硬派なライダー向けに180°クランクの高回転ツインを搭載!
カワサキがZ750FX系列の末弟としてZ250FTをリリースしたのは1979年2月。
1970年代のはじめから、250ccのスポーツバイクは開発と製造コストを抑えるため400ccクラスの車体とエンジンを共有、シリンダーのボア径を縮小して排気量だけ250cc以下としたモデルが一般的。
しかしZ250FTはエンジンも車体も専用設計、軽量でコンパクトな250ならではのスポーツ性をアピールする、本格派のデビューと期待を集めていた。
その250cc専用ツインは、55mm×52.4mmとややショートストロークの設定で、248ccから27ps/10,000rpmと2.1kgm/8,500rpmの、高回転型出力と中速トルクにレスポンスにも強さを感じさせる二面性を持たされていた。
その特徴はクランクシャフトで、一般的な一体型ではなく、Z1以来の組み立てクランク。両側をボールベアリングとセンターにローラーベアリングを組み込んだ、高回転エンジン仕様だ。
しかもクランク位相は180°。左右のピストンが交互に上下するため振動がなく超高回転域まで伸びるメリットと、180°と540°の不等間隔爆発でパルシブなグリップ感も確かなトラクションも得られる。
フレームはダウンチューブが1本のセミダブルクレードルで、軽く前傾したシリンダーと共にリーンのレスポンスとフロントの安定感を優先した、Z系の乗りやすくコーナリングで攻めやすいアライメントとなっている。
そしてそのフォルムは、Z1000MKIIにはじまるZ750FXにZ400FXと同じ「角ゼット」と呼ばれた角のあるスリムな燃料タンクで、いかにもカワサキなのが一目瞭然なデザインが人気を呼んだ。
リリース後(A1)、同じ1979年の末には車体カラーを変えたA2が加わり、1981年モデル(A3)ではオートカムチェーン・テンショナーでメンテナンスフリー化、1982年のA4で角形ヘッドライトに変更、続くA5でCDI点火と時代に沿った進化が反映されている。
その乗り味は、スリムでコンパクトな構成でありながら、400ccクラス以上ともいえる安定感に包まれ、大型バイクのようなフィーリングの質感を楽しませるバイクとして好評だった。
ツーリング向きなハンドリングと、車体やエンジンの頼もしさなど、距離を走るライダーには、これぞカワサキといわせるアイデンティティが脈々と流れ、そうした信頼の厚さで選ばれた傑作マシンのひとつに違いない。