スポーツバイクはレーシングマシンと一線を画す、
ヤマハのこだわりがアンチTZRネイキッドを生んだ
1990年、ヤマハから従来の車名ルールに倣わない「R1-Z」が登場。
そこには新しいジャンルを標榜する意が込められていた。
'80年代にRZ250が火をつけたレプリカブーム、それは毎年Newモデルを投入するまでにエスカレートし、遂にはレーシングマシンと同時開発されるというレプリカのスタンスを逸脱する過激な状態にあった。
ヤマハは元祖YDSシリーズから、スポーツバイクはサーキットではなくツーリング・ユースで優れた性能を伝統的に追求してきたメーカーだ。
ライバルとの闘いにワークスマシンYZR500直系のTZR250で実力を誇示したものの、本来のフィロソフィを守る機種の復活を唱えるスタッフから、いわゆるネイキッドの企画が持ち上がり開発がスタートした。
カウルを持たないとはいえ、スポーツの上位を占める性能は絶対条件。エンジンは当然のTZR250をベースとした。
ただ2ストも進化は著しく、クランクリードバルブやフラットバルブキャブレター、可変排気ポートのYPVSも継承しつつ、新たに吸気チャンバーを設けたY.E.I.Sで、パーシャル・スロットルでの小開度レスポンスを向上させる新機軸を採り入れていた。
しかも点火はマイクロコンピューター制御のデジタル進角。YPVSとも連動した特性は、市街地での低い回転域でも鋭くダッシュできて、デリケートな開度コントロールで操れる特性が武器となった。
そしてファンを驚かせたのが右出しのクロスチャンバーのテールにあるサイレンサーがカーボンであること。
メーカーで既にカスタムしている装備など考えられなかっただけに、R1-Zが濃いファンへ向けたコンセプトであるのを明確に訴えていた。
TZR250と同じディメンション、でも異なるフレームetc.
そして車体はレプリカへのアンチテーゼからアルミデルタボックスは流用せず、パイプをストレートに配したワイドトラスフレーム。
但し足回りとの融合など、アライメントから各部サイズは理想のハンドリングをとんでもなく引き上げてしまった傑作TZR250の座標軸そのままのディメンションを流用していたのだ。
φ38mmの大径フォークインナーや、リーザーバータンクが車体の奥でチラ見できるサス性能をアピールするデザイン等々、レーシングマシンは詰めれば究極はどれも同じで個性がない、自由度のあるネイキッドこそ、パフォーマンスを個性としてエンジョイできるファンの心の行き着くトコロ!をいかにも漂わせていた。
そして走り出した「R1-Z」は……整然とヤマハらしく良い子を演じると思わせていたファンの度肝を抜いたのだった。
異端児は走りもワイルド!?
曰く、発進でちょっと油断してスロットルを捻り過ぎると、瞬く間にウイリーを演じる。
コーナーからの立ち上がりで、路面を無視したようなラフな扱いで駆け抜けると、後輪が左右へ暴れて振り落とされそうになる……。
およそヤマハには似つかわしくない、ワイルドに振る舞う暴れ馬ぶりに、手ごわいとかリスキーとかの声がファンバイクとしての面白さで語られはじめたのだ。
そんなこれまでにない独り歩きなキャラクターに、ほぼマイナーチェンジなしに1999年まで継続生産される、隠れたベストセラーとなったのだ。
こうした逸話を含め、ヤマハでは数少ない熱きカルチャーを語れるバイク、R1-Zのような賛否両論で騒がれる新しい次元のバイクこそ、これからのネイキッドに求められるファクターに違いない。