものの、車種によってはシート形状やエンジン幅など、830mm表示でもつま先がやっと着く程度で、立ちゴケの危険度が高過ぎると感じて尻込みされてしまうケースも少なくない。

[主なバイクのシート高]

  • ドゥカティ Newモンスター 820mm775mm/日本仕様:ローシート、サスペンションキット装着時)
  • ドゥカティ パニガーレV4S 835mm
  • ドゥカティ ストリートファイターV4 845mm
  • ホンダ CB400 SUPER FOUR 755mm
  • ホンダ CBR1000RR-R 830mm
  • KTM 390 DUKE 830mm 790DUKE 825mm
  • ヤマハ MT-09 825mm
  • ヤマハ MT-07 805mm
  • スズキ ハヤブサ 800mm
  • カワサキ Ninja H2 825mm
  • MVアグスタ ブルターレ800 830mm
  • ロイヤルエンフィールド INT650 804mm

まずはカタログのスペック表記だけを信じないで、実車に跨がらせてもらい、ご自身で確認されるのをお薦めしたい。

ただ身長の低いライダーには辛いハナシだが、最新の高性能バイクほどシートが高い傾向にある。これはタイヤの性能やサスペンション、そして電子制御も含め旋回時に許容できるバンク角が深くなり、必然的にライダーが低い位置だと容易にステップが接地してしまう事情もある。
またコーナリングでライダーの体重を、後輪の旋回力アップへ活用するのに必要な位置関係(レーシングマシンはどれもシート位置が高い!)という理由も加わる。

というワケで、憧れのバイクのシート高をチェックしたら、足が着きそうにないのを知って愕然としたり、実車に跨がって両方のつま先さえ届かないのがわかり奈落の底へ突き落とされたり……いや、でも乗りたいバイクに乗るのが一番。
何とか足が届くようにできるかも知れない、いくつかの方法をご紹介しよう。

サスペンションのプリロード調整で車高を下げる

ビッグバイクなら、どの車種にもリヤサスペンションにプリロード調整がついている。2本サスのバイクなら、スプリングの座金の位置を5~7段に調整が可能だ。標準位置が調整の真ん中か、一段弱い位置にしてあるのがほとんどで、これを最弱位置まで緩めよう。
スーパースポーツのように、リンクを介したモノサス(1本サス)だと大抵はロックナット方式で無段階にかなり大きくプリロード調整が可能なはず。
その差がわずかすぎて、やっとつま先が届く程度じゃ不安は消えない、そう思ったとしても足の着き方にもコツがあるので、やれることはすべてやっておこう。

それと、新車を購入してメーカーが設定した「標準位置」を変えてしまうことへの抵抗感があるかも知れないが、そんな心配はご無用。
オートバイは誰が乗っても「悪くない」設定を求めるほど、誰にも「良くない」ことになっていくのも事実。
というワケで「標準位置」は妥協した結果ともいえるので、そこから調整できる最大幅まで変更を加えても、危険だったり乗りにくいほどの変化は起きないのでご安心を。
もちろん、極限を走るレースではミリ単位の変更が明暗を分けたりするが、それは遥かに異なる高い荷重の世界でのことで、同列で考える必要はまったくない。

そもそもパーソナライズさせて、ひとりひとりに都合の良い状態へ調整するのが本筋で、それはハンドリングについてだけでなく、足着き性でもライダーにメリットであれば重要なパーソナライズのひとつに違いない。

またショップによっては、リヤが沈み過ぎると相対的にフロントのアライメントキャスター角が増え、直進性が強まって曲がりにくい……などメーカーの設定値は触らないほうが良いという考えもあるだろう。
しかし、それはバイクに馴染んで自在に操れるキャリアが身についてから、その「標準位置」も試してみればよく、慣れる前は立ちゴケの心配をせず、躊躇なく走れる身近さを優先するのがユーザーメリットだと思うのだが……。

ひとつ誤解を生じないように断っておきたいのが、このシート高を身長の低いライダーに合わせて下げるのは、ライダーが乗車したときサスペンションがどこまで沈んでいるかをチェックして、リバウンドストロークという、沈んでいる量がタイヤが滑ったときに伸びて路面追従を失わないリカバリー能力が効く位置にしておくという、乗り出しの「サグ出し」(サグ→たわみでスプリングが車重とライダーの体重で縮むという意味)とは異なるということ。
あくまで足着きが喫緊の課題である場合の説明であることをお忘れなく。

それとシートのスポンジを、表皮を剥がして中のスポンジを削って薄くする、昔ながらの手法も効果はある。
ただ乗り心地や大事な座面のグリップ性など、走っているときの操作性にも影響するので、一概に良いとばかりもいえない気もする。
とはいえ、足が着けて乗りたいバイクに乗れるなら、手段を選ばずのひとつだ。

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ドゥカティ パニガーレV4

シート高835mm。黄色いスプリングの上端に、ダンパー本体にネジを切ってダブルロックナットで位置決めしている座金がプリロードアジャスター。特殊工具が必要なので、プロに調整してもらいながら車高を下げよう

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ロイヤルエンフィールド INT650

シート高804mm。典型的な2本サスの黒いスプリングの座金に上に見える切り欠きが、座金を回転させ段階的にプリロード量を変えるアジャスター

サス調整ではなく、足の着き方でも立ちゴケは防げる

バイクのキャリアが浅いと、足着きというと、とにかく両足がベッタリと踵まで地面に着いているほうが安心だ。
しかし、実際は踵がちょっと浮いた状態のほうが、発進や停止など車体の動きとの関係性から優位かつ安心なのは知っておいてほうが良い。
踵まで着くのを前提にし続けると、ちょっとした位置のズレがバランスを崩しそうな気持ちに陥りやすい。
両足でも片足でも、踵がちょっとだけ浮いた状態で地面に着いたときの安定感はぜひお試しを。

また停車時に左足を着いたら、ギヤチェンジかニュートラルを出すにしても、右足で着くよう足の入れ替えが必要になる。
このときシートの上を腰をやや回転させながら、腰を滑らすコツをぜひ身につけておきたい。
ライディングパンツが一瞬だけ引っ掛かるだけでも立ちゴケを誘発しかねないのと、これがスムーズな身のこなしになっていれば、片足だけ地面に届いていれば立ちゴケの心配もないという愛車との関係性も構築できるからだ。
コツは急がずとも、ゆっくり動いて充分に間に合うので、この余裕を掴んでおくこと。安心感が違うので、ぜひ意識して身につけたい。

もっともリスクをはらんだ動作は、両足のつま先がようやく届くか届かないかで、地面を探すような動き。
片足だけで良いので、踵がちょっとだけ浮いた状態でシッカリ支えているバランスを覚えてしまうのが先決。
乗りたい気持ちの勢いがあるうちに、このあたりのバランスをとるのに慣れるよう、最初は誰かに支えたりしてもらいながら、早く馴染んでしまおう!

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つま先だけ着くのは心もとないが、踵ベッタリも実は動きに対応しにくい危険性をはらんでいる。もっとも安心できるのが、踵がちょっと浮いたくらいで土踏まずから前でシッカリと踏ん張った状態

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停車時に片足を着いた状態だと、いずれにせよ着いた足を左右に入れ替える必要がある。シート座面を腰を滑らせながら位置関係を替えるのがコツ。これは急ぐと却ってうまくいかない。ゆっくり焦らずのほうが、途中で引っ掛かったりせずに済む

立ちゴケを防ぐ、着いた足の左右の入れ替え|RIDE LECTURE 006|RIDE HI