空冷4気筒のCBらしさを込めたバイクをつくりたい願望に熟練エンジニアが集う!

2022年に生産を終了したホンダ最後の空冷4気筒CB1100。
そこに注ぎ込まれていた技術と情熱は、ホンダのエンジニアたちが如何に趣味人であるかを物語っていた。
そもそものスタートは1999年の東京モーターショー。ホンダはCB Fourと命名された900ccの試作車を展示、量産車では初の4気筒だったあのCB750フォアから繋いできた空冷4気筒への郷愁をアピールしていた。つまりこの思いはエンジニアたちから出たもので、果たしてそれがマーケットにニーズがあるものか否かの検証だったのだ。
しかしこのタイミングではまだ時期尚早との判断で暫く沈黙が続き、2007年に東京モーターショーへ水冷のCB1300をベースに空冷化されたCB1100Fプロトが参考出品され、遂に製品化まで漕ぎ着けることになった。

コンセプトはほぼ日本の国内マーケット専用で、キャリアのあるライダーに向け本来の普遍性を感じるルックス、細部までつくり込まれたクオリティの高いパーツ、エンジンは空冷インライン4のDOHC、日常の常用域でビッグバイクらしさを感じさせる力強さ、そしてトラディショナルな乗り味を創出するダブルクレードル・フレームと前後18インチの1970年代を彷彿とさせる安定感のあるハンドリング……。
ベテラン揃いの開発スタッフは、それまで暖めてきたオートバイらしさを構築するために、大胆かつ緻密な設計をベースとなったCB1300を空冷化した。
73.5mm×67.2mmのボア×ストロークは、隣り合ったシリンダーの間を冷却風が抜けられるサイズとして、潤滑オイルも点火プラグの座面まわりを冷却できるオイルラインを設定、オイルポンプも潤滑系とは別に冷却系統用のオイルポンプローターを増設するなど、最新の空冷システムの開発と取り組んだ。
同時に空冷の象徴でもあるシリンダーの冷却フィンを、2mm厚のデリケートさを感じさせる薄さとするなど、趣味性としてのこだわりを貫いている




また鋼管ダブルクレードルのフレームも、エンジンを取り囲む部分をφ38mmとして、しなやかな捩れ特性を与えた設定で、安心できる安定感と操作するときの扱いやすさをバランスさせている。
さらにライディングポジションは、ライダーの好みでたた起きたTypeIと前傾気味のTypeIIの2モデルが選べる懲りよう。
こだわりは至るところに及んでいて、たとえばDOHCのふたつのカムシャフトの位置も、最新エンジンは燃焼室をコンパクト化するためバルブ挟み角が立つ傾向にあり、DOHCのカムシャフトの間隔が狭いのに対し、CB1100は敢えてこの間隔を昔ながらの位置へ拡げ、見た目にも堂々とした上にゆくほど大きい「立派さ」をアピール、ペントルーフ型燃焼室ならではの燃焼特性も楽しませるというまさに趣味領域の真骨頂。
DOHCがまだ希少価値だった時代に憧れた身なら、このカタチは見ているだけでワクワクする躍動感が伝わってくる。



こうして凝りに凝ったCB1100がリリースされるその寸前、バイク雑誌の広告に「ignition of life」いわば人生の点火といった熱い思いのキャッチフレーズを載せていた。それほど信念を貫いた開発だったのだ。
そして走り出すと、いかにもベテランにしか生み出せない、バランスを極めたハンドリングに感動させられる。
ナチュラルでコーナリングでは僅かにアンダーが顔を出す扱いやすさに加え、リーンアングルによってフィーリングが変わりにくいニュートラルさに仕上げているのは驚きだった。
3,000rpmにこだわったというスロットルの醍醐味や力強さが快感なのはいうまでもない。僅かに遅れるレスポンスの穏やかさが、却ってラフにスロットルを開けさせるため、幅広いライダーが大いに楽しめた。
そんなこだわりは2014年モデルから5速だったミッションを6速へと増やし各部の熟成をはかるという進化をみせている。

そしてその走りへのこだわりが後に2017年、RSという前後サスに17インチホイールという、走りのパフォーマンスを優位に引き出す仕様のモデルを加えることとなった。
このタイミングで燃料タンクも下縁をシームレス処理にしてフォルムもボリュームあるものへモデルチェンジ、軽量化などさらに熟成を重ねている。


実際RSは、コーナリングの醍醐味が格段にアップしていた。トラディショナルなビッグバイクらしさを追究したハンドリングだった筈なのが、社内の走り屋ライダーからもっと攻められるハンドリングが可能と、つくり込んだそのポテンシャルはさすがで、スポーツ性が一気に高まり腕に覚えのあるライダーには大好評だった。
いかにも「好き者」集団のやることづくめで、まさに伝統のホンダらしさの継承が見事に反映されていたのだ。



というCB1100も、生産終了でこれ以降に進化を遂げることはない。
それは凄まじい時代を闘い抜いたノウハウが、ここで途切れてしまうのではないかという心配もよぎる。
正直にいうとホンダの新世代スポーツバイクに、ここまでのこだわりや気を配った完成度の高さは感じさせない。
何も尖っている必要はない。このCB1100が示したように、これまでの集大成をまとめていく開発でも、人々をワクワクさせるチャレンジは存在する。
そんな期待感に応えるホンダイズムが、これからも継がれていくのをひたすら期待したいと願うばかりだ。



