ダウンサイズを躊躇するベテランには救いの神、初めてのビッグバイクとしても最右翼!
Newモデルといっても既存エンジンの焼き直し、ひとの顔色伺いながら設定したとしか思えない電子制御……最近の日本メーカー製スポーツに、新しさやワクワクを感じることが少なかっただけに、YouTubeの収録で乗った昨年に刷新された Monsterのインパクトが凄まじい違いで、価格を含めお奨めできるユーザーの幅広さから、あらためて試乗リポートをお届けするのでぜひご一読を。
とりわけ年配ライダーが、体力の衰えから240kgあたりのビッグバイクを諦めて、600ccクラスなどへダウンサイズを検討していたら、迷うことなくこのNew Monsterをお奨めしたい。
排気量は937ccとビッグバイクのまま、しかし車重は166kgと400ccクラスより軽い。シート高も日本仕様は775mmしかない。
もうこのスペックだけで、他のスポーツバイクを圧倒的にリードしている。ダウンサイズで悩むのは、扱いやすい車重と引き換えにビッグバイクの低回転域でスロットルひと捻りで車体のバランスがとれる逞しいトルクが呼びだせるあの余裕を失ってしまう寂しさだ。
そして実際、大袈裟でなく250ccを取り回すのと変わらない軽さで、跨がるにもシート高の低さもさることながらLツインのスリムさが大きな安心感となる。
ということで、ビギナーにも初めてのビッグバイクとしてお奨めのMonsterでもある。
昔からいわれてきたドゥカティの気難しさなど微塵もない。ここまで電子制御をモノにしてきたメーカーだけに、たとえば400ccや250ccクラスのやんわりとしたエンジン出力に設定するのもカンタン。
しかも万一に備えたリカバリーのレンジも幅広く懐が深い。それでいて、国産リッターバイクと変わらない価格帯にある。
ビギナーも一度跨がってみれば、瞬く間に納得する身近に感じさせる軽さとコンパクトであるのは間違いない。
それを可能にしているのは、最新の頂点マシンであるパニガーレV4と同じ構成のアルミ製フロントフレーム。フロントフォークを取り付けるために、エンジンへマウントしたステアリングヘッド部分だけが超軽量なアルミ製という贅沢なつくり。
さらにシートレールと呼ばれる車体の後ろ部分も、GFRPとグラスファイバーとポリマーで合成した非金属パーツという構成。
ネイキッド・スポーツにスーパーバイクの仕様をそのまま移植するとは、何とも思い切った手法だが、とにかくこのおかげで軽さはもちろん従来のMonsterより低重心な安定感まで得ている秀逸さに、いまさらながら唯々感心させられる。
そして90°のLツインは、強制開閉バルブのデスモ機構と最新スペックで刷新、ハイパーなだけでなく、メンテナンスを3万キロ設定などクオリティにも自信を覗かせている。
166kgの圧倒的な軽さとコンパクト、長い歴史に培われながら新しさに満ちたLツイン特性
始動すると270°と450°で繰り返す不等間隔アイドリングが、まったく乱れない正確な刻み方で、まずこの感性に新しい時代のエンジンを感じて心地よい。
そして2,000rpmでも躊躇せずスロットルを捻れば、ギクシャクせずに加速するフレキシビリティさは、ビギナーにもまったく難しさを感じさせないだろう。アイドリングでクラッチミートしかかり、車体が押し出される兆候を待ってからレバーを放しながらスロットルを開けるだけで、驚くほどスムーズに発進してしまう。
昔からのドゥカティ乗りには、我が耳を疑うような状況に違いない。しかしビッグバイクとしての余裕と共に、この逞しさに身を委ねるのはビギナーにも嬉しいはず。
ただあまりにもジワジワと少しずつ開けると、不等間隔爆発が災いしてギクシャクするのは他のビッグツインと変わらない。慣れてしまえば気にならない部分だ。
発進後の加速では、3,000rpmを越えたあたりでシフトアップするのが、直線路はもちろん少しでもカーブしていたら、ドゥカティのいかにも路面を蹴ってライダーを安心と高揚へと誘う魅惑的な領域へ誘うこの流儀で走るべきだ。
4,000rpmも回したら、ちょっとペースが一般公道向きではなくなる。
そしてドゥカティであるからには、コーナリングへのリーンから、後輪の旋回がはじまった時点から正確に前輪が大回りせずトレースしていく、さすがのハンドリングは相変わらず健在。
フレームの軽さが、相対的に重心を下げている関係もあって、ラフな操作でもレスポンスが遅れる比率も大きく違わない。
もちろん、スリムな車体を浅いバンク角から曲がれる、アウト側をしっかりホールドして体幹の重心をちょっとズラすアクションだと、カクッと折れるように曲がりはじめる快感は、正しい操作ほど明確にご褒美のような反応を示す。
体重の預けかたで、後輪のグリップや安定性を加減できる、操る醍醐味は慣れたライダーにはたまらない
。
ブレーキの強力なポテンシャルでありながら、カクーッといきなり減速するのではなく、常にやんわりとしてレスポンスなのもビギナーがブレーキを怖がることなく扱えるだろうメリットが大きい。もちろんキャリアがあるライダーにも、それだけ気遣いを減らしてくれる優れた感性が心地よい。
そして新たに前後オーリンズ製サスペンションにグレードアップしたSPバージョンも新たに加わった。今から試乗が楽しみだ。
電子制御?そんな腕ないし、と思うひとほど慣れたら好みの設定を楽しむはず!
そして充実の電子制御。基本はTOURINGを中庸に、SPORTとURBANとに設定を変えられるのだが、攻められる腕があるとかではなく、まずはURBANで乗りはじめるのがお奨め。
予め各特性をセットしたおまかせモード(細かくセットしようとすると、順列組み合わせで多様化できる)でも、URBANでみせるスロットルを開けてからのタイムラグや呼びだせるトルクの増え方など、言葉を選ばずに言うと「空冷ツイン」のような想定できるタイムラグで、多くのライダーにとって人間の感性に馴染みやすい、信頼と醍醐味が味わえる。
これはいうまでもなくビギナー向きだが、さらに細かいセッティングでWETも選べるマニュアル設定もある。
キャリアがあればSPORTの刺激的なダッシュも楽しめるが、個人的には中庸なTOURING設定よりURBAN設定で、スロットルの開け閉め頻度がたくさんあるほうが、走りにもメリハリが出てそれが却ってツーリングの疲労を和らげるのは間違いないはずだ。
いずれにせよ、スイッチひとつで様々な設定への変更が可能で、その微妙とはいえ明確な違いは、オーナーになって慣れてからなら遊べるツールのひとつとなるのは明らか。こればかりは実際に操作しないとピンとこないだろうとは思うものの、スマホの設定をイジる感覚でサクサク操作できるまで進化したのは確かだ。
テレビのリモコンじゃないが、日本製のやたらスイッチが多いのと、海外製品のファンクションが少なくその先で知識によって細かく設定できる仕様との違いを感じてならない。
そしてすべてのクオリティ感、ライダーの視界に入るブレーキやクラッチのマスターシリンダーからバックミラーまで、大人買いで手に入れた満足感が漂う上手さは、まだまだイタリアンの独壇場な気がする。