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【特別対談:世界で戦う若き日本人ライダー】Moto2小椋&Moto3國井&WSS 300岡谷

MotoGPやスーパーバイク世界選手権(SBK)がシーズンの中休みであるサマーブレイクを迎えていた7月、桶川スポーツランドに、世界を舞台に戦う若きライダーが集まった。ロードレース世界選手権Moto2クラスに参戦中の小椋 藍(IDEMITSU Honda Team Asia)、Moto3クラス参戦中の國井勇輝(Honda Team Asia)、そしてSBKに併催されているスーパースポーツ世界選手権300(WSS300クラス)に参戦する岡谷雄太(MTM KAWASAKI)である。

サマーブレイクとはいえ、シーズン中であることに変わりはない。彼らは時間を惜しんで、コースに出て行く。この日はスポーツ走行を走りに来た一般のライダーも多くいた。その中に混じって、世界で戦うライダーたちが走り込む。コーナーでの滑らかな体の動き、巧みなバイクのコントロールは彼らの戦場がどれだけ厳しく、そして高みにあるかを物語っていた。

午前中のスポーツ走行が終了すると、特別に世界選手権を戦うライダーたち──小椋、國井、岡谷、そしてこの日やはり桶川スポーツランドに練習のため訪れていた、Moto3ライダー山中琉聖(CarXpert PruestelGP)の4人による、エキシビション走行が行われた。走りで魅了することはもちろん、ウイリーなどのファンサービスも忘れない。見入っていた人々が、この特別で素晴らしいエキシビションを見せてくれたライダーに感謝の拍手を送る。ライダーもそれに応える。その瞬間、そこは世界選手権の会場のようだった。

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昼休みの時間に行われた世界選手権参戦ライダーたちによるエキシビション。特別にコースの逆走も行われたが、さすがの適応力を見せていた

バイクを降りてヘルメットを脱ぐと、青年らしい表情がのぞく。今回は小椋、國井、岡谷に対談形式でお話をうかがった。まとめ役に回る岡谷、その走りさながらにクールに核心を話す小椋、3人の中ではいじられ役に見える國井。対談形式ならではのエピソードもぽろりと飛び出した。

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小椋 藍

2001年1月26日生まれ。2019年よりMoto3クラスにフル参戦を開始。2020年は2位を2度、3位を5度獲得してチャンピオン争いを繰り広げ、ランキング3位。2021年よりMoto2クラスにステップアップし、第9戦を終えてベストリザルトは第2戦ドーハGPの5位である

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國井勇輝

2003年2月18日生まれ。2020年よりMoto3クラスにフル参戦。2021年はクラス2年目のシーズンを迎えている

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岡谷雄太

1999年7月12日生まれ。2019年よりWSS300に参戦。2020年第6戦カタルーニャラウンドのレース2では、日本人として初めてWSS300での優勝を飾った。2021年は3戦6レースを終えて3位を1度獲得している

──3人は小さいころから一緒に走っているんですか?

岡谷:僕と勇輝はポケバイを走っていた5、6歳頃に出会いました。藍はポケバイの種類が違ったので、ミニバイクに乗り始めた7、8歳くらいに(一緒に走り始めた)。
一緒に練習などを始めたのは、最近なんですよ。2年前くらいから桶川に集まるようになったんです。藍が桶川で速いので、一緒に走ろうと声をかけて、250ccバイクなどで走るようになりました。

──サマーブレイクで帰国してから、どんなトレーニングを?

小椋:ヨーロッパにいると、自転車やジムのトレーニングが多くなるので、日本にいるときにはできるだけバイクを使った練習をしていますね。

岡谷:チームアジアはスペイン(バルセロナ)でバイクに乗れる環境があるんですけど、僕はスペインの藍たちの近くに行ったり、チェコに行ったり転々としているんです。(ヨーロッパでは)バイクに乗れる環境がないので、ヨーロッパに行く前は、ひたすらバイクに乗っています。

──自転車はどういう部分を鍛えるトレーニングになるんでしょう?

小椋:メンタル、折れた心の持ち上げ方だと思います。3~4時間走るんですけど、常に厳しい心理状態なんですよ。自転車の方がバイクに乗るよりもきついんです。なにしろ、山を3つ、4つ超えますからね。

岡谷:「大したことはないから」と言いつつ、50キロくらい上ったり下ったりするんです。以前、一度(Moto3ライダーの佐々木)歩夢(Red Bull KTM Tech 3)の自転車を借りてトレーニングしたことがあるんですが。午後に何も予定がないのに、歩夢が(トレーニングの日)朝早くやって来て急かすんですよ。僕はそもそも自転車が違うから自分に合わせていたのに「まだ~?」って電話が来たりして。あれには笑いましたね(笑)。藍と一緒に「何を急いでるの?」って(笑)。

小椋:あれは面白かった(笑)。

──トレーニングも一緒にしている3人。お互いの走りのスタイルで、尊敬しているところはどんなところですか?

岡谷:藍はなんでも乗れるし、バイクもライダーも桶川で仕上げています。それに勝てるようにするのがなかなか大変です。全部うまいんです。
上手なライダーじゃないと、一緒に走っていても先ほどのエキシビションのようには近寄れないですからね。

小椋:近いレベルで気心の知れた仲じゃないと、きわどいところでの練習はできません。そういう相手は、ほんとにあまりいないんです。貴重な仲間です。

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お互いをよく知るからこそ、本気でぶつかり合える。走行は常にレースのようになり、新品タイヤが常にクルマの中にあり、出すタイミングをうかがっているのだとか

岡谷:ぶつけたからどう、ということでもなくて、そうしたことも含めて練習なんです。もちろん、わざとぶつけることはないけれど……

國井:いやいや、してくるんですよ。特に(右隣に座る小椋を見ながら)この藍くんは。ダートではひどいんですよ。僕がいっぱいいっぱいで走っていても(小椋は)余裕があるので、遊んでくるんです。きゅって止めて、ぼんって当たって……僕はゴロゴロって倒れていくんです……。

小椋:じゃれあいです(きっぱり)。

岡谷:じゃれ合っていて、たまーにかみついてしまうこともあるんですよね。でもそれは、お互いを知っているからできることなんです。そうじゃないと、相手の胸を借りて走ることはなかなかできませんから。
それぞれのライダーを尊敬してもいます。藍はMoto2クラスに行ってもすごい。勇輝はいま、(Moto3クラスで)大変だろうけれど、頑張っているのが伝わってくる。僕もそれを見て頑張らないとな、と思うんですよ。藍が(昨年Moto3クラスで)表彰台に上ったのを見て、「僕も来週は」と思ったりしましたから。

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「ダートではひどいんです……」と小椋の愛のムチ(?)を訴える國井。もちろん、お互いの実力を知るからできる信頼関係あってのこと

──ここで、ちょっとシーズン前半戦を振り返ってもらいましょう。小椋選手は今季、Moto2クラス昇格1年目です。優勝ライダーとのタイム差もだんだん縮まってきていますし、第9戦オランダGPでは一時、3番手を走りましたね。手応えはどうですか?

小椋:今シーズンはカタールで2戦(※開幕戦、第2戦はともにロサイル・インターナショナル・サーキットでの開催)あり、それが自分にとってはスタートとしてよかったですね。(Moto2クラスの)ルーキーとしては、知っているサーキットでもう1レースを戦うことになって、トップにも近づいていきやすかったんです。そこで少し、流れを作れたのかなと思います。
アッセンでは、一瞬ですが表彰台が見える3番手の位置で走れて終えることができたのはよかったと思います。

──Moto2クラスと昨年まで戦っていたMoto3クラスは、レース展開がまったく違いますよね。Moto2クラスのレースの難しさはどういうところに感じていますか?

小椋:Moto3クラスは、1位にもなれるけど、15位にもなれる難しさがあります。一方、Moto2クラスは、自分の調子がよければ常に6位や5位で走れます。でも、4位のライダーに勝つのは難しい。Moto3クラスのようにポンと勝てるかというと、そうじゃないんです。レースごとのアベレージは作りやすいのですが、そこから一つでも上がっていく、それが難しいところなんです。
ライダーの力の差がMoto3クラスよりも出やすくて、その差が全体的なタイム差やラップタイムにつながってくるのだと思います。

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オランダGPでは一時、表彰台圏内を走行した。Moto2クラス初年度、確実に経験を積み上げている

──岡谷選手はWSS300参戦3年目ですね。今季は前半戦2戦4レース(※WSS300は1戦2レース制)を終えて、1度の3位表彰台を獲得しています。さらに、混戦のレースの中で毎レース表彰台争いされていますが、今季はどんなシーズンになっていますか?

岡谷:手応えは昨年よりもすごくあります。昨年はトップグループに絡めていましたが、表彰台近辺でずっと走るレースはあまりなかったんです。調子がよければ、表彰台圏内を走っていられるという感じでした。
今年は安定して表彰台圏内、優勝を狙えるところにいます。去年よりも手応えがあるレースが多いです。

──昨年から今年に向け、どういうところを改善していったんでしょう?

岡谷:慣れと気合いですね。また、冬の間に走り込みました。桶川でラップタイムをコンマ何秒上げた、と数字として見られますし、それは確実に自信になります。オフシーズンは、「これだけ速くなっている」という自信づくりをしている気がします。そうすれば、ライダーがだめなのかバイクがだめなのかと言われたとき、自分は間違っていないと言えるんです。それはけっこう大事な部分かなと思いますね。
オフシーズンも3人で走っていたのですが、藍とトレーニングしていると、Moto2クラスのレベルを間近で見られます。「藍と同じくらいで走ることができるなら、ライダーとしては上位にいける」という見方ができるわけです。そこをモチベーションにトレーニングしています。
勝たないと先がありません。今年は優勝を目指して戦っていますよ。

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毎レース、最終ラップまで激しい表彰台争いが繰り広げられるWSS300。今季、再び表彰台の頂点を、そしてさらにその先を目指す

──國井選手は今年、Moto3クラス参戦2年目ですね。

國井:正直厳しいですが、その中でもいいところもありました。ただ、怪我(※フランスGP予選で転倒負傷し、フランスGPとイタリアGPを欠場)や転倒、ペナルティ(※オランダGP予選中の走行に対し、決勝レースでライドスルーペナルティが科された)など、散々なシーズン前半戦でした。
でも、今年は自分たちがやっていることはよくなってきています。それがまだ結果につながっていないところがあるのですが、データも、マシンの方向性も、やっていることは間違っていません。それが後半戦、いい方向に出れば、と思っています。あの混戦の中で、少ないリスクでさらに上位に行くために、どう戦うのかが一番大事だと思っています。

──Moto3クラスもそうですが、WSS300もすごく混戦ですね。混戦の中で、表彰台、勝つために重要なポイントは何でしょうか?

岡谷:「(表彰台に)上がる!」という気持ちですね。トップが見えているときなど、最後はメンタルが大きいですよ。

小椋:集団で走っていると、ラップタイム的には速くないんです。実力というより、運や意地の張り合いという部分もあります。
走っているときに場所を選べるのは、ラップタイムに余裕があるライダーなんです。だから、色々なことが重要ではあるのですが。最後は気持ちの部分が大きいですね。

──気持ちが大事ということですが、メンタルトレーニングはどんなことをされていますか?

岡谷:今日のようなトレーニングです。真夏で死にそうなときに、走る! 練習では毎回レースみたいになるから、レースを毎周やっているようなテンションに近い。そりゃ速くなるよなって思います。

小椋:こういうトレーニングでも僕たちは「負けない」って思って走ってますから。常にそうなんです。練習とはいえ、本気に近い感じでやるのがトレーニングになります。そういう相手がなかなかいないので、(3人で)一緒に練習していますね。
(ヨーロッパでの)自転車トレーニングでも同じです。それは監督(※ホンダ・チーム・アジアの青山博一監督)からすごく学んでいます。監督は現役ライダーよりも負けず嫌いなんですよ。

國井:監督はすごい(負けず嫌い)ですね。自転車トレーニングでも、(一緒に走っていて)ラストでは勝つために絶対に前に行かず、キープしているんですよ!

──國井選手は小椋選手という頼もしいライダーがチームにいて、心強いのでは?

國井:そう思います。でも、その反面、よくいじめられるので……。怖い先輩ですよ(笑)。

小椋:(冗談ぽくもちょっとマジメな口調で)あれをいじめてるってとらえるくらいじゃ、まだだめですよ。楽しめるくらいのメンタルになれば、無敵です。(國井選手は)優しいんです。人がいい。レースのときはもう少し、悪い子になってもらわないといけないから。

岡谷:レースでは、ちょっと意地悪なくらいがいい。スペイン人ライダーなどは、けっこうえげつないですからね。それぐらいじゃないと(世界選手権では)戦えません。簡単じゃない世界なんです。
だからレースのために、集中力をどこにかけるか、という練習を桶川などでするんです。ずっと集中し続けているのではなくて、例えば藍が前にいて、追いかけるときにぐっと集中力を高めたりするんですよ。
ずっと集中していると、使いたいときに使えなかったりしますから、その配分を覚えるんです。練習でやっていると、それがレースに生きてくるんです。

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「怖い先輩」と言いつつ、小椋を頼りにしている様子の國井と、言葉の裏で國井を鼓舞する小椋。チームアジアはスペインのバルセロナで共同生活をしている。関係性も強固になるのだろう

──桶川では子供たちに教えたりしていますね。現役のライダーが教えるのはすごくいいことだと思います。そういうことは意識しているんですか?

小椋:僕たちの時代はそういうのがなかったんです。なぜないのだろうと思っていました。

岡谷:僕たちは上の世代からは何もしてもらえなかった。だからその分、僕たちは子供たちに教えてあげよう、と思うんです。

小椋:速い子がいても、その子がいなくなったら終わってしまいます。速い子がいると、僕たちにとっても自分のためになりますからね。スペインやイタリアのように、全体で上がっていかないと。誰かが何年かおきに速いのでは意味がないんです。流れをつなげていきたいんですよ。

岡谷:藍がいいなと思うならその子を育てればいいし、僕がいいなと思う子は、僕が育てればいい。そして日本人全体を底上げしていきたい。そうじゃないとスペイン人ライダーに勝てません。

──2人が桶川に来てから、桶川のレベルがぐっと上がったと聞きました。2人の活動がつながっていますね。

岡谷:桶川で走らせてもらっているので、僕たちの活動で桶川のお客さんが増えてくれればうれしいですが、それ以上に恩返しをしないといけないと思っています。将来がある子供たちに、いまから教えないと意味がない。現役が教えることが、いちばん説得力があると思いますから。

小椋:同じコースで同じように走るのはすごく大事だと思います。やめてから教えられても、「いま乗っているの?」と僕は言いたいですね。
コース上でしかわからないことはたくさんあります。同じタイミングで、空間を共有したほうが濃い練習ができます。

岡谷:現役ライダーがいちばん速いわけですから、いまのライダーをもっとリスペクトしないといけないと思うんです。走り方の最先端は僕たちや、世界選手権に参戦しているライダーです。それを取り入れようとする子供たちを尊敬しているので、僕は彼らに教えています。

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世界を戦うライダーとともに走り、コース上でその走りを体感できる。それは子供たちにとって、大きな糧になるに違いない

──3人の今後の目標は?

小椋:僕は、雄太にMotoGPに来てほしいなと思っています。

岡谷:着々とMotoGPを狙っています。ルートは違うけれど、なんとか行く方法を探しているし、行かないといけない。(小椋、國井の)2人に頑張ってもらって、僕がそこに入り、上のクラスで戦えたらいいなと思います。
僕がSBKで、2人がMotoGPで、盛り上げていければ、とも思います。せっかく日本人ライダーがたくさんいるので、いろいろなところから上がっていければ面白いと思うんです。

若き3人の頼もしいライダーたちは、2021年シーズンの残りのレースを戦うために再びレースに戻っていく。後半戦の彼らの戦いに、ぜひ注目していきたい。

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小椋、國井、岡谷、山中の4人がエキシビション走行を行い、来場者は釘付けになって見ていた

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ファンサービスにも快く応じる、気さくなプロフェッショナルライダー

協力/ 桶川スポーツランド