250でもビッグバイクと同じレベルのクオリティを!

ヤマハは1988年に250ccのアメリカンクルーザ、空冷60°VツインのXV250 Viragoをリリースした。
それは250ccの片側125ccしかない小排気量なのに、ボア×ストロークが49mm×66mmという、明確なロングストローク。
パワーを求めて回す250ccには異例の、トルクで走る世界を目指していた。


この異端児エンジンに、ヤマハのエンジニアたちは閃いた。これでロードスポーツをつくったら走りが楽しいに違いない!
そしてコンセプトは時代に媚びないトラディショナルモデル、そこに大人の感性で質感を求める等々、ヤマハらしさを込めようということになっていた。

果たしてトラディショナルなデザインは、さすがヤマハで時代を超越した新し過ぎず旧くもない、大人好みのヨーロピアンな感性でまとめられた。
Vツインならではの単気筒と変わらないスリムなエンジンに呼応して、燃料タンクは上から眺めると細身が強調された個性豊かなフォルム。
デビュー2年目に加えられたSRV250Sは、1964年の世界で評価されたYDS-3のツートンカラーにも似た、ヤマハならではの質感が漂うクオリティだった。


そのロングストロークVツインは、27ps/8,500rpmと2.5kgm/6,500rpmと、低い回転域で粘りと穏やかさを特徴としていた。
そして60°Vツインの爆発間隔と排気脈動の関係を、XV250 Viragoとは異なる回転域でよりフラットになる排気系で長さの調整をするなど、オンロードスポーツへの熟成に時間を費やし満を持してのデビュー。
その振動も方向性が従来の並列ツインなどと全く異なることから、解析データを元にオーソゴナル・マウントという積極的にエンジンがトルク変動で動くラバーマウントとして、快適で心地よいバイブレーションとスムーズさを得たのだ。


それとSRV250には、もうひとつのテーマが課されていた。
250ccでもSRVのユーザーはキャリアのある年齢層で、大型バイクの経験などクオリティの高さを知っている筈。
そういった人たちがガッカリするのは、250ccの格下クオリティだ。
そこを払拭しなくては、オトナ向けの250ccロードスポーツは名乗れない。
各部のボルトもメッキの前に防錆処理をしたり、マフラーなどメッキ加工前に磨いて表面を平滑にする他、塗装はタンクやサイドカバーまで耐候性のある電着+静電塗装を施すなど、すべてのクオリティを大型バイクと同じ品質管理を徹底したのだ。


また開発当初からの目標でもあった、高張力鋼管によるダブルクレードルフレームをはじめ、サスペンションなど400ccクラスの仕様を奢る大人仕様にこだわっていた。
それがどれだけ250ccとして特別だったかは、いまでも愛用されているSRV250が、依然として輝きを失っていないことからも立証されている。

さらに1996年にはタンクやシート類のデザインをライト・スポーツ系へ一新したモデルも派生、SRV250のネーミングは外され車名もルネッサとなったが、需要喚起には繋がらなかった。
トラディショナル・スポーツは、ニーズは潜在的に多いものの、趣味性にこだわる層が中心であるため、ヒットする例は歴史上も少ない。
SRV250も、クオリティから走りまで、オトナの感性に応える名車としての評価を与えて良い機種だったが、販売量としては少ないままに過ぎていた。
ただそこへチャレンジを続けていたヤマハは、開発側のこだわりが深く目標に対して諦めず妥協しない姿勢を貫いていたのには感銘させられた。
ファンとしては嬉しいかぎりだったが、この'90年代を境に、そうしたこだわりが薄れはじめたのは残念でならない。