ザッパーグリーンともいえる、往年のZ650を彷彿させるカラーで登場したNEW Z650RS
ザッパーは、カワサキミドル最長ファミリー!?
かねてから噂のあったカワサキのZ650RSが、ついに発表された。まずは欧州モデルだが、日本でも2022年の春に販売が予定されているので期待に胸が膨らむ。
1970年代、大人気を博していたトップモデルの900 Super 4、すなわちZ1より軽快に扱える4気筒というコトで、400~500ccと900の間を埋め、かつ“750より速く”というコンセプトで開発された初代Z650。
当時のカワサキは、風を切る擬音の“ZAP”からZAPPER(ザッパー)という愛称を作り、自社のスポーツバイクのコンセプトに掲げていた。それだけに軽快なZ650はザッパーを体現するバイクといえ、いつしか“Z650=ザッパー”と呼ばれるようになっていた。
そんなザッパーの構想と、そこで生み出された空冷4気筒エンジンは、じつに長きに渡ってカワサキのミドルクラスを支えてきた。“旧車はよく知らない”というバイクユーザーでも、ZEPHYR750をご存知の方は多いと思うが、じつはこのバイクもザッパーエンジンを搭載している。というワケで、まずはZ650すなわちザッパーから連なるバイクたちを見てみよう!
1976 Z650
新登場のZ650RSのモチーフとなったバイク。当時のフラッグシップだったZ1系より一回り小さく軽量コンパクトで、750ccより速い650ccとして開発。気軽に乗れて速い4気筒として欧米で人気を博した。派生モデルでクルーザー(CSR/LTD/SRなどグレードも多種ラインナップ)も登場し、650ccモデルは1983年頃まで販売された
1980 Z750FX-II
1973年に登場したZ2がリファインを重ねて1980年のZ750FX(D3)まで続いたが、国内の750ccライバル車に対抗すべく、Z650のボアを広げて738ccに排気量を拡大した空冷4気筒エンジン(同時に各部をリファインし、キックアームを廃止)を搭載。扱いやすく速さにも定評あったが、デザイン的にいまひとつ人気を得ることができなかった
1981 Z750FX-Ⅲ
Z1000Jに似た角タンクに変更し、FX-Ⅱ発売から10カ月足らずで登場。FX-Ⅱ/Ⅲともに国内での販売は1年のみだったが、輸出はそれぞれ3~4年ほど継続された
1982 Z750GP
国内モデル初の電子制御式燃料噴射(DFI)を装備。テールカウルやサイドカバーなどの外装パーツ、角型ヘッドライトや一体式のメーターケースはZ1100GPを踏襲するデザインに変更。Z1000R風のビキニカウルもオプションで販売された
1983 GPz750
エンジンはキャブレター仕様に戻されるが、リヤのユニトラックサスペンションなど足周りやフレームを完全刷新し、エアロフォルムのカウリングも装備。翌1984年には水冷4気筒エンジン搭載のGPZ750R(いわゆる750ニンジャ)が登場するが、1984年に車名がGPz750Fになり、1985年にはセンター&アンダーカウルを装備して継続販売。国内でのザッパー系は、ここで一旦休止となる……。ちなみに当時は車名がGPz(末尾のzが小文字)だと空冷エンジン、GPZ(末尾のZが大文字)だと水冷エンジンと使い分けていたようだ
1991 ZEPHYR750(写真は2006年のファイナルモデル)
1990年8月に空冷Zのイメージを色濃く漂わせるゼファー750が登場。エンジンのベースはGPz750Fだが、カムカバーをZ1/2風の丸型に変えたり、シリンダーヘッドのフィンの角も丸く、クランクケースのエンジンカバーも少しレトロな形状に変更している。2006年のファイナルモデルまで15年間、リファインを重ねながらも(1996年~2002年の間はスポークホイールのZEPHYR750RSも販売)基本スタイルを変えずに、近年では珍しいロングセラーモデルとなった。そして1976年に誕生したZ650の空冷4気筒エンジンも、ゼファー750と共に幕を下ろした
1999 ZR-7
ZEPHYR750のエンジンをベースに、カムカバーやヘッドの冷却フィンを角型に変更し、モノサス(ユニトラックサスペンション)装備のフレームに搭載したスポーツネイキッド。日本ではあまり盛り上がらなかったが、ヨーロッパではカウル装備のZR-7Sと共に人気を得た。知る人ぞ知るザッパーエンジン搭載車だ。2003年まで販売
2002 ZR-7S
ZR-7にフレームマウントのハーフカウルを装備。扱いやすさとリーズナブルな価格によるコストパフォーマンスの高さは一級品。2005年まで販売された
1984 750Turbo
750ccクラスながらリッタークラスに迫る112psを誇るターボチャージャー装備車もあった。エンジン本体はZ650を祖とするGPz750がベースとなる
Z650の空冷4気筒エンジンは、Z1/2系で用いられた組み立て式クランクではなく、時代の変化によるメンテナンス環境の向上に合わせ、かつ軽量化策としてプレーンメタル支持の一体式クランクシャフトに変更された。また、後にライバル車に対抗する高出力化(=排気量の拡大)を見据えた設計がなされ、実際に登場から4年後には652ccから738ccに排気量をアップしている。そして先に記したバイクの他にも、クルーザーのZ750LTDやZ750Spectre、米国の関税対策で排気量を縮小した700LTD、ツーリングに適し耐久性に長けたシャフトドライブのZ750GT(欧州で人気。1982~1994年まで13年間も販売!)など、非常に多くのバイクに採用された。1976年のZ650から2006年のZEPHYR750まで、じつに30年も使われた名機なのだ
Z650RSが搭載する水冷2気筒は、もはや名機と呼べる新生代の“ザッパーエンジン”だ!
新型Z650RSを見て“4気筒じゃないんだ……”と思った方もいるだろう。しかしカワサキは4気筒だけでなく、古くから2気筒モデルも力を入れてきた。たとえば1972年のZ1発売から間もない1974年には、2気筒の400RS(後のZ400)が登場。400ccながらメインターゲットは国内ではなく、アメリカ市場に向けられていたのだ。
じつは2気筒モデルは欧州でも人気が高く(免許制度や保険などの影響も大きい)、1980~1990年代は水冷モデルも数多くリリースされた。GPZ900RやGPZ1000RXの4気筒を半分にしたような“ハーフニンジャ”と呼ばれる500ccクラスの水冷2気筒を搭載したGPZ500Sなどが高い評価を得ており、このあたりは日本と異なる文化といえるだろう。
そして2006年代に新たな水冷2気筒エンジンを搭載したER-6nが登場。このエンジンがリファインを重ね、多くの車種に採用され、ついにZ650RSの心臓に選ばれた。カワサキのミドルスポーツを牽引してきたザッパーは、現代もその意志を受け継いでいるような気がしてならない。そんな“新世代ザッパー”と呼べる水冷2気筒エンジンを抱くバイクを紹介しよう!
2022 Z650RS
欧州モデルとして発表され、2022年春には日本にも導入を予定するZ650RS。Z900RSより一回り小さく28kgも軽量(欧州モデル)なところは、まさにかつてのZ1とZ650の関係を彷彿させる
2006 ER-6n
Z650RSをはじめ、現行の水冷2気筒650ccエンジンの元となるのがこのモデルで、フルカウルを装備したER-6fも同時に発売。2009年に最初のモデルチェンジを受け、2011年にはフルカウルのER-6fがNinja650Rに車名を変更。2012年のフルチェンジではフレームやエクステリアが大きく変わり、エンジンは吸排気系に手が入り、フルカウルモデルはNinja650に車名変更。そして2017年モデルチェンジで、ネイキッドモデルの車名がER-6nからZ650に変更。近年のZ/Ninja構想の一環とはいえ、ついにザッパーが蘇った!
2020 Z650
Z650RSの直接的なベースとなるバイク。カワサキのスーパーネイキッドZシリーズに共通する「Sugomi」デザインを与えられる。2020年モデルはEURO5を考慮して、よりクリーンな環境性能を実現
2021 Ninja650
Z650をベースに扱いやすさを重視しながら、スーパーバイク選手権で戦うZX-10RRをイメージさせるフルカウルとカラーを纏うミドルニンジャ。アップして身体に近いハンドルや快適性を考慮したタンデムシートなど、ルックスから想像できない利便性もセールスポイント
2021 VULCAN S
2016年に登場した本格クルーザー。シャシーもデザインも専用だけにイメージが湧かないかもしれないが、搭載する水冷2気筒エンジンはZ650がベースだ
ZEPHYR750と入れ替わるように誕生した、新世代ミドルエンジン
Z650RSが搭載する水冷2気筒エンジンは、2006年登場と歴史が長く、同じ年に姿を消したZEPHYR750最終モデルの空冷4気筒エンジンと入れ替わるように誕生したのも興味深いところだ。熟成はもちろん、厳しさを増す排出ガス規制にもしっかり対応するべく進化を重ねる。ZEPHYR750最終モデルの空冷4気筒と比べても、最高出力は同じ68psを発揮し、最大トルクはゼファー750の5.5kg-mに対して6.5kg-mと大幅に勝っている。初代Z650が“750より速い650”をコンセプトにしていたことを考えても、Z650RSとこの水冷2気筒エンジンを“新世代ザッパー”と呼んで過言でないだろう