一丸となってホンダに立ち向かう
“大排気量4気筒エンジン”という同じコンセプトでホンダCB750フォアに先を超され、開発期間の延長を余儀なくされたカワサキZ1開発陣の我慢の歳月は、それまでの日本車としては異例な実走テストの繰り返しなど、改良を重ねる努力に費やされた。
「ホンダに負けてたまるか」「戦争で負けたアメリカを見返してやろう」世界最速というとても分かりやすい、しかし猛烈にハードルの高い目標へ一丸となって向かい、開発チームの組織はより強固なものへとなっていった。
もちろん一番こだわったのは馬力だ。それから最高速とゼロヨン加速。4ストロークで世界一になるために、わかりやすく数値で評価できるスペックにこだわった。
エンジンは出力だけでなく耐久性を重視して、クランクシャフトの軸受けにボールベアリングを採用。「アメリカに視察に行ったらバイクショップでエンジンを床に下ろして整備しているのを見たんです。そこで過酷な整備環境にも耐える組み立て式のクランクを採用。その軸受けはメタルではダメだと思いました」と開発陣。
「壊してやろう、そう思って走ったのですが壊れませんでした。クラッチも滑らなかった」とテストライダー。
フレームは剛性の高いダブルクレードル。足周りも剛性とバランスを追求した。それまで最高速付近はグラグラと車体が揺れるのを、ハイパフォーマンスの証のように語られていたが、どんな状況下でも安定性を崩さない、安心して乗れるバイクを目指した。
CB750フォアから遅れること3年、1972年に満を持してデビューしたZ1は、究極の頂点をアピールしてアルファベットの最後であるZをネーミングに採用。DOHCエンジンにも注目されたが、かつてない優れた高速安定性が高い評価を得て、一躍トップエンドのバイクとして世界に認められたのである。
そしてこのZ1以降、空冷4気筒スーパースポーツのカテゴリーを常にリードするメーカーとしてのポジションが確立され、ライバルの目標となったのである。
初めて組んだ試作のDOHCエンジンは一発でエンジンがかかった。奇跡だった。それはいきなり47psを発揮し、いろいろ見直していくとすぐに70psまでパワーは向上した。Z1のエンジンはそもそもの素性がよかったのである
世界最速を実現するためのパワー、そして0-400加速などテスト部隊の負荷も大きかったが、テストライダーはとにかく走り込んだ。「壊してやろう!」そう思って走ったがなかなか壊れないエンジンだったという
Z1は31万台以上生産された。そして、現在でも毎月何台ものZ1が海外から日本に逆輸入され、新車登録されているのをご存知だろうか。日本では今でも保有台数が増え続けいる驚異のバイク、それがZ1なのだ。
これは「Zを走らせ続けたい」というサプライヤーの力も大きい。PMC、ドレミコレクションなどがリプロダクトパーツを制作。ブルドックなどのショップがカスタムを手がけている。そしてついにはカワサキまでがファンの声に応えてシリンダーヘッドの再生産を始めたのだ。
Z1はまだまだ走り続ける。
深いフィンと丸いカムカバー美しいZ1のエンジン。最近シリンダーヘッドが川崎重工業から発売された。メーカーも特別な思いのあるバイクなのだ
2017年の東京モーターショーで発表されたZ900RS。Z1をオマージュしたそのスタイルに多くのファンが殺到した。初期型は火の玉カラー、2020年にはイエロータイガーが登場