跨がった途端、手足から腰まで接する面が溶けるように馴染み、ステアリングヘッドから軽やかさが伝わるまったく違うマシンへ進化!!
ドゥカティのHPで展開されているDUCATI WORLD PREMIERE 2025 はもうご覧になっただろうか?
この発表されたNew PANIGALE V4、日本のメディア向けにも発表会があり、実車を前に詳細な解説があった。日本でのデリバリーは12月あたりになるようで、試乗車もまだ用意できていないとのことだが、その内容がファンでなくても刺さるモノなのでこれを機にリポートをお届けしておこう。
まずよほどのスーパーバイク・ファンでなければ、PANIGALE V4が新しくなったと聞いても、エンジンは同じだしちょっとデザインが変わったくらい……と興味を覚えない人が大半かも知れない。
そろそろサーキットだろうが、フツーのライダーには手に負えないウルトラ・パフォーマンスで進化しようのないレベルにあるのと、電子制御に益々支配されていく未来に関心はない、そう思っていて不思議はない。
しかしこの2025年型のNew PANIGALE V4は、隙間を捜して変更点を加えていくようなマイナーチェンジではなく、エンジンこそベースを共有するが他は前面刷新した、完全なフルモデルチェンジがされたモデル。
それも知れば知るほど、トップエンドのスーパーバイクでも、まだ進化の余地というか、むしろキャリアの浅いライダーに向け手に負えるマシンへと歩み寄ってきた面と、プロ級にはさらにチャンピオンクラスのスキルをバイクのほうから手を差し伸べてくる、そんな両面を併せ持つモデルとして開発されていた。
ドゥカティのスーパーバイクは、1988年の851に端を発し2025年型のNew PANIGALE V4で数えること第7世代目。
851より前は、空冷Lツインのデスモドローミック・エンジンでF2やF1レースへチャレンジしていたが、いよいよ初の水冷、しかもDOHCでそれでもバルブを閉じる側もロッカーで引き上げる強制開閉方式をやめない考え方に、日本メーカーの多気筒で高回転高出力に慣れた感覚からは理解しにくい個性の強さだった。
フラットな燃焼室と吸気のストレート化で、バルブ挟み角が小さいカムシャフトまでが異様に長い煙突のようなエンジンも、いまでは常識のレイアウト。
その中速域から爆発的なトルクで路面を蹴る強烈さは、慣れないライダーには手強いマシンだったが、1994年の名車916の登場でLツインのスリムさと優れたシャシー・アライメントにより、日本のスーパーバイクが軒並み後塵を拝していたのを覚えている方も多いはず。
そんな手に負えない強烈なマシンの次世代は、いきなり誰にでも親しめるフレンドリーなスーパーバイクへと変身……ドゥカティのスーパーバイクはそんな歴史を繰り返してきた。
そしてV4エンジンというモトGPマシンからのフィードバックで生まれたPANIGALEも、2018年から早6年の歳月が流れた。
この間にスーパーバイクでの圧勝と攻防など、主に電子制御によるライダーの感性へ近づける開発が目立ってはいたが、一般ユーザーにはたとえサーキットでもフルスロットルは短い直線部分でも躊躇させる猛烈なパワフルマシンのイメージが支配的だった。
しかしこの1~2年、たとえばモトGPでドゥカティはワークスチーム以外のサテライトチームでも前年モデルを供給、何人ものライダーが大きく違わないラップタイムで争うシーンを多く観るようになった。
実はこのプロセスに、今回のNew PANIGALE開発の道筋が含まれていたのだ。
先ずは当然のサーキットパフォーマンスの向上、それをプロが工夫で効率良く走るレベルへ「スキルブースター」していくテクノロジー満載!
その開発目標は大きく分けて3つ。スーパーバイクである以上、当然のラップタイムの向上、これまでより速くなければならない。
ただそこにはライダーのレベル差による違いを生みにくい従順さが2つ目、そしてその操作をサポートするスキルブースターという面を3ツ目の目標として前提とし掲げたのだ。
上のイラストは、New PANIGALEがサーキットで2024モデルを上回るタイムを刻む差がどこで生じていたかを示したもの。ターンインしてから立ち上がるまでの最もイン側へ近づく間で、どのライダーも明確に差をつけていたという。
この限られた旋回区間で、何が違いを生んだのか、それはシャシーと足回りによる部分が多い。とはいえエンジンも、そもそものパフォーマンスを従来より高めた結果が大きいのはいうまでもない。
そもそもPANIGALEはスーパーバイク・レースでのホモロゲーションを前提としているため。許されている最大ボアの81mmが決められてしまうことから、V型4気筒のデスモセディチストラダーレ(デスモセディチの公道バージョン)を踏襲して改良を加えている。
ただ世界最高のパワーであることには固執していて、EURO5+と規制が一段と厳しくなった状況でも216hpと前モデルを上回り、他のライバルにも差をつけている。
吸気と排気のカムプロファイルは、これまでよりリフトを増やしピークを超えた14,000rpm以上15,000rpmも許容する強制開閉バルブ駆動、デスモドローミックのメリットを存分に活かした。
それでいてカムシャフトの中空部分を削ぐなど軽量化と、高出力対応で強度を高めた部分とで、トータル1kgの軽量化を果たしたという。
Vバンク間のインジェクションへの上方へ突き出した可変エアーインテーク・ファンネルは、最長ダクト長が80mmと5mm増加し、下がりきった最小ダクト長は10mm縮まり25mmに調整されている。
スロットルは全閉からのアクションに熟成がはかられた結果、右手のグリップ部分ではライダーに神経質な操作を求めない「遊びゼロ」を実現しているのも著しい進化として注目される。
もちろんウイリーしにくくエンブレ効果もあるクランク逆回転など、基本構成を受け継いでいるが、その加減速のトルク変動とのフィッティングにも磨きがかかり、パワフルなのにスムーズさでそれを忘れさせる「カド」のない柔和な特性だという。
深いバンク角でフロントフォークがストロークできない状況でタイヤを路面追従させるしなやかさを併せ持つ剛性バランスのシャシー!
そしてこのモデルのハイライトでもある、コーナーのエイペックス区間を旋回速度も高く強く曲がれるシャシーと足回りについて、メーカーにしては珍しい超専門的なレクチャーがあった。
まずメインフレームを持たない、エンジンを強度メンバーとしてステアリングヘッドを載せたフロントフレームを、ご覧のように大きなホールで左右に抜けている構造へと大きく変わった。
これでステアリングヘッドまわりの横方向の剛性を40%も弱めたのだ。
その理由のひとつが65°にも達するコーナーでのバンク角。
実はフロントフォークは、横方向へストレスがかかるとほぼスティックしてしまう。どんなにインナーチューブをチタン加工してインナーチューブを撓まない強靭な構造としても、横方向に応力が働くと動かなくなり俗にいう「チャタリング」を起こす。
この動かなくなったフォークのフロントタイヤは、路面追従性が悪化……旋回力を云々より容易くスリップダウンしかねない。
それを何とか持ちこたえる手段のひとつが、フォークを支えるステアリングヘッドが振動吸収すること。これでタイヤの路面追従を助けることができる。
そのためのフロントフレームの剛性バランス変更だが、結果として700gの軽量化も達成している。
また従来は片支持だったスイングアームを、一般的な2本アームに変更したのも大きな違いだろう。
この片支持、916から採用してきた半ばドゥカティのアイデンティティにもなっていた構成だ。
そのためこだわりが強く、変更に抵抗する意見も相半ばしていたという。ただ実際にライダーが乗ると新しい2本アームのほうが曲がりやすいとのインプレッションが圧倒的多数を占めた。
これは横方向の剛性を37%減らし、僅かな撓みを生じる柔軟性で旋回力を助けるのと、加速時の安定性などバランス設定で優位だった由。またエンジン下に収まる排気チャンバーの形状やフットペグ(ステップ)位置を狭くできるメリットも大きい。スイングアーム長は618mmと長めでストロークによるアンチスクワットを含むアライメント変化率を小さくしている。重量もリヤエンドまわりで2.7kg軽くなっている。
フロントブレーキのブレンボ製キャリパーは、これまで定評の高かったStylemaから新型のHypureへと切り替わった。
同じラジアルマウントでもやや小型化され軽量で、解放時のクリアランスを保つシールのロールバックが小さいのに制動していない状態での引き摺りが少なく、作動レスポンスが素早く正確で入力も軽い、新しい世代の操作感となっている。
そしてリヤブレーキは、マスターシリンダーを押し上げるロッドで遊び調整するのではなく、マスターシリンダー本体の取り付け位置を上下させる調整となった。
これはステップ位置をより内側へ追い込むのに大きく功を奏しており、跨がると400ccより250ccマシンに近い感触で足を載せたときの心地よさは抜群だ。
ライディングポジションに関連して加えると、シートは35mm前後に長く、座面も左右に50mm幅広と思いきりライダーの体格への対応度が拡がった。そのフィット感もさすがといえる全体に面で接する特上レベル。
燃料タンクの前方両側部分の形状やニーグリップの凹みまで、様々な体格が多用な動きをしても面で接してくれる自然なホールド感が得られる。
因みにシート高は850mmだが、ひとり乗り設定もあって1G'で沈み量が多いことも手伝って、165cmライダーでも足つきは問題ない。
前後ホイールはドゥカティによる設計の鍛造で、鋳造ホイールより2.17kg軽く、走行中の慣性モーメントで前22%、後23.5%も減るため路面追従性がそれだけ優れることになる。
また装着タイヤは公道走行用に前120/70-17と後200/60-17だが、サーキット走行用にスーパーバイクレースに用意されたレーシングスリックの、前125/70と後200/65のひとまわり太いタイヤを装着してもフェンダーとかのクリアランスが問題ない設計がされている。
サスペンションはリヤがモノサスをマウント摺るのハンガーユニットをエンジンへ直接マウントする構成で、GPマシンと同様のシングル・タイロッドをボトムリンクのベルクランクと繋ぐプログレッシブ・レート設定。スイングアームとを結ぶタイロッドにニードルベアリングを介し、微妙なビギニング入力にも繊細に作動するまさにワークスマシンのクオリティだ。
V4Sはフロントフォークもリヤサスも電子制御のオーリンズ製。ダンパーのアジャスト部分を従来のニードル先端の尖った形状を繰り出してクリアランスを調整していた方式から、新しい世代のスプールバルブという減衰力調整のクリアランス箇所をサーボモーターでバルブを作動、さらにその動きで油圧に大きな変化が生じてデリケートさを失わない補正も作動する高次元なユニットとなっている。
このオーリンズ製電子制御を備えた前後サスはV4Sのみで、V4にはショーワ製BPFフォークとリヤがザックス製ショックユニットが装着される。
蓄熱させずエアを抜くために表層との速度差で吸い出させる工夫のスリット!
ところでNew PANIGALE V4のカウルなど全体のフォルムは、あの916のオマージュだという。
300km/hの領域へと進化してきたいま、あらためてカウル形状と空気の流速の関係など見直していくと、何と916がエアダクトを設けている部分がMotoGPではウイングで効力の高い位置で(New PANIGALEのインレットはカウル先端の真裏の見えない位置)そこを境に全体のダウンフォース、さらにはカウル内のエンジン冷却風の抜けまで、最新の要求とまるで変わらないのだという。
当時から風洞実験で最適な形状を模索していたのが知っていたが、30年経ったいまでもこれに倣えると聞くと感動モノだ。
そしていまや排気ガス規制で希薄燃焼するエンジンの発熱は天井知らす。レースではライダーが低温火傷するのも珍しくない劣悪さで、New PANIGALE V4ではこの排出のためのデザインが重視されている。
前輪後方の大きなラジエーターとオイルクーラーのための開口部から、カウル内を通る冷却風を積極的に外へ吸い出させるため、アンダーカウル下側のスリットのように、外側の表層部分を高速で流れる速度と差をつけて排出を促そうと、敢えて細いスリットにしている。大きなアウトレットを設けると吸い出し効果は落ちるのだという。
またシートカウル両側下面にも、小さなアウトレットが顔を覗かせている。これもV4の後ろバンクからシートを支えるサブフレームまわりの流速を、排出効果を高める位置としている意外に重要な装備なのだ。
電子制御は既にフェイルセイフではなく常用域すべてでライダーの意図や経験の少なさをサポートする領域へ!
いうまでもなく、New PANIGALE V4は多種多様な電子制御を搭載、基本的な制御項目を列挙すると、レースeCBS、トラクション・コントロール(DTC)DVO、ウィリー・コントロール(DWC)DVO、スライド・コントロール(DSC)、パワー・ローンチ(DPL)DVO、クイック・シフト(DQS)2.0、ブレーキ・コントロール(EBC)、エレクトロニック・サスペンション(DES)3.0といった、8つのパッケージ。
それぞれいくつにも状況対応する段階と他との組み合わせを、自分でセレクトはもちろん、バイクにおまかせの設定など実際にオーナーになられたらそれほど苦労なく操作を覚えることができるディスプレイからしてわかりやすい。
そうした個々はともかく、新たな特徴としてレースeCBSのようにフロントブレーキをかけるとコンバインドでリヤブレーキも自動で作動、コーナー手前でフロントをリリースしたとき、リヤブレーキを故意に引き摺ってイン側へまわり込む旋回を強めつつ前後を安定させるという、プロのテクニックをそのまま電子制御がやってのける仕組みもある。
さらにはTFTパネルも表示に種類を選べて、サーキットであればラップタイムだけでなくMotoGPなどで見るセクション別のアベレージ表示やバンク角にパワーやトルクをどれだけ活用しているか、また選択画面にとってはタイヤの空気圧や温度まで都度の検知を知らせてくるディスプレイまで備わる(V4S)。
こうした解説をみればみるほど、滅多にサーキットは走らないし、そもそもそこまで腕が立つというか、バイクの能力を引き出せるキャリアも度胸もないから、いくら最新が凄いといわれても、自分はその進化を享受できるライダーではない……そう思われがちかも知れない。
ところがこの最新のメカニズムや電子制御は、一定以上アベレージが高い、つまり飛ばせるライダーにしか効果が働かないという質のものではないのだ。
浅いバンク角や低いエンジン回転域、そして速度も低く怖々乗っていても、基本的なメカニズムが機能するときの、ライダー(人間)の感性に馴染みやすい過渡特性から、ちょっとしたときに躊躇するスロットル操作でバランスを崩しそうなケースでも、電子制御はバランスを崩さないようできるかぎりのサポートをしてくる。
ハイエンドな高性能マシンでも、日常的な使用状況にも優れた過渡特性の延長上にある乗りやすさを引き出せる、そういったメリットがあるのをお忘れなく。
そして昨年までパニガーレはさすがにもうToo Muchだから乗る機会はなくてもイイかなと思えていたのが、エンジンも始動していない状態で跨がっただけなのに「乗ってみたい!」と思わせる魅力にやられていた。
ドゥカティは相変わらず「その気にさせるマジシャン」なまま変わっていない!
SPEC
- 最大トルク
- 120.9Nm(12.3kgm)/11,250rpm
- 変速機
- 6速
- フレーム
- アルミ・フロントフレーム
- 車両重量
- 187kg(燃料を除く潤滑油・冷却水などを含む走行可能状態)
- タイヤサイズ
- F=120/70 ZR17 R=200/60 ZR17
- 燃料タンク容量
- 17L
- 価格
- 414万1,000円 V4は323万9,000円(共に税込み)