ZZR1100ではツーリングに不向きと思うビッグバイク・ユーザーへカワサキが応えた質実剛健のGPZ1100!

1994年秋のIFMA(ケルンショー)に、カワサキはGPZ1100の車名でツーリングスポーツを発表。
GPZ1100といえば空冷4気筒で、長く愛されてきた幅広いユーザーへ向けた名車。
その名を受け継ぐ意味は、フラッグシップのZZR1100で大成功を収めたものの、長距離ツーリング好きなヨーロッパのライダーをはじめ、300km/hのために犠牲を払いたくない質実剛健さを求める層が少なくない。
そうしたニーズに応えてきたのが空冷GPZ1100系だったのと、根強い人気で長年生産を継続してきたあのNinja、GPZ900Rも最速の座から幅広い使われ方にちょうど良いカテゴリーへと認識されていたからだ。

そこで1990年リリースされ王者の座に君臨していたZZR1100をベースに、ヨーロッパやアメリカ・カナダにも多い、何日もかけ長距離ツーリングするファンに向け、ZZRエンジンを思いきり中速重視のトルクフルなチューンとしたGPZ1100の開発がスタートしたのだ。
こうしたニーズは地味で絶対的な数は多くないように思いがちだが、高速道路を長時間、それもタンデムするケースが圧倒的に多い西欧では、前傾度合いもきつくない、さらには膝の曲がりもきつくないというポジションが、バイク選びの判断規準として大きな割合を占める。
実際、GPZ1100はシート高がZZR1100よりやや高く、膝の曲がり角度や上半身の前傾度もやや緩いリラックスできる設定となっていた。



1995年からのマーケット投入では日本国内向けの仕様も用意され、ZZR400やZZR250で定着をはじめたツーリングスポーツ・カテゴリーを拡げていく効果も期待されていた。
輸出仕様ではボア×ストロークが76.0mm×58.0mmの1,052ccはZZR1100と全く同一だが、低中速域を重視してキャブレターを高回転での効率を優先したダウンドラフト型から、いわゆる通常のサイドドラフト化の型式として、口径もφ40→φ36と小径化、147PS/10,500rpmを129PS/9,500rpmとしてカム特性や排気系の取り回しも4-1-2集合と、徹底した中間領域の使いやすさを前面に出したチューン。
国内モデルでは圧縮比を11.0→10,0まで下げ、97PS/8,500rpmと自主規制値に収めている。



残念ながら日本国内では長距離高速ツーリングの機会もないことから、GPZ1100はあまり注目されることなく過ぎていたが、海外では実用性の高さや扱いやすくライディングを楽しめるツーリングスポーツとして好評で、パニアなどツーリングケースは多くのパーツメーカーからリリースされているマーケットだが、メーカー純正のパニアがオプション設定されるニーズに勢いを増していた。
さらにタイヤもラジアル化され、安定性と軽快性の両立がはかられたこともあるが、ハンドリングはホイールベースがZZR1100より35mm長く、全体に重心位置が高くなった効果とで、やや重めにドッシリとした特性へと集約され、これが安心感と共に評価を高めていた。
フレームはダウンチューブのあるダブルクレードルで、Ninja900より剛性感の高い時代の進化を意識させる乗り味としている。

そのいっぽうで、カワサキには1980年代の全米選手権AMAでスーパーバイクレースに、アメリカならではのアップライトなネイキッドスポーツのシリーズ戦が流行った時代があり、この激戦を制したエディ・ローソン選手を記念したレジェンドバイクのローソンレプリカの人気が衰えないという潜在ニーズが存在していた。
そんな気運へこのGPZ1100エンジンを使い、ノスタルジックな空気が支配的だったビッグネイキッドのカテゴリーに、腕自慢のライダーたちがワインディングを闊歩するマシンをつくりたい!、そうしたカワサキの本能が抑えられなくなっていた。

それはGPZ1100が親しみやすく、ワインディングでツーリングスポーツというカテゴリーなどおかまいなしに醍醐味を楽しむライダーが多かったのもきっかけのひとつ。
その流れで、1997年のZRX1100を起点に、2016年のZRX1200DAEGまで20年もの長きにわたり人気の定番・水冷ネイキッドが誕生することとなった。
GPZ1100は地味な存在に見えるが、カワサキの歴史を構築していった大きな位置を占める存在だったのだ。



