後輪を軸に旋回する基本通りに乗れる車体のしなやかさと従順かつ繊細なエンジン特性!

2ストロークエンジン・メーカーではなかったホンダが、'60年代に世界GP完全制覇の後に再挑戦した4ストNR500が思わしくなく、2スト3気筒のNS500に切り替えたのが1982年。
市販車もこれに呼応して2ストのレプリカで攻勢をかけ、わずか3~4年で2ストの経験豊富なライバルを凌駕するまでに進化、主力のNSR250Rは'88モデルで孤高の頂点を極めたマシンとしてその名を轟かせていた。
もうココまで辿り着いたら、毎年のように繰り返してきたモデルチェンジはない……多くのファンがそう思いかけたところにリリースされたのが'90年モデルのNSR250Rだった。
見た目にスイングアームが排気系を除けた湾曲のガルアームとなった、という印象だったのが詳細を知るにつけ同じ箇所などまるでないフルモデルチェンジ。

エンジンもクランク系やクランクケースがまったく変わっていないように見えるものの、何と'89年ワークスマシンをそっくりそのまま移行したカタチ。
掃気ポートなどの形状変更で、組み合わさるクランクケースから変わることとなり、シリンダーは排気ポートからさらにチューン、燃焼室は点火プラグの位置を同じ構成ながらセンター寄りへ移行して燃焼効率アップと舌を巻く徹底ぶり。
そしてもちろん、電子制御でPGMキャブレターと称するジェット系からコントロールするシステムや吸気チャンバー、シリンダーの排気ポート高さを変えるRCバルブ、そして電子制御される点火システムはPGM-IIIと進化、わずかなスロットル開度違いにもニュアンスレベルの細かな対応で、2ストのイメージを塗り替えるスムーズさと感性に馴染みやすい穏やか且つ鋭く応じる快感の塊りだった。




さらにそのフレームが実は大違いで、アルミのリブの入ったツインチューブが縦に薄くなり、スイングアームなど極端に薄く断面を変えていた。
これは縦剛性には強く、捩り方向にはしなやかさを伴う狙いで、アライメント設定から戦闘力が高く正確なハンドリングを構築してきたエンジニアが、こうしたハイレベルな設定をキャリアの浅いライダーでも、車体の動きや伝わるグリップ感からトラクションまで、後輪を軸に前輪が追従してバランスの良い旋回へ移行する本来の走りを身体で覚えられるよう、積み上げてきたノウハウを活かしたハンドリングへと仕上げていた。



バリエーションとして乾式クラッチ装備やSEなども加えられ、片持ちプロアームとなるまでの3シーズン、NSRファンのライダーたちを育んでいた。
歴史的には'88NSRが過激さで頂点に謳われることが多いとはいえ、その完成度の高さでいえば'90NSRと評価されるのも頷ける内容だった。
それにしてもココまで熱の高い開発に集中するのは、いかにもホンダらしさといえるのは間違いない。
