‘60年代に英国製スポーツで流行った
スクランブラーにホンダが真っ向から本格挑戦

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ホンダCL72 1962年

’50年代末期から’60年代はじめにかけて、アメリカ向けの英国スポーツバイクは、こぞってセンターアップ・マフラーを装着したモデルをラインナップに加えた。
400~500のシングル、500~650のバーチカルツインを、オフロードで遊ぶシーンが流行り、メーカーもマフラーが地面と擦らないようシート下へたくし上げた配置と、前輪に後輪と同じブロックパターンのタイヤを履いたり、ハンドルがジャンプの衝撃で曲がらないよう左右をブリッジで結び、フロントフォークを泥や跳ね石から守る蛇腹のラバーブーツを装備する一連のスタイルが確立された。

この英国勢に挑戦を開始した日本製250スポーツにも、早くからこのセンターアップ・マフラーのバリエーションが加えられていた。
250ccでも650ccクラスのトップスピード100マイルが可能で、手ごろな価格をセールスキャッチに日本製250スポーツの先陣を切ったホンダCB72に、1962年にはCL72という、オフロードを意識したモデルをデビューさせたのだ。

CB72からセルモーターを外し、英国勢と同じく排気系を左側のセンター部分へ2本を束ね、燃料タンクを小容量化、前後19インチと大径化してフロントフォークにラバーブーツ、そして何とフレームもCB72のダイアモンド型式ではなく、ダウンチューブとエンジンガードのあるシングルクレードルとビッグバイクにひけをとらない本格装備を徹底。
それだけに、いま見ても全く旧さを感じさせないカッコよさを放っている。

ヤマハをはじめスズキ
センターアップ・マフラーのモデルを投入

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ヤマハYDS-3C 1966年

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スズキTC250 1967年

ヤマハ製スポーツバイクを世界に認めさせた1964年の250ccYDS3にも、CL72に負けじとYDS-3Cというセンターアップマフラーのモデルを1966年に追加。
2ストロークでマフラーに中央部分を膨らませるチャンバーが必要なことから、2本の排気系は左右へ振り分けるデザイン。
エンジンガードに前後ともブロックパターンのタイヤとハンドルブリッジが加えられた。

スズキも同様に当時の250看板モデルT20を、一連のスクランブラー仕様を採り入れたTC250を1967年に投入。
このセンターアップ・マフラー流行りは国内向け125ccや90cc、それに50ccスポーツでも見られたほど、デザインのひとつとして定着をしていった。

いまも輝きを失っていないスクランブラー・デザイン、
日本勢はそれぞれの個性に溢れていた

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カワサキA1SS 1967年

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ホンダCL450 1970年

この流れに海外向けでは日本勢最後発だったカワサキも、初の勝負を賭けたSAMURAIのA1にセンターアップ・マフラーのA1SSを追加。
ただ2ストロークでも左側へ2本出しという、デザインを優先した処理に割り切るあたりが、個性の強さを重視するカワサキらしかった。

そしてCB750フォアをセンセーショナルデビューさせたばかりのホンダは、それまでフラッグシップだったCB450に、スクランブラー仕様のCL450をラインナップ。CL72で早くからスクランブラー・デザインを手がけてきただけに、センターアップの取り回しやサイレンサー・デザインまで流石の迫力。

こうしたスクランブラー・デザインの採り入れた方をみても、日本メーカーが挑戦に次ぐ調整に明け暮れていた頃の勢いというかセンスというか、いま見てもNewモデルで登場したら欲しくなってしまう魅力がある。
最近、海外勢のデザインを後追いするばかりの日本勢に、あの頃の輝きと勢いを取り戻して欲しいと願うばかりだ。